第17話神話の森最深部 GORIRA4
「ウボァ・・・」
「やった・・・か?」
起きるなよ?頼むから起き上がるなよ。もう気力も体力も使い果たした。ギリギリのとこで立ててはいるけど、もう無理無理!これ以上、戦えない。
白目剥いてるし気絶してるよね?・・・ねっ?
「・・・」
「気絶してるみたいだな。・・・うぉぉぉぉっ!!勝ったぞぉぉぉぉ!!」
「クルァァアア!!」
「ボァァアアッ!!」
ゴリラが気絶してるのを確認し、ボクは勝利の雄叫びをあげる。
エイスとボーズも、ボクの勝利を祝福するように雄叫びをあげる・・・ありがとう。
あっ。ちなみにエイスが鹿で、ボーズが猪だ。もうね。半年も一緒にいたら、名前つける程度には情が湧くよね。
「・・・長かった」
ボクは勝利の余韻を噛みしめる。ゴリラにぶん殴られ続けること半年、やっと殴り倒すことができた。
しかし、この半年間はすごい濃密な時間だったな。ゴリラと殴り合って鹿と猪と力比べして、時には三匹と協力して森を横切るドラゴンを襲撃したり異常成長したワームを倒したり・・・うん。今思うとめっちゃ濃ゆいわ。
「・・・ゥホッ」
「おっと、もう目が覚めやがったか」
ゴリラが目覚めたみたいだ。だが、起き上がってくる様子はない。そりゃそうだよね。これでピンピンしてたら、最早化け物だよ。
ボクは、無言で拳を振り上げる。
「・・・ずっとこの機会を伺ったんだよ」
「・・・」
「クルゥ・・・」
「ボァ・・・」
ボクの言葉に何かを察したのか、悔いはないとばかりに満足気に目を閉じるゴリラ。そして、エイスとボーズがそれを固唾を飲んで見守っている。
二匹の顔はどこか悲し気だ。だがボクはやるよ?今までの恨みつらみを、この一撃に全部乗せるよ?
ボクは振り上げた拳を・・・
「うらぁっ!!」
「ウボァッ!?」
思いっきりゴリラの口の中へとねじ込む。ははは、流石のゴリラも想像できなかったか!目をまんまる見開いてやんのっ。
だがな、まだなんだよ。これからなんだよなぁ。
「ウラァァァアッ!!」
「ウボッ!?ウボボボボッ!?」
指輪から謎の葉っぱを大量に取り出す。ははは、指輪は今ゴリラの口の中さ。つまりゴリラの口の中へ、ゼ ロ 距 離 射 出 !
口の中を許容量を超えた葉っぱに満たされて、手足をジタバタさせるゴリラ・・・うーん。爽快っ!
「うひゃひゃひゃひゃ!やってたやったぜ!おかわりは一杯あるから、たーんと食べなっ!」
「「・・・」」
ボクが負ける度に、謎の葉っぱを口一杯に詰めてくるの・・・ずっと根に持ってたんだよね。
いつかやり返す。その為だけに、ボクは強くなったといっても過言ではないっ!!
エイスとボーズが、冷めた目で見つめてるけどボクは辞めないよ?
「ふっ。葉っぱの味は美味かったか?」
「・・・ゼァッ、ゼァッ」
放出した葉っぱを食べきったゴリラが肩で息してる。・・・こっちの方がダメージ受けてない?まぁ、良いけど。
「・・・ウホホ?」
なぜ、殺さなかった?と問いかけるように、ボクを見つめてくる。
・・・最初はそのつもりだったんだけどね。ゴリラにボクを殺す気がないってのは分かってたし、何より半年も一緒にいたらそれなりに情も湧くよね。
「お前にはかなり負け越してるからな。・・・負けた分、ぶっ倒すから覚悟しとけよ」
「・・・ウホホッ」
「クルァァアッ!!」
「ボァァアァッ!!」
家族と家族同然と思ってた領民達から追い出されたボクにとって、この三匹は新しい家族みたいなもんだ。今更、殺せるわけながない。・・・恥ずかしいから言わないけど。
くっ、三匹のニヤけた笑顔がウザい。
「あ、明日からボクがボコ・・・って、えええぇっ!?」
「・・・ウホッ」
ゴリラが突然輝き始めた。輝きは瞬く間に強くなり、最早直視できないレベルだ。
どうしたゴリラッ!?ま、まさか第二形態とかになるのかっ!?お前、実力隠してたんか?
「・・・えっ?」
光が収まるとゴリラがいた場所に、白銀に輝く籠手があった。この世の物とは思えない程に美しい籠手に、思わず見惚れてしまう。良く見ると白銀の金属部分には、猛々しく吠えるゴリラが象ってあった。
って、ゴリラ・・・?
「お前・・・ゴリラなのか・・・?」
ボクの問いかけに、籠手の金属部分がキラリと光る。消えたゴリラ・白銀・ゴリラの彫り物・・・間違いない。この籠手、ゴリラだ!
「はは・・・まるで勇者王伝説みたいだな・・・」
ボクは小さい頃に、嫌になるほど聞かされた勇者王伝説を思い出す。勇者が神獣を従え聖剣として使役する。勇者王伝説の名シーンの一つだ。
ん?待てよ?・・・そうなると、あのゴリラも神獣っていうことになるけど。いやいや、ゴリラだしまさか。えっ?マジで?
「そっか、お前神獣だったのか」
「・・・」
「なぁ、元のゴリラの姿には戻れるのか?」
「・・・」
「何黙ってんだよ。本当は戻れるんだろ?」
「・・・」
「・・・クッ」
追放される前までのボクだったら、神器を手に入れて小躍りしてただろうな。でも、今は全然嬉しくないや。
物言わぬ神器より、ウホウホ言いながら嬉々として殴ってくるゴリラの方が好きだった。
「クルゥ」
「ボァ」
落ち込むボクを慰めるように、エイスとボースがボクの傍らに寄り添ってくる。どことなく二匹も悲し気だ。
・・・そうだよな。エイスもボーズもボクなんかよりも、ずっと長くゴリラと過ごしてきたんだもんな。悲しくないわけがないよな。
「・・・ボクを。いや、俺を認めてくれたってことだもんな。悲しむなんて失礼だよな」
勇者王伝説のエピソードでも、神獣は勇者を認め己を武器として使用することを許したってあったもんな。
ゴリラも・・・そういうことなんだよな。お前の気持ち無駄にはしないよ。むしろ、壊れるくらい使いまわしてやるよ。
「この籠手の扱いにも慣れないといけないしな。エイスもボーズも明日から付き合ってくれよ」
「クルァ!」
「ボアッ!」
俺もエイスもボーズも、口ではあぁ言ったけど。・・・その日の夜は、誰からともなく自然と三人で寄り添って眠った。
「ウホッ!ウホッ!」
「元に戻れるんかいっ!」
朝起きると、ゴリラが元気にシャドーボクシングしてた。
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