火竜との戦闘、卑劣な不意打ち
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
レッドドラゴンの咆哮が森の中に響く。空気が震撼し、木々が揺れた。
「診察(スキャン)」
私は診察(スキャン)を開始する。凡その事は理解できる。相手のレベル。攻撃力。防御力。HP。弱点。
弱点は見るからに明白だった。堅い皮膚に覆われていて肉体的な弱点はさほどないが、属性的にみれば水属性が弱点だ。
レッドドラゴンはこちらを見止めると、炎のブレスを吹いてきた。
「きゃっ!」
「下がっていなさい」
私はユエルに促す。
「注射針(ニードル)。冷却剤」
私は注射針(ニードル)に冷却材を込める。そして吐き際、口に打ち込んだ。
ピキィ!
レッドドラゴンの口が瞬く間に凍結した。驚いているようだ。これで炎のブレスも牙も使えまい。
「やはり火竜です。冷却剤はよく効きますね」
「す、すごいです! 流石シオン先生です!」
ユエルが感激をしていた。
「大げさですよ」
「く、くそっ! 貴様! 何者だ! ドクターとはなんだ! 聞いた事がないぞ! ヒーラーのような類ではないのか!」
「ドクターはドクターです。それ以上でもそれ以下でもありません」
「くっ。やはりあの晩、暗殺者を退けたのは偶然でもまぐれでもなんでもなかったのだな」
「ええ。それでは留めを刺しましょうか。何、私はドクターです。命までは取りませんよ。麻酔で少し眠ってもらうだけです」
私は注射針(ニードル)に麻酔を込める。
「く、くそっ!」
完全な不意打ちだった。レイド―ルは腰から銃を引き抜いた。
「危ないっ! 先生っ!」
ユエルは私を庇った。銃で撃たれる。
「うっ、ううっ……」
ドサッ。撃たれたユエルは地面に倒れうずくまる。
「くっ! あなたが眠っていなさい!」
私は珍しく怒気を露わにした。
「ぐ、ぐあっ!」
レイドールに注射針(ニードル)を撃ち込む。麻酔により即効で動けなくなる。
「あなたにはまだ聞きたい事があります。それに私はドクターです。生き物を殺す事はありません。そこのドラゴンテイマー」
「ひ、ひっ!」
「火竜を引っ込めてどこかへ消えなさい」
「わ、わかりました。おい、いくぞ」
ドラゴンテイマーは火竜を連れて、森の奥へと消えていった。
「しっかりしてください! ユエルさん!」
銃弾は胸部に命中したようだ。胸に血が滲んでいる。
「良かった……先生。わたしは先生の専属看護師(ナース)です。少しでも先生のお役に立てたら嬉しいです」
「馬鹿な事がありますか。こんな役の立ち方、私は望んではいませんよ。すぐに治療します」
私は否応なく、ユエルの服を脱がせる。
「あっ……」
ユエルのふくよかな胸が露わになる。美しいはずのその膨らみも、今は血の色がにじんでおり、どこか痛々しかった。
「恥ずかしいです……先生におっぱい見られちゃいました」
「そんな事言ってる場合ですか! 羞恥心など命の重要さに比べれば微々たる問題です! 今すぐ手当をします」
私はまず執刀(メス)を作り出し、ユエルの体内の銃弾を取り出す。そして、神の手(ゴッドハンド)でユエルの胸を癒す。
ユエルの胸の中から直接治療する。瞬く間に傷が塞がっていった。
「ふう。これで完治完了です」
ユエルの胸は元通りになった。すぐにユエルの顔に褐色が戻ってきた。
「わーい! ありがとうございます! 先生!」
柔らかい感触が私の胸板に伝わってくる。
「だ、抱き着いてこないでください! あなた自分の恰好気づいていますか? 服を着てください」
「あっ! そうでしたっ! すみません!」
ユエルは慌てて服を着る。
「まったく」
私は溜息をついた。
「それで先生」
「なんですか?」
「レイドールさんどうするんですか?」
「殺されかけた相手をさんつけするのは実にユエルさんらしいです。獣人の国まで連れて行き、目を覚まし次第、自白剤で知っている事を全て喋らせます」
「はい! わかりました! どうやって運ぶですか?」
「私は悪人にまで優しくはありません。縄で縛って引っ張っていきましょう」
「はい!」
こうして私達はレッドドラゴンとの戦闘を終え、貴族レイドールを確保した。だが帰りの道中で思いがけない人物と遭遇するとは夢にも思っていなかったのである。
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