第45話クリスマス閑話②サンタからのプレゼント


ハゲとサンタクロースが対峙する。

斧を構え臨戦態勢のハゲと、余裕の笑みを浮かべながら佇むサンタクロース。


武器の有無や体格差を考慮するとハゲが圧倒的優位なはずなんだけど・・・何でだろう。ハゲが勝つヴィジョンが全く見えないな。


「ぬぅぉぉぉっ!アックスインパクトぉぉっ!!」


「フォッフォッフォッフォッ」


おっ、ハゲが先に動いたか。

しかし、サンタクロースはハゲの振り下ろした斬撃を見切り、笑みを浮かべたまま紙一重で避ける。


「うらぁぁぁあっ!」


「フォッ!?」


「「「おぉぉぉっ!!」」」


おぉっ、ハゲもハゲでサンタクロースがあの斬撃を避けるのは想定済みだったみたいだ。

斧が地面に吸い込まれる前に両手持ちに切り替え、無理やりサンタクロースの方へと斧の軌道を変える。


ハゲって意外と攻撃のバリエーションが多彩だよな。

流石にこれはサンタクロースと言えど、避けるのは難しいだろう。周囲の冒険者たちも、ハゲが勝ったのを確信したのか喝采を上げる。


「んなっ!?」


「フォッフォッフォッ」


「おいおいおいウソだろ・・・」

「マジかよ。あれを止めるのかよ・・・」

「流石、武神・・・」


うわぁ、ハゲの渾身の一撃を指でつまんで止めるとか・・・化け物かよ。

流石のハゲをそれは想定外だったのか、口をパクパクさせている。


「フォッフォーウッ!!」


「ガバッ!?」


サンタクロースは素早くハゲの懐に張り込み、強烈な一撃を入れる。

サンタクロースの一撃をモロに受けたハゲは、お腹を抑え地面にうずくまる・・・これは、勝負あったな。


「・・・ま、参りました」


「フォッフォッフォッ」


ハゲが降参したのを見届けると、サンタクロースはソリに積んである大きな袋から何かを取り出し、ハゲの足元へと投げ込む。


・・・何だあれ?石――いや、鉱石っぽいな。


「こ、これはっ――オリハルコン・・・」


「「「「おおおおおおお!!!!」」」」


「メリィィイクリスマァァアスッ」


「サンタさんっ!ありがとうっ!!」


オリハルコンってあのオリハルコンか・・・?

ハゲと『鉄の斧』達の喜びようから見て、どうやら本物っぽいけど。


「どうやらゴードンさんの武は、オリハルコンと同じ価値があると判断されたみたいですね」


「マジか。というかあのサンタクロースとやらは、何でオリハルコンなんか持ってるんだ?」


「・・・さぁ?サンタクロースの大袋の中身は、エスバー七不思議の一つですから・・・」


そっか、七不思議か。それなら分からなくても仕方ないね。

アンバーが知らないのも無理ないわ。


「よっしゃぁっ!次は俺の番だっ!!」

「おうっ!頑張れよ!!兄貴に続けっ!」


「フォッフォーウッ」


お、どうやらハゲの次に並んでたやつが、サンタクロースに挑むらしい。

ハゲの奮闘にみんなやる気が漲ってるな。


俺も何もらえるかちょっと楽しみになってきたな。




・・・・・・・・・




・・・・・・



・・・




「よっしゃぁぁっ!少ないけどミスリルもらったぞ!」

「俺も業物の剣もらったぜ!」

「うふふ、この宝石・・・良い触媒になりそう」


「メリィィイクリスマァァアス」


「「「「サンタさんっ!ありがとうっ!!」」」


「おー、アイツらは良い物もらえたらしいな」


次々と冒険者達がサンタクロースに挑み、その武に見合ったプレゼントを貰っていく。

『鉄の斧』や『深淵の園』を始めとした高ランクの冒険者たちは、概ねみんな満足した表情でプレゼントを喜んでいる。

そりゃそうだよな。自分の実力が高く評価されたら、誰だって嬉しいもんな。


「・・・俺、引退しようかな」

「・・・お前は良い方だよ。俺なんて、そこら辺の石ころだぜ」

「・・・私は木の枝よ」


「メリィィイクリスマァァアス」


「「「「サンタさん・・・ありがとう・・・」」」」


「・・・おぉ、あっちは悲惨だな」


高ランク冒険者たちがはしゃいでる一方で、あっちで悲惨なムードを漂わせているのはアルドの低ランク冒険者たちだ。

サンタクロースはアルドの冒険者たちには袋の中身ではなく、そこら辺に落ちている物を拾って、それを冒険者たちに投げて寄こしていた。


「・・・俺なんてそこら辺の石ころと一緒」

「ははは、俺は土レベルか・・・死にたい」

「虫の死骸って・・・」


うわぁ、アルドの冒険者たちの落ち込み方が半端ない・・・

そりゃそうだよね。自分の実力がそこらの石レベルって言われたら、誰だって落ち込むよね。


「フォッフォーウッ」


「・・・おっ?もう俺の番か」


冒険者たちの一喜一憂を眺めていたら、いつの間にか順番が回ってきたようだ。

よっし、俺も頑張りますかね!


「・・・フォウ」


「――何て覇気だ」

「くっ、サンタクロースが構えを取っただと・・・」

「やべぇ、意識が持ってかれそうだ」


「・・・本気ってわけか。いいねぇ」


サンタクロースと対峙した瞬間、サンタクロースの表情がにこやかな笑顔から真顔に代わり、無言で構えを取る。

・・・すげぇな。隙が見当たらないし、何より覇気がすごい。身体の芯までビリビリくるわ。


この感じ――ゴリラ以来かもしれん。


「よし、先手は俺からだっ!うらっ!!」


「フォッフォーウッ」


「っっぁ!!?」


先手必勝、全速からの渾身の右ストレートを放つ。

しかし俺の拳はサンタクロースに当たる瞬間、受け流されそのまま投げ飛ばされる。


うぉぉぉ、掴まれた感触も投げられた感触もなかった!

一体どうやって俺を投げ飛ばしたんだ?


「チッ、それならこれはどうだっ!!」


地面に着地した瞬間サンタへと駆け出し、再びサンタクロースへとラッシュを仕掛ける。

ふふふ、さっきは投げ飛ばされたけど。これならどうだ!反撃するヒマも与えないぜ!


俺はサンタクロースにパンチの雨を降らせる。言うなればマシンガンジャブだね。

・・・マシンガンジャブ。いいな、カッコいいな。


「フォッフォッフォッ」


「うげっ!マジかよっ!?」


何だこのジーさん!俺のパンチを――全部受け流してやがる。

流れるような動きで俺の連打を、弾くわけでもなく文字通り受け流してる・・・まるで空気や水を殴ってるような感覚だ。


「フォッフォーウッ」


「・・・あっ、しまっ――」


俺の一瞬の隙を掻い潜って、サンタクロースが俺の懐へと潜り込む。

ヤバい、ハゲと同じパターンだわ。




トンッ




「えっ?――――ガハッ!?」


サンタクロースは俺の胸を軽く叩いたかと思うと、その直後全身に張り裂けそうな衝撃が駆け巡り、俺はその場へと倒れ込む。


「こ、これ・・・ハゲとおな・・・じ技・・・」


でもハゲとは威力が段違いだ。息を吸うだけで精一杯で、指一本すら動かせねぇ・・・


「ま、まいり・・・ま・・・した・・・」


「フォッフォーウッ」


俺が息絶え絶えに降参を伝えると、サンタクロースはポケットからプレゼントを取り出しそれを俺の手に握らせる。

・・・そういうパターンもあるんか。あっ、やばい。意識が遠のいてきた。


「メリィィイクリスマァァアス」


「サン・・・タさ・・・あり・・・が・・・」


意識が飛ぶ直前に見えたのは、満面の笑みを浮かべるサンタクロースだった。

・・・流石、武神。つえぇなぁ。



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ボクが勇者?国を救え?はは、ご冗談を。~国を追放されたボクですが、森で出会ったゴリラと鹿と猪と旅をします~ いる @irugaiku

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