竜王バハムートを探しに向かう

 竜人四姉妹を治した私達は竜王バハムートを探し、飛び立つ。私達は白竜となったヴァイスに乗り込み、天空を飛ぶ。その他の竜人は竜に変化(トランス)をし、自在に空を飛んでいた。


「見てください。シオン様」


「ん? 何かありましたか?」


「あの場所です。もの凄く地形が荒れ果てています。自然災害によるものと思えません」


「本当です。それいよく見ると人のような影が見えます」


「降り立って見てみましょう」


「「「「はい」」」」


 様々な色の竜が降り立っていく。


 ◇


「うっ、ううっ」


 地表にいたのは竜人の青年であったようだ。見た目ではわからないが、何となくヴァイス達の表情や態度で察する事ができた。


その体はボロボロである。全身傷だらけで満身創痍だった。


ヴァイス達は駆け寄っていく。


一瞬にして人の形に戻る。便利なものであった竜人は。


「し、しっかりしてくださいっ!」


「一体何が?」


 聞くまでもない質問だったかもしれない。


「……バ、バハムート様だ」


「やはり」


 私は呟く。状況的にそれしかありえないだろう。竜人を持ってしても御せない相手などそう多くはない。


 竜王バハムートはその数少ない存在の一人なのだろう。


「俺達捜索隊はバハムート様を発見し、接触したんだ。そうしたらいきなりバハムート様が攻撃をしてきたんだ。やむなく交戦をしたんだけど、それはもうコテンパンでこの様だよ」


「やはり予想通りバハムート様は狂竜病にかかっているようです」


「間違いありませんね……お母様はやはり我を失っているのです」


 ヴァイスは嘆く。


「それでバハムート様はどこにいったのです?」


 狂化し、これから自分達の敵になるであろう存在を様つけするのもおかしな話である。


 だがどうなったしても彼女が自分達の王であるという事に違いはないのだ。


 竜人にとって彼女は今でも王なのである。


「我々を撃退したバハムート様は北へと向かいました」


「北ですか。そちらへ向かいましょう」


「「「「はい!」」」」


 漠然とした指針ではあったがないよりはマシである。目標には前よりも近づいているのだ。今は一歩前に進めた事を喜びたいと考えている。


 ◇


「はぁ……はぁ……疲れたよ」


「しっかりしなさいよフレイム!」


「だって病み上がりなんだよ! 何時間飛んでると思ってるんだよ!」


 他の者も口には出さないが疲労しているのは明白であった。


 既に夜を迎えそうだ。これ以上の飛翔は危険か。無理をさせるわけにもいかない。無理をするだけで全て解決するわけではない。


 私もまた最近、その事を学んだばかりではないか。


「少し地表に降りて休憩しましょう」


 私は提案する。


「はい。シオン様に従います。皆の者、地表へ降りますよ」


「「「「はい!」」」


 合計五匹の竜が地表へ降り立つ。


 ◇


 私達は森の中に着陸する。


「今日はもう遅いです。このあたりで一晩夜を明かしましょう」


「「「「はい!」」」」


「申し訳ありません。私が仕切るような真似をして。本来はヴァイスさんがするべきなのでしょうが」


「いえ、構いません。シオン先生は私達の体調の変化にすぐ気づかれました。あのままでは疲弊し、飛ぶことも適わなかったでしょう」


「でも夜の森ですよ。寒くないですか?」


 緊急の為テントなど持ってはいない。聊かキャンプをするには準備不足と言える。


「じゃ、じゃーん! 炎(ファイア)」


 フレイムは適当に集めた木材に口から火を吐いて着火させた。


「さ、流石は竜人です! 口から火が吐けるなんて」


「どんなもんよ!」


「エ、エアロだって! そおれっ!」


「きゃっ!」


 風の竜人であるエアロが暴風を繰り出す。ユエル及びヴァイスのスカートが捲れあがり、中身が見えたが無視をしよう。


 今はそれどころではないのだ。嬉しくなかったといえばそうではないが。こほん。


「わっ! 馬鹿! 何で風を起こすんだよエアロ!」


「火を強くしようと思って! 後フレイムばかり目立つの癪だったからエアロも目立ちたかった!」


「目立ちたかっただけだろ! 見ろ! 炎が舞い上がって、森に燃え移っているだろう!」


「あっ、本当だ!?」


「今更気づいたのか!?」


 このままでは山火事になる。


「仕方ありませんねぇ」


 水の竜人であるアクアは溜息をついた。


 指からぴゅーっと水流を吹き出す。


「これで鎮火です」


「ありがとうだぜ、アクア!」


「いえいえ。いつもの事です。アクア達姉妹はいつもトラブルが絶えませんので」


 こういう事には慣れている様子だった。


「ぐぬぬっ! 皆ばかり目立ってずるいっ! ティータも目立ちたいっ! えいっ!」


 地の竜人であるティータは地震(クエイク)を発生させた。地震で地面が揺れる。


 グラグラグラグラ。木々が大きく揺れた。


「やめろっ! 馬鹿ティータ! エアロ以上になんで能力発揮したかったかわからないだろ!」


「ティータも目立ちたかったのだ! 皆目立ってるのにずるいのだ!」


「それだけだろ、もう!」


「それはそうとお腹減った」


「餌取ってこようぜ」


 ぜ、とは女の子らしくないがフレイムの言である。私ではない。私はそんな口調はしない。


「森の動物とか魚、誰が一番獲れるか競争だぜ!」


「ええ、いいですわ!」


「望むところなんだ!」


「やってやるのだ!」


「よーい!」


「「「「ドン」」」」


「ははは……」


「全くあの姉妹は賑やかですね」


 ヴァイスは嘆く。


「楽しくていいではないですか。退屈しませんよ」


 ◇


「よし! 大量! 大量!」


 竜人四姉妹は大量の動物、および魚を抱え戻ってきた。森の熊や狼、イノシシ。巨大な魚までバラエティに富んでいる。


「結局誰が勝ったんですか?」


「引き分け!」


 それはもう仲がよろしい事で。


「では料理をしましょうか。料理といっても大層な事はできませんが」


「大丈夫だぜ! フレイム達は生でも食べられるんだぜ!」


「実に女の子らしさも優雅さの欠片もありませんが食べるだけなら調理せずとも」


「食べられるのだ!」


 竜人四姉妹はガツガツと生肉や生魚を口に放り込む。


「そうなのですか……ではヴァイスさんも」


「う、ううっ……先生、幻滅しましたか?」


「いえ、別にしていません。何でも食べられるのでしたらそれに越した事はありません」


「そうですか……ではわたしもお腹が減っていまうので食事を取らせて貰います」


 ヴァイスは口を開け、平気で熊にかじりついた。竜が熊を捕食していると考えれば自然だが、美少女が熊をまるかじりしているのはシュールでもあった。


「どうかしましたか? シオン先生」


「なんでもありません。私は調理させて頂きます。ユエルさんは生肉派ですか?」


「そんなわたしを獣(けだもの)みたく言わないでくださいっ!」


 こうしてに賑やかな晩御飯を終えたのである。








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