王国デュランダルでの出来事
王国デュランダルでの事であった。王城、そして王室での出来事だ。
「お父様」
一人の少女がいた。腰に剣を携えた美しい少女だった。ただ美しいだけではない。凛とした印象のある芯の強い少女だ。気高く美しいが、他の者を寄せ付けない雰囲気があった。棘があるのだ。美しい花ではあるが棘のあるもの。
高嶺の花だと思い誰もが手を出さない。そういった印象を持つ少女だ。
「あの男をいつまで使うおつもりですか?」
彼女の名はエミリア・デュランダル。この王国の王女である。腰に剣を携えているのは伊達ではない。彼女が剣聖と呼ばれるほどの剣の腕前を持っているからである。
巷での評価では王国でも最強の剣士であると目されている。
王女であるという気品を持っていると同時に棘のようなものを感じさせるのはそういう理由からきているのである。
「あの男とは?」
「宰相の事です」
不機嫌そうにエミリアは告げる。
「エミリア、宰相をあの男呼ばわりは頂けないよ」
父である国王は告げる。まだ若々しい。威厳を保つために髭を生やしているが、それでも青年と呼ばれても違和感を感じないほどだ。
国王ハインズは若くして妻リーゼロッテを失った。そのため男で一人――より正確にいえばベビーシッター頼みでエミリアを育ててきたのだが、その育て方からか、あまり他人に敬意を払わないところがあった。
剣の腕が立つようになったのがその傾向に拍車をかけている。そうハインズは分析している。
「あの男――いえ、宰相からは嫌な空気を感じるのです」
「嫌な空気?」
「あいつがわたしを見る目、いただけないのです。生理的に不快感を覚えます」
「エミリアは美しいから男がつい目で追ってしまうのは仕方のない事だろう」
「そうではありません。あれはもっと悪意を持った視線です。嫌な予感がします」
「エミリア。証拠もないのに人を疑うのはよくない事だ」
「申し訳ありません。お父様。出過ぎた言葉を。では、剣の稽古がありますので」
エミリアは王室を去った。
◇
その時だった。エミリアは宰相とすれ違う。卑屈な印象を受ける背の低い男だ。ゴマすりと作り笑顔が得意の。貴族の出自というだけで他には取り立てて良いところの見当たらない。
エミリアからすれば見どころのない男だった。宰相の名をロバート・クロフォードと言う。
「これはこれはエミリア姫。父である国王陛下のところへ行っていたのですか?」
「別に貴公に話す義務などない」
「おやおや。これは手厳しい。どうやら私はエミリア姫に嫌われてしまっているようです。私が何かしましたかな?」
「別に何もしていない。だがこれから何かしないとも限らない」
「もしかしてですが、王室で私の話でもされていたのではないですかな? 自意識過剰ですか?」
「ぐっ」
エミリアは口ごもる。だがそれは肯定を意味していた。ロバートは完全に察していた。
「わたしは剣の稽古がありますので、失礼します」
エミリアはその場を去っていった。やはり嫌な視線がする。雰囲気がする。
そしてその後、エミリアの直感が正しかったという事を誰もが思い知ることになるのである。
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