エミリアとの再会

「あなたは」


 王城を歩いていた時の事であった。


「この前の……シオン様ではありませんか」


 エミリアに出くわす。


「なぜ私とわかるのです。私は仮面をしていたはずですよ」


「それはもう。一度剣を交えた相手ですから。忘れるはずもありません」


「そうですか……その通りですね」


「それに後ろの二人にも見覚えがあります。二人は仮面も何もつけてはいなかったではないですか。見間違えようもありません」


「それを言われますと、確かにその通りです」


「それでどうしてシオン様が王城にいるのです?」


「それは……」


 私は素直にここに来た目的を話した。


「まあ、そんな事をするギルドが存在するのですか」


「信じてくれるのですか?」


「はい。あなた達の目からは邪気を感じません。ですから本当の事などだとわたしは感じます」


 何となく理解する。彼女はそういったものを見抜く観察眼に長けているのだ。私の持っているスキルによる診察(スキャン)などという特殊なものではない。


 生まれつきの才能(タレント)と言えるかもしれない。


「それで私はブラック・リベリオンが悪事を平然と働けるのには他に理由があると考えました。これは推察の域を出ませんが、王国の上層部とブラック・リベリオンが繋がっているのです。その結果として年一回の監査でも明るみにならないのです」


「やはりそうでしたか。わたしは常々あの宰相は怪しいと思っておりました」


「そうですか。あの宰相ですか。私達が国王に直訴に来た時、えらく感情的になって否定してきました。何かあるな、とは直感的に思ったのですが」


 いくら何でも相手は宰相である。国で二番目にえらい人物と言っても過言ではない。そんな人物相手にろくな証拠のないまま、疑わしいというだけで自白剤を打つわけにもいかなかった。


「あの男の目は邪気に満ちているのです。わたしを見る目も異様なものでした」


「そうですか」


「父から証拠もないのに疑うのは良くないと言われてはいます。ですがわたしも自分の直感を疑う事はできないのです。悪い予感がします」


「そうなのですか」


「シオン様、よろしければわたしに協力させてください」


「え?」


「連中の悪事を暴きたいのです。そして宰相の悪事も暴きたいのです。無論、疑いにすぎませぬ。断言はできないかもしれません。ですがその場合でも疑いが晴れるだけでもいいのです。やる価値があるとわたしは考えています」


「そうですか。是非お願いしたい、と言いたい事ですが」


「はい」


「具体的にどのように調査をするのでしょうか?」


 相手も馬鹿ではない。そう簡単に調査ができるとは思えない。


「宰相の監査にはお供が何人かいます。そのお供に紛れて監査に同行しましょう」


「バレませんかね? エミリア様なんて特に顔が割れているでしょう」


 ちなみに私は完全にブラック・リベリオンに顔が割れていた。何せ元々の勤め先なのだ。


「それはこれですよ」


 エミリアは幻惑の仮面を取り出す。


「マジックアイテムの効果で誤魔化すのですか?」


「はい。そうなります」


 相手が幻惑を見破るスキル類を持っていたら終わりではあるが、有象無象の連中では見破る事は不可能であろう。


「監査はいつになりますか?」


「もう宰相は明日にでも監査へ向かうそうです。そのブラック・リベリオンへの監査に」


「……そうですか」


「ですから今日は泊っていってください」


「よろしいのですか?」


「はい。使用人にはわたしの友人としてもてなすように言っておきます。父と宰相には顔を会わせないほうがいいでしょう。客室なら多くが余っています。北の客室でしたら国王にも宰相にも会う事はありません」


「そうですか。それは嬉しいです。是非お願いしたいです」


「はい。泊って行ってください。それで明日の宰相の監査に同行しましょう。そしてその悪事を突き止めるのです」


「なんだか探偵みたいになってきましたね」


 そうユエルは言う。


「そうですね。その通りです。悪事を突き止めるのは探偵の役割みたいなものです」


 私達は明日の監査に同行するためにエミリアの厚意で王城に寝泊まりする事になった。

  

 だが、その時はまだ、明日の監査を前にあんな事が起こるとは思ってもみなかったのである。


 ◇


 そこは宰相の部屋であった。宰相は魔晶石で会話をしている。その上、盗聴などを防ぐ結界を張っていた。当然のように聞かれたくない重要な会話があった為だ。


 会話の相手は当然のようにブラック・リベリオンの人間であった。その相手はアルバートであった。


「宰相殿、明日の監査の件はわかっているのであるな?」


「はい。わかっておりますとも。何を見ても知らぬ存ぜぬ。おつきの者もこちらの息のかかった者を同行させますよ」


「そうですか。それは良かったですな。これで我がブラック・リベリオンも安泰。監査さえ乗り切れば後は適当に誤魔化しておけば外部には漏れますまい」


「それでアルバート殿、わかっているのですかな? こちらの要望を」


「わかっております共。あなたの望みは叶えます。あなたは国王になりたいのでしょう。そのためには国王と、そして王位継承権を持つ娘――エミリア殿が邪魔なのでしょう」


「そうそう。その通りです。あくまでも外部の人間がたまたま潜伏して殺害したという事にしたいのです。しかし大丈夫ですかな。エミリア殿は剣聖の称号を持つ傑物です。なかなか一筋縄ではいかないのでは?」


「大丈夫であります。不意を突いて油断させる事ができれば」


 アルバートは小瓶を取り出す。


「なんですかな? その小瓶は」


「これは当ギルドで開発した猛毒です。この小ささで大型のモンスターすら即死させられるほどの毒を秘めております」


「ほお」


「ですから人間など僅かな量でも死に至らしめる事ができます。あの剣聖エミリアでも例外ではありませぬ」


「ぐっふっふ。それでは私の国王への道は開かれたという事ですな」


「ええ」


「実に楽しみでありますな。ぐっふっふ」


「ぐっふっふっふ! アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」

 

 二人は防音用の結界を張っている事を良いことに、大笑いをしていた。哄笑が室内響き渡る。

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