【ブラックギルドside】ストライキで問題が露呈する

「もうやってられるか!」


「俺達だって道具じゃねぇんだ!」


「そうだ! そうだ!」


 ギルドメンバーが抗議をし始めた。


「し、静まれ! 静まらんかっ!」


 アルバートは大慌てで対応をする。


「やってられるかよ! ろくな賃金も払われずに過酷な高難易度クエストを押し付けやがって! それで冒険者ギルドからの報酬は半分くらいは抜いてるんだろ! 上層部は何の危険も冒さずに大金が手に入ってくるっていう寸法だ!」


「今まではそれでも何とかやってこれた! 怪我をしてもモンスターの状態異常攻撃を食らっても、シオンさんがいれば治るっていう安心があったからなっ! でも代わりに入ってきたヒーラー達じゃそんな事はできねぇ! 俺達が安心して危険なクエストに挑む事はできねぇんだ!」


「そうだ! そうだ! 俺達は俺達が安心して働ける職場を希望するっ!」


「俺達はシオンさんが帰ってくるまで絶対に働かねぇ!」


「そうよ! そうよ!」


 ギルド員が一致団結してギルド側に抗議をしてきた。『ブラック・リベリオン』の主な業務は冒険者ギルドへの冒険者の派遣である。いたるところにある冒険者ギルドのクエストにギルド員を派遣する。その仲介をするのが主な業務である。派遣されるギルド員がいなくなれば業務が回らなくなるのは自明の理であった。


「ま、待て待て! 落ち着けお前ら!」


「いーや! これが落ち着いていられるか! こんなブラックギルド辞めてやるっ!」


「そうだ! やめてやればいいんだ! こんな糞みたいな職場!」


「ま、待て! 俺が何とかする! だからそれまで待っててくれ! それまでは休職でいい。普段使えなかった有給も使用して構わん!」


「へっ。当然だ。言っとくけどシオンさんが帰ってくるまでは絶対働かないからなっ」


「ええ! 当然よ」


 ギルドメンバー達はストライキを終えた。


「ふう……」


 アルバートは胸を撫でおろす。だが、これで根本的問題が解決したわけではない。問題は山積みであった。


「ギルド長!」


 秘書が駆けつけてきた。


「役員がお呼びです! これより役員会議を開くと!」


「なんだとっ! ま、まあ。予想通りではあった。誤魔化していたが、こんな様子を見せられれば誤魔化しきれるはずもないだろう」


 アルバートは観念して役員会議に出向くのであった。


 ◆◆◆


「一体どういう事なのだ! アルバート殿!」


「どういう事とは、どういう事でしょうか?」


「しらばっくれるなっ! ストライキの件だ! なぜギルド員がストライキなど起こしている!」


「ぐっ!」


 アルバートは口ごもった。


「話せ! アルバート殿! 黙っていては話が進まぬではないかっ!」


 役員がはやし立てる。


「実は我々の計画及び運営しているギルドに重大な問題が発生しまして」


「なんだと! 問題だと! アルバート殿! 貴殿は問題はないと言っていたではないか」


「それは……そのですね……なんと申しますか」


「いいから早く説明しろ! 最悪貴様のクビが飛ぶことになるのだぞ! アルバート!」


「ひ、ひいっ! ク、クビですか! それだけはご勘弁を」


「いいから早く話せ! まさか、貴様! 我々に嘘をついていたな!」


「う、嘘ではございません!」


「いいや、嘘をついていたに決まっている! わが身可愛さ故に我々に嘘をついたのだろう!」


 ひたすらに叱責され、アルバートは困り果てていた。


「嘘ではございません! 計画は順調であります!」


「ほう……順調か」


「はい! 計画は順調! 順調であります! 何の支障もありません!」


「……そうか」


「役員の方々、どうか私しばらくの猶予をいただけないでしょうか?」


「猶予だと?」


「はい。二週間? い、いえ! 一週間でいいのです! それだけの時間があれば、この些細な問題を解決してみます!」


 そもそも些細な、と誤魔化しているが問題が起きているのでは計画が順調だという言葉と矛盾しているではないか。


 明らかに見苦しい言い訳ではあった。だが、一応は役員は怒りを治める。


「わかった。一週間だ。一週間だけ待ってやる」


「アルバート。一週間以内にこの『些細な問題』を解決するのだぞ」


「は、はい! 必ずやこの『些細な問題』を解決してみせます!」


 アルバートはなんとか役員からの叱責をクリアしてみせた。だが、問題が解決したわけではない。


問題点は二つだ。ヒーラーが重症者を治せず、ギルド員がストライキを起こしている事。

そして獣人の国にシオンがいて、医療独占により獣人国の植民地化を邪魔する可能性が高い事。


この二つを一挙に解決する方法がある。それはシオンが『ブラック・リベリオン』に帰ってくる事だ。

そうすれば万事解決する。アルバートはシオンを呼び戻してくる決意をした。シオンは今獣人の国にいるはずだ。


獣人の国は険しい場所にある。危険なモンスターも出現する。その上、ギルド員は全員がストライキをしておき、誰も連れていけない。一人でいかなければならない。


しかしアルバートは他に方法がなかったのだ。


(そうだ。シオンさえ連れて帰れれば全てが上手くいくのだ)


アルバートは一人、獣人の国を目指す覚悟を決めた。






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