【ブラックギルドSide】 ギルド長と役員の誤算

「クックック。全ては計画通りです」


【ドクター】であるシオンを追放した『ブラックリベリオン』の役員たちはほくそ笑んでいた。


「そう。計画通り。あの給料泥棒のシオンとかいう【ドクター】をクビにしました。もうすぐヒーラー学院から幾人もの若く、そして給料を安く抑えられるヒーラーが幾人か到着します」


「ええ。全ては計画通りです。あの男は性格的に受け入れられない部分がありました。あのまま野放しにしていれば、我々の計画に水を差した事でしょう」


「そう。獣人の貴族と裏で繋がり、獣人の国に疫病を蔓延させる。その上で、ヒーラーや治療薬などの治療費をこちらの言い値で要求する。貴族と結託する事で獣人の国を裏から牛耳り、実質的に我々の植民地とする予定なのです」


「その為にも期待していますよ。ギルド長アルバート。あなたの仕事っぷりにこの計画がかかっているのです」


「はい。必ずやお役に立ってみせましょう」


 アルバートは役員たちにそう語る。


 ◆◆◆


「全ては計画通り。順調だ」


 アルバートは窓から外の景色を見下ろし、コーヒーを飲んでいた。優雅なコーヒーブレイクの時間。しかし、この後アルバートの予想を裏切るような出来事が起こり始める。


「ギルド長!」


「なんだ?」


 ギルドメンバーが突如駆け込んでくる。


「ほ、報告があります!」


「なんだ!? 血相を変えて。要件を言え! 俺とて暇ではないのだ!」


「報告があります。今回のクエストに参加したメンバーのうち、十数名が負傷しました。そのうえ、何人かはモンスターの状態異常を受け、身動きが取れない状態です」


「新たにヒーラーを雇っただろうが! そいつに治療させればいいだろう!」


「それがどうやらそうもいかないようです! 至急医務室に来てください!」


「ちっ! 面倒なっ!」

 

 仕方なくアルバートは医務室へと向かった。


◆◆◆


「うっ……ううっ……」


「水だ。水をくれっ! 水をっ!」


 医務室のベッドでは多くの冒険者たちが傷つき、病に苦しんでいた。


「何をしているのだ! 貴様っ! さっさと治さないか!」


 シオンの代わりに採用したヒーラーの一人に詰め寄る。


「そ、それが……できないんですよ」


「な、なぜだ!? なぜできないのだ!?」


「ポイズンドラゴンのブレスはただの毒ではないんです。猛毒なんです。その毒に侵された者は竜死病という、完治の難しい死の病を受けるんです」


「……竜死病?」


「はい。ヒーラーに治せるのは基本的な毒状態だけなんです。こんな猛毒状態の患者、我々にはとても手がつけられないです」


「な、なんだと! ではこいつらは治せないというのか!」


「はい。我々ヒーラーでは治す事ができません」


「あの使えない男で出来た仕事だぞ!?」


「何を言っているんですか! 我々はこんな仕事聞いていません! 我々はヒーラーにできる仕事だから来たというのに」


「そうです。そうです。無理なものは無理なんです。それ以上、要求してくるなら、このギルド俺達辞めさせて貰いますよ」


 それは困るのだ。ヒーラーがいなくなれば回復や治療の一切ができなくなってしまう。


「うっ、ううっ」


 結局アルバートは口ごもってしまう。


「くっ! なんという事だ! これでは次のクエストの時に、人員を大きく減らして構成しなければならない! 挑めるクエストにもおのずと限界が見えてしまう」


「それを我々に言われても困ります」


 ヒーラーたちは苦言を呈する。


「くっ! なんという事だ! 今までこんな事は一度としてなかったというのに!」


 アルバートは頭を悩ませる。そして、シオンが去り際に言っていた言葉を思い出す。『ヒーラーができるのは基本的な体力回復、それから軽度の状態異常のみです。ヒーラーでは治せない奇病、難病も世の中には存在致します』

 それがシオンの言葉であった。


「まさか、奴の言っていた事は本当だったのか」


 脳裏にシオンをクビにした事がミスだったのではないか、その疑念が湧き上がってきた。


 いや、認めん! 認めんぞ! そんな事は決して! 他に何か方法があるはずだっ!


 必ずこの危機を何とかしてみせるぞっ!


 アルバートはそう考えていた。だが、この時、アルバートはまだ知らなかった。スキル【ドクター】はシオンの固有(ユニーク)スキルであり、シオンが他に代わりの効かない唯一無二の存在であるという事を。


 彼及び役員は知らなかったのである。





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