「ヒーラーの方が安上がりだ!」と追放されたが私じゃないと患者さん死にますよ? ~治せないから戻ってこいと言われても『ドクター』スキルでもあなたたちは手遅れです。あ、患者さんはこちらでお待ちください~
つくも/九十九弐式
ドクター、ブラックギルドを追放される
「シオン・キサラギ! 貴様は本日限りでこのギルド『ブラック・リベリオン』を除籍とする!」
それは突然の宣告だった。
「おやおや、声も出なくなってしまいましたかな?」
「無駄飯食らいを続けて我がギルドに多大な迷惑をかけてきたペテン師だ。きっと今にすごい言い訳をしてくるぞ?」
「いやいや、もしかすると万策尽きて暴れだすかもしれませんな」
「それは怖い怖い」
そう言って笑い合う『ブラックリベリオン』幹部陣。
無駄飯食らいというならまさに彼らのことを言うのだろう。
行き場を失って天下った貴族の子息、それに媚びへつらうだけで地位を高めてきた役員陣。
『ブラックリベリオン』の未来を薄暗いものにする元凶がまさに、目の前に揃い踏みだった。
「今なんとおっしゃいましたか? ギルド長」
「何度も言わなければわからんのか! 貴様はクビだ! シオン!」
私の名はシオン・キサラギ。ギルド『ブラックリベリオン』で医療行為に従事しているドクターだ。休みもなく働き、家にも帰れないまともに寝る事もできない環境、精神をやんだギルド員の面倒もみてきた。
そんな中、突如呼び出された役員会議でギルド長ガーラン・ロマネスクからクビを言い渡されたのである。
「なぜですか? どうして私がクビなのです?」
「クックック。まだ自分が置かれている現実を理解されていない様子です」
「ガーラン殿。いい加減こやつに真実を告げてやってはいかがですかな?」
「貴様のやっている医療行為などヒーラー(回復術士)でも変わりが効く。ヒーラー学院から安価で使用できるヒーラーが何人も採用できそうでの。貴様は用済みというわけだ! わかったか!!」
「クックック! 何か言いたい事はありますかな? シオン」
「泣いて媚びてくれば、我々の気が変わるかもしれんぞ。そうだな。とりあえずは犬のように這いつくばり、靴を舐める事から始めるとしようか。クックック」
「いいんですか?」
「何がだ?」
「ギルド長及び役員の方は御存知ない様子。ヒーラーができるのは基本的な体力回復、それから軽度の状態異常のみです。ヒーラーでは治せない奇病、難病も世の中には存在致します」
「クックック! わが身可愛さ故に虚言まで放つようになったか! 媚びへつらうどころかそのようなはったりで我々を脅すつもりか!」
「自分のやってきた仕事がヒーラーでもできる、ありふれた代わりの効く仕事だという事を認めるのが怖い様子だ」
「何を言っているのだ! そんなものは存在しない! クビを逃れたいが故の見苦しい言い訳だ!」
私は真実を伝えただけだ。しかしギルド長及び役員たちは断固として耳を傾けようとしない。医療に関して無知なのに、なぜそんなものは存在しないと断言できるのか。私は甚だ疑問であった。
「いいんですか? 私をクビにするとこのギルドは怪我人や病人に溢れ、たちまち立ち行かなくなっていきますよ?」
「がっはっはっはっは! 見苦しい言い訳だ! もはや貴様は用済みだ! さっさと荷物を纏めて出て行けっ!」
「左様です! 我々はもうヒーラー学院から何人もの安価で使う事ができるヒーラーを雇用する予定なのです! 貴様のような給料泥棒など不要!」
「シオン・キサラギ。貴様は自分がお払い箱になっている事すら気づかない無能なのか!」
真実を告げたのだが、とても聞き入れられる様子がない。返ってきたのは罵詈雑言だけだ。
こうして私は勤めていたギルド『ブラックレギオン』を追われる事となったのである。
◆◆◆
私がギルドを出ていこうとした時だった。そこにはかつて私が治療をした多くのギルドメンバー達がいた。
「待ってください! まさかギルドをでていかれるのですか!」
「ええ……もう決まってしまった事ですので」
「そんな……! シオンさんが出ていくなんて絶対に間違っています!」
「そうです! 私の症状はもはや死を待つだけだったのにドクターのおかげで……!」
「俺だってそうだ! あんたがいなきゃまた腕が吹き飛んだ時どうすりゃいいってんだ!?」
「シオンさん!」
「シオンさん!!!」
「そう言って頂けて嬉しいです。皆様の御武運と御多幸を祈ってますよ」
「くっ……あんな良いドクターはいなかった。今度入ってくるヒーラーなんて当てになるかどうか」
「上の連中は馬鹿な無能ばかりだっ! この人がいなければ俺達のギルドは終わりだっていうのに!」
「ううっ……」
多くのギルドメンバーは涙していた。こうして見送られながら職場を去るのであった。
◆◆◆
「さて……これからどうしましょうか」
『ブラック・リベリオン』での医療行為は過酷を極めはしたが、それでもそれなりに充実したものであった。とはいえ、元々私はあまり『ブラックリベリオン』のやり方にはあまり賛同できなかった。ギルドメンバーに過酷なクエストを無理強いさせ、怪我や病気に侵されても私に丸投げし、何とか運営を成り立たせていた。それだけではない。もっと表に出せないような黒い事に手を染めているという噂すら存在する。
『ブラックリベリオン』はいわゆるブラックギルドであった。それを考えると今回の決定は僥倖であったのかもしれない。
だが同時に私は途方に暮れていた。これからどうやって生きればいいのか。何を成せばいいのか。わからなくなってしまっていたのである。
ブラックギルドをクビになり、途方に暮れていた。そんな時の事であった。
悲鳴が聞こえてきた。そしてモンスターの鳴き声も。
「あれは……ウォーウルフ」
モンスター、ウォーウルフ。狼型のモンスターでもさらに凶暴で攻撃的な危険種である。
そのモンスターに襲われている馬車があった。幾人もの傭兵で馬車を守ってはいるが、ウォーウルフの攻撃を食い止めきれない。
「ぐあっ!」
「うわっ!」
「これは見捨ててはおけませんね」
私はその場に駆けつけた。
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