監査の日
「ぐっふっふっふ! ついに完成したぞっ!」
アルバートが歓喜の声に震える。
そこはブラック・リベリオン地下の研究室での事だった。
巨大な培養試験管の中には恐ろしい生物がいた。そのモンスターはベヒーモスのようであったがそれよりももっと巨大でまがまがしい見た目をしていた。
「キング・ベヒーモスの強化培養に成功したぞっ!」
捕らえたベヒーモスを試験培養菅の中でさらに遺伝子操作をし、強化を施す。
その名付けられた名前はベヒーモスの中の王という事で『キング・ベヒーモス』と名付けられた。
このキング・ベヒーモスはブラック・リベリオンにおける切り札のような役割を果たしていた。
主として国家の武力制圧の際を目的として作られたのだ。
そして、これからキング・ベヒーモスが自分たちの言う事に絶対服従するように遺伝子操作をし、魔術回路を植え付ける予定であった。
「ぐっふっふ! 我がブラック・リベリオンの計画は完璧! 完璧だぞっ! これで役員の方々もきっとお喜びになるっ! そうに違いないっ! ぐっはっはっは! ぐっはっはっは! 良い気持ちだわいっ!」
確かにシオンを失ったかもしれない。だが、それでもやはりブラック・リベリオンの基盤は盤石である。そうアルバートは考え始めていた。
「アルバートギルド長!!」
「ん? なんだ? 俺は今大変気分がいいのだぞっ! 邪魔をするでないっ!」
ギルドの研究員が一人駆け込んできた。
「それが大変なんです! 話をお聞きくださいっ!」
「なんだ? 落ち着いて話してみろ」
「はい。それがですね。なんでも監査の際に宰相のロバート殿の都合が悪くなり、こられないそうなのです」
「なんだと!! それは本当か!?」
「はい。本当です」
「それで代わりに誰が来るのだ!?」
「それが国王陛下だそうです!!」
「なんだと!! 国王陛下だと!! 国王陛下は王女エミリアと一緒に我がギルドの暗殺部隊が暗殺したはずではないかっ!」
「それがっ! どうやら失敗したそうです! 理由はわかりませんが! ご存命らしいですっ!」
「まずい! これはまずいぞっ! すぐに役員方々に連絡しろっ!」
「はっ!」
こうしてブラック・リベリオンは大慌てをしていた。
◇
「これはこれは国王陛下。なぜ急に我々ブラック・リベリオンの監査にお越しになられたのですか?」
私達の前にはアルバートが姿を現す。国王を除き幻惑系のアイテムを装備しているため、アルバートは私達を認識できていない。普通のお付きだと思っているようだ。
「それにしても宰相はどうなされたのですか?」
「宰相は都合が悪く監査を行えない事となった。代わりに私がきたのだ」
「そうですか。まさか国王陛下自らがお越しになるとは思いもしませんでした」
「何か不都合でもあるのかね?」
「あ、ありませんともっ! 我がブラック・リベリオンは清廉潔白でありますっ! ですから何も普通などありません! 我々のギルドはクリーンな社風で有名でございますからっ!」
どこがだと私は突っ込みたかったが、まさかバレるわけにもいかないので黙っていた。まだ正体を明かすタイミングではない。
「それでは中を見させてもらうぞ」
「は、はい。構いません」
私達は中に入っていった。
◇
「なんだか、ギルドの人達元気がないですね」
ユエルは呟く。幾人かのギルド員とすれ違ったが、とても同じ人間とは思えない。覇気が皆無であった。生気を感じない。
「そうですね」
「まるでゾンビのようですね」
エミリアが呟く。
「はははっ! たまたま、調子が悪いだけですよっ! たまたまっ! 人間ですもの! 調子が悪い日もありますっ!」
「すべてのギルド員の体調が悪いのか? おかしくはないか? 働かせすぎではないか? 一人や二人体調が悪いというのなら仕方がないが、全員となると異常だぞ」
「ははっ。そのような事はありませんっ!」
「どうなんですかっ!? シオン先生」
ユエルが耳打ちしてくる。私は診察(スキャン)で調べた。大体種族など凡その情報くらいなら接触せずとも見ただけでわかる。
「間違いありません。ここのギルド員は大半がゾンビになっています」
「ええっ! 本当ですか!? シオン先生っ!?」
「しっ。声が大きいですよユエルさん」
「すみません。ですが、彼らはもともと人間だったんでしょう?」
「ええ。見た顔もあります。私が治療した人もいますから。ですがこんな死人のような顔ではありませんでした。恐らくはゾンビにさせられたのでしょう」
「なんとむごい」
ヴァイスは嘆いた。
「それでは、アルバート殿。監査を引き続き行う。この施設には地下があると聞いているぞ」
「ギクッ! なぜそれをっ!」
その辺の施設あたりの情報も宰相から聞いておいた。なんでもやばい実験をしているらしい。
「そのあたりも見せてもらおうか。さあ、地下へ連れていくがよい」
「は、はいっ!」
アルバートもさすがに国王には逆らえず、言われるがままであった。私達は地下へ案内される。
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