キングベヒーモスを猛毒剤で即死させる

 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ティータのクエイクで倒れていたキング・ベヒーモスは起き上がると同時に、恐ろしいまでの咆哮をあげた。



 空気が震撼し、地響きがする程のものだ。


 私は注射針(ニードル)を抱える。中身は当然毒だが、ブラック・リベリオンが保有していた猛毒を研究し、アレンジしたものである。


 これだけ大量にあればあのキング・ベヒーモスですら絶命たらしめるものであろう。


 キングベヒーモスは口を開いた。中から熱量のようなものを感じる。白竜になったヴァイスは人間と比べると数倍は巨大なモンスターなのではあるが、そのヴァイスが子猫のように見える程、キング・ベヒーモスのスケールは段違いであった。


 放たれてるのは竜のブレスと同じような攻撃だと推察できた。


「ヴァイスさん、避けてください」


「は、はい。何とか避けてみますけど、私の速度でも避けきれるかどうか」


「なに。簡単です」


「せ、先生。何を、あっ、ああっ! だ、だめですっ! 先生! ああっ!」


 私は挿入した。ヴァイスは色っぽい声をあげる。勿論注射針(ニードル)である。


 何を勘違いしているんですか? いくら何でも竜になったヴァイスにいやらしい真似をする性的嗜好は持ち合わせていませんよ。人間型の時でもするつもりはありませんが。


「筋力強化剤(ドーピング)です」


「あ、ありがとうございます。先生! 身体が軽いです! 力がみなぎってきます」


「では張り切っていきますよ! ヴァイスさんっ!」


「はい!」


 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 放たれたキングベヒーモスのフレアは大地をなぎ払った。王国ごとなぎ払うような強烈なブレス。無数の建物が一瞬にして融解する。


「今です! ヴァイスさん! 首筋に突撃してください!」


「はい!」


 私とヴァイスはベヒーモスの首筋に飛び乗る。


「よっと!」


 私は猛毒入りの巨大注射針(巨大ニードル)を構える。


「患者様! 暴れないでくださいよ! こいつを喰らって! 安静にしていてくださいっ!」


 ぷすっ!


 私は情け容赦なく注射をした。即効性の猛毒だ。効果はすぐに現れた。


 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 キングベヒーモスの悲鳴が王国中に響く。特大の断末魔であった。


「ヴァイスさん、私を乗せて離れてください!」


「はい! わかりました!」


 私はヴァイスの背に乗り、再び大空へと飛び立つ。


 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 キングベヒーモスは悲鳴をあげながら、崩れ落ちた。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 もの凄い音を立てつつ、地面に激突する。


「やった! シオン先生! 流石です!」


「シオン様……あのお方はこの国を救ってくれたのですね。流石わたしに勝ったお方です」


 私は大地に降り立った。


「先生! 流石です!」


 ユエルが抱きついてくる。柔らかい、ではない。今そんな事をしている場合ではない。


「ユエルさん! 今はそんな事している場合ではありません! ブラック・リベリオンの地下からウィルスが流出したんです! 大勢の人々が苦しんでいます」


 私は調剤した治療薬を渡す。


「苦しんでいる人々を救うのが看護師(ナース)の役目です。皆さんの活躍に期待していますよ」


「「「はい!」」」


 私はユエルとヴァイス。それから竜人四姉妹に治療薬をできるだけ渡した。


「シオン様、わたしにも渡してください。困っている国民を一人でも助けたいのです」


「わかりました。是非どうぞ」


「ありがとうございます。恩に着ます」


 エミリアも走り出す。


 その時だった。


「ぐああああああああああああああああああああああああああああ!」


「目がぁ! 目がああああああああああああああああああああああ!」


「息が出来ない、苦しいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


「うわあああああああああああああああああ! 俺もだ! 俺も目が痛いいいいいいいいいいいいいいいい!」


「私もです! ごほっ! ごほっ! 咳が止まりません! 高熱で身体が痛いですっ! なんだか匂いも感じなくなりました!」


 ブラック・リベリオンから逃げ出した役員達及びアルバートとレイドールはウィルスに感染し悶え苦しんでいた。


「これほどまでに自業自得だと思える光景はありませんね」


 私は溜息を吐いた。だが、私はドクターだ。治す相手は選ばない。例え憎き敵相手だとしても例外ではない。


「ほら。これを飲んでください」


 私は治療薬を渡す。ごくっ、ごくっ、ごくっ。連中は飲み始めた。毒を疑う余力すらなかったのだろう。何一つ言わず飲んだ。


「き、消えた! あれほど苦しかった症状がっ!」


「こいつはすごいっ!」


「ありがとう! シオン殿っ!」


「あなた様は私達の命の恩人です!」


「ありがとうございますっ!」


 役員達は大層感謝している様子だった。命を救われたのだから無理もない。


「シオン殿! あなたの力は我がブラック・リベリオンに必要なものだっ!」


「どうだ!? シオン殿! 我々と同じ役員待遇にしてやろうっ! アルバートギルド長より上の地位だぞっ!」


「そ、そんなぁ! あんまりです! 役員殿!」


「黙れ! この無能めっ! シオン殿! 報酬も好きなだけの金額を用意しようっ! だから我がブラック・リベリオンに戻ってきてくれっ!」


「お断りします」


「なんだと、なぜだっ! なぜそんな事を言う!」


「私にはもう帰る場所があります」


 私は横目で懸命に看護をする人々が見えた。私の自慢の看護師達だ。彼女達がいる場所が私の帰るべき居場所だ。


「それに私は悪事に加担するつもりはありません」


 兵士達が現れる、彼らを拘束するつもりなのだ。


「あなた達は然るべき罰を受けてください。私は治療をしただけです。あなた達の罪まで許したつもりはありません」


「く、くそっ! は、離せっ!」


「我々を誰だと思っている! 我々ブラック・リベリオンが王国にどれほどの法人税を治めてきたか知らぬとは言わせぬぞっ!」


「黙っておれ! そんなもの今回の損害で何の意味もなくなったわっ! どれほどの損害を出した事か計り知れぬわ!」


 国王は叱責した。


「くっ、ううっ!」


 皆観念したようだ。こうして役員達、ブラック・リベリオンの幹部は様々な罪状により連行されていったのである。


 まだまだ解決しなければならない問題は多い。だが、とりあえずのそころではあるが落ち着ける時間を取り戻せたと言っても良い。


 それから私達は病人や怪我人の治療に勤しんだ。おおよその治療が終わり本当の意味で落ち着ける時間を取り戻せるまで一週間程度の時間を必要とした。


 しかしやる事をやっているうちにちゃんと終わりの時はやってくるのである。


 そしてその時がやってくる。その後、私達は国王に呼び出される事となった。

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