王城へ
宿で一泊した私達は王国デュランダルの王城を目指した。
「とまれ!」
当然のように門のあたりには門番がいた。
「何者だ! 貴様達!」
「私達は獣人の国からの使者です」
「使者だと?」
「王国デュランダルの国王にお会いしたいのです。王女からの直訴状もあります。どうかお会いする事は叶わないでしょうか?」
私は王女から頂いた手紙を門番に渡す。
「当然のように私達に決定権はない」
「しばらくそこでお待ち頂けないでしょうか?」
「はい。わかっております」
私達はしばらく待たされる。
「暇ですね。先生」
「ええ。暇です。今は待つのが仕事なんです」
「何かゲームでもして暇をつぶしましょうか」
「ゲームですか?」
「はい。ゲームです」
「どんなゲームでしょうか?」
「しりとりです」
「しりとり?」
「ええ。言葉で遊ぶんです」
「はぁ……構いませんが。暇ですし。ヴァイスさんもやりますか?」
「はい」
こうして私達は暇つぶしをしていた。
◇
しばらくして門番が帰ってくる。
「通って良いそうです」
「そうですか。では入らせて貰います」
私達三人は王城へ入っていく。そして謁見の間にたどり着いたのである。
◇
私達の目の前には王国デュランダルの国王がいた。髭を生やしていたがまだ若々しい。中年すら言えない、青年と言った方がふさわしい男だ。
「私が王国デュランダルの国王だ。獣人の国からの使者か……。一体どういう用件かね?」
「はい。私はドクターのシオン・キサラギと申します」
「ドクター!? 聞いたこともない職業(ジョブ)だ」
「人の怪我や病を治す職業(ジョブ)だと思って頂ければ差支えありません」
「それでドクター、シオン殿。何故に我が王国を、そして私を訪ねた」
「はい。実は王国にあるギルド『ブラック・リベリオン』が非社会的な行いをしている疑いがあります」
「疑い?」
「はい。疑いです」
アルバートとレイドールの自白も信憑性には乏しい。物証はないのだ。自分としては確信を持てているが他人を信用させるには物足りないと感じている。国王に自白剤を打ち込み、その効果を信用させるというのも聊か行き過ぎた行為であろう。
「ブラックリベリオンは裏から糸を引き、ここにいる獣人の姫、そして竜人の姫の祖国に疫病を故意に流行らせようとしました。その結果として医療独占を企み、実質的な植民地化、利益の独占を企んでいたんです」
「なに!? それは本当か!?」
「はい」
「とはいえ、いきなり現れた男の発言を。いくら獣人国のお墨付きがあったとしても全面的に信じるのは難しいのだ。それは君もわかってくれるだろう? シオン殿」
「はい。おっしゃる通りでございます。ですので監査をしていただけないでしょうか?」
「監査?」
「はい。監査です。理由は何でも構いません。監査をして欲しいのです。その結果、何かまずいことが起こった場合、より大々的な監査を」
「ふむ。監査か。だが理由のひとつもなく監査をする事は難しい」
「もうすぐ年一回の監査日です。その監査日をかこつけて、以前よりもっと入念な監査を行って頂ければと考えています」
ギルドには年一回監査が入る規定があった。それはギルド運営上の法律である。
「黙れ! そこのならずものめがっ!」
小男が入ってきた。陰湿な印象を受ける男だ。
「宰相」
「国王陛下! なんですかそこの男は!」
「獣人国からの使者で、ドクターのシオン殿というそうだ」
「ドクター!? 聞いたこともない職業です。獣人国からの使者であるという事を差し引いても怪しげな男ですぞっ! 国王陛下、そのような男の言う事を信じるのですかっ!」
何となくではあるが、私は察した。宰相はブラック・リベリオンと裏で繋がっている。年一回の監査。それにも様々なまずい出来事。そういったものをもみ消したりするにはブラック・リベリオンの力だけでは及ばない。
こういった国の権力者が協力しているのであろう。だがこれは推測だ。何の確証もない宰相に自白剤を注射針(ニードル)で打ち込むわけにもいかない。
「うむ。その通りだの。シオン殿。監査は例年通り、入念に行っていく。だからそれでこの場は引き取ってはくれぬかね? シオン殿」
「わかりました。何卒よろしくお願いします」
私達は一礼し、その場を去っていった。これ以上の抗弁に意味を感じなかったのだ。
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