第21話服をゲット!
「ククク。・・・ついに、ついに俺は手に入れたぞ。服をなっ!!」
「シルスナちゃん。おかわりいるかい?」
「あっ、すいません。ありがとうございます」
「エイスちゃんもボーズちゃんも、遠慮せずにたんとおあがり」
「クルゥ♪」
「ボァッ♪」
こんにちは、どうもシルスナです。念願の服を手に入れました。
約一年振りに来た服は・・・めっちゃ違和感あるわ。でもね・・・何か人間に戻れた気がするわ。
やっぱ人間、服着てないとダメだね。
「しかし、良いんですか?服を貰った上に、夕食まで御馳走してもらって・・・」
「硬いこと言うんじゃないよ。困った時はお互い様だろ?それにこの肉だってシルスナちゃんが出してくれたじゃないか」
「まぁ、そうなんですけど・・・」
「服も気にするんじゃないよ。冒険者になるって言って出て行って、何年も帰ってこないバカ息子のお下がりさ」
ちなみに俺に服をくれたどころか、食事と寝床も提供してくれたのはこの肝っ玉かーちゃんことボラさんだ。
ボラさんは、寂れた農村に一人で住んでる農民だ。夫には先に旅立たれ、唯一の一人息子も音信不通なんだそうだ。
・・・こんな良いお母さんを一人残すなんて。って思ってたけど、こういう先のない村では、割と当たり前のことらしい。親としてもこんな所で貧しく農民やるよりかは、イチかバチかでも自分の好きなことをやってほしいらしい。
「それにしてもシルスナちゃん。あんた何であんな恰好だったんだい?」
「そ、それは・・・」
俺は言葉に詰まる。い、言えないな。魔物のメスに剥かれたなんて・・・あれから大分経ったけど、未だに俺のトラウマだわ。
「まぁ、無理には聞かないけどね」
「・・・助かります」
ボラさん、超イケメンだわ。後二十年若ければ惚れてたね。
「そういえば、この近くに大きな街ってありますか?」
「大きな街かい?これまた漠然としてるねぇ」
「ジルフィールからこっちに来たばかりで、何も知らないんですよね」
「・・・あんたまさか、あの森を抜けてきたのかい?」
「 ?えぇ、そうですけど?」
「・・・良く生きてたねぇ」
ボラさんは、感心した表情で俺を見る。そうだよね。あの森は・・・普通の人は入らないよね。
ゴブリンの集落とか、結構遺品がいっぱい溜まってるし、助けてあげる冒険者達も熟練者っぽい人達だったからなぁ。
そんな危険な場所に、突っ込んでいった俺って・・・無知って怖いわ。
「ここらで大きな街と言ったら、アルドだね」
「アルド?」
「そう、穀物都市アルド。エスバーの農業の要さ。私らの作った作物も、アルドに出荷してるのさ」
「へぇ、そんなとこがあるんですね」
「あぁ、そうさ。エスバー各地の作物が集まるから、色んなものが食べられるよ」
「ほう、例えば・・・?」
それは興味深いな。肉も良いけどたまには野菜系も食べたい。・・・アルドか、一回行ってみる価値はありそうだな。
「そうだねぇ・・・最近だとライスって穀物が流行ってるらしいよ」
「ライスっ!?」
「そ、そうだよ。私はまだ食べたことないけど、白くて綺麗でモチモチした食感が面白いって聞くね」
「・・・ふむ」
まさか、エスバーもライスの生産に成功してたのか・・・
あれ美味いんだよぁ。ライスだけで食べるとそうでもないんだけど、肉や魚・野菜と一緒に食べることで美味さが引き立つというか・・・とにかく美味いんだよなぁ。
あれがまた食べれるのか。・・・よし、決めたわ。
「ボラさん良い情報をありがとう。俺、アルバに行くわ」
「そうかい。そうかい。アルバでうちのバカ息子を見たら、よろしく頼むよ」
「息子さん、アルバにいるのか?」
「生きてりゃ、多分ね。クレスって名前のお調子者がいたら、きっとうちのバカ息子さ」
「わかった。もし会えたら何か伝えることってあるかい?」
「いや、ないよ。・・・生きてるのが分かればそれで充分だよ」
「・・・わかった」
ボラさん、やっぱ良いお母さんだよなぁ。うちの親に爪の垢を飲ませたいくらいだわ。
そういえば、うちの両親は今頃何してるんだろ?・・・ま、いっか。今の俺の家族はゴリラとエイス・ボーズだけだしな。
ちなみにゴリラは、森を出てからずっと籠手の姿のままだ。森の外の世界に興味津々なエイスとボーズと違って、ゴリラはあまり興味がないみたいだ。
二メートルのゴリラを引き連れるのは流石に目立つから、助かるっちゃ助けるけど寂しい。
「「・・・・Zzz」」
「おやおや、この子らはもうお眠の時間みたいだね」
「大分、はしゃいでたからね」
「ふふ、子供ってのはそんなもんさ」
ボラさんが、眠っているエイスとボーズに毛布をかけてくれる。
「さっ、あんたももう寝なっ」
「はーい、お母さん」
「誰がお母さんだいっ!」
「いでっ!?」
ボアさんのゲンコツは、ゴブリンの一撃並だった。
「よーし、みんなちゃんと起きてるかー?」
「クルァッ!」
「ボアッ!」
「よろしい」
明け方、まだ村のみんなも寝静まってる時間だが、俺らは村の外の畑の前にいる。
そんな朝早くに何してるかって?そりゃ、一宿一飯ならぬ一宿一飯一着の恩を返す為よ。
「ボラさんが言うには、最近猪型の魔物が畑を荒らして困ってるそうだ」
「クルルゥ!」
「ボァァッ!」
「そうだ。お前たちの怒りも分かる。なので、アルドに行く前に猪型の魔物をあらかた倒してから行きたいと思います」
「クルッ!」
「ボァッ!」
よしよし、エイスもボーズもやる気十分だな。既にボラさんの家には、大量の肉も置いてある。
後は魔物をある程度間引いて、人知れず去るのみよ。・・・何だっけ?漫画で言ってた・・・あぁ、そうだ立つ鳥跡を濁さずってやつだ!
いやね。俺の勘なんだけど、ボラさん俺らのお礼を受け取ってくれない気がする。
なら、押し付けて逃げようって算段よ。
「よし、それなら手分けして・・・ボーズどうした?」
「ボァッボァッ!」
「何々?俺に任せろって?」
「ボアッ!」
ボーズが特にやる気満々だな。同じ猪型だから感じるとこがあるのかな?
「よし、ボーズお前に任せるわっ!」
「ボァッ!!」
やけに自信満々だなぁ、一体どうやるつもりなんだろ・・・
「ボァァア!」
「いぃっ!?」
おっとボーズさん、ここでまさかの通常サイズに戻ったー!?
おいおいおい、それは不味いんじゃないのかっ!誰かに見られたら・・・って何でそんなに思いっきり息吸ってんのかな!?
「ちょ、ボーズまっ・・・」
「ボアアアアアアアアアアッッッ!!!」
「う、うぉぉぉお!・・・耳がっ、耳がががが!」
直後、体長数十メートルもあるボーズの雄叫びが辺り一帯に響き渡り、空気はおろか大地をも揺るがす。
何百何千もの鳥がその場を逃れようと一斉に空へ飛び立ち、またその咆哮に恐れをなして腰が抜けた魔物達も我さきにと体を引きずりながら村から離れようと必死に逃げていく。
「ボァッ!」
ボーズはやりきったと言う顔でウリボウサイズへと戻り、褒めて褒めてと言わんばかりに俺にすり寄る。
「う、うん。良くやった・・・よ?」
「ボァッ♪」
「クルゥ・・・」
あっ、やべ!エイスがボーズに対抗して、巨大化しようとしてる!
「エーーイスっ!もう大丈夫だから!多分もう大丈夫だからっ!」
「クルル・・・」
「良く我慢できたな偉いぞ」
「クルル♪」
俺はエイスとボーズを、わちゃわちゃ撫でくりまわす。
うーん。ちょっと俺の思ってたやり方とは違ったけど、これはこれで・・・ありなのか?
魔獣もバカじゃない。この村にボーズ級の魔物がいると知ったら、しばらくは近付く所か寄り付きもしないだろう。うん。そういうことにしとこう。
「な、なんだ!今のはっ!!」
「ま、魔物かっ!?」
「ヒィッ、ヒェェェェ」
「あっ、やべっ」
そりゃ、そうだよね。あんなバカでかい音がしたんだもの。それでまだ寝てたら、そりゃ大物だわ。
・・・見事に村がパニック起こしてらっしゃる。
「・・・よし、エイス・ボーズ。逃げるぞっ!!」
「クルッ」
「ボァッ」
全速力で駆け出す俺に、はてな顔でついてくる二匹。いやいやいや、お前たちが原因だから。
ふと、籠手見ると描かれているゴリラの絵が、呆れた顔をしてるような気がした。
立つ鳥跡を・・・濁しまくるっ!
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