エスバー共和国 アルド編

第20話街道にて


「クルル♪」

「ボァッ♪」


「あら、可愛いわね。従魔かしら?」

「微笑ましいわね」


森の外が物珍しいのか、街道をバンビとウリボウの姿でウキウキ歩くエイスとボーズ。

その愛らしい姿に、通りすがりのお姉さん達の視線もくぎ付けだ。そして、その視線が飼い主であろう俺へと向かい・・・


「「ヒッ!?」」


ほのぼのしてた表情が一転、一気に恐怖に引き攣る。


「さ、さんぞ・・・」

「ちょ、ちょっと辞めなさい!あはは・・・」


「「ごめんなさいっ!!」」


「・・・」


お姉さんが何かを言いかけたとこで、もう一人のお姉さんがそれを制止し謎の謝罪の言葉を残しダッシュで去っていった。


「・・・」


「クルッ?」

「ボアッ?」


エイスとボーズが、どうしたの?と言いたげに俺を見上げる。


「あああああああああああああ!!」


「「 っ!?」」


俺は街道のど真ん中で頭を抱え叫ぶ。突然叫びだしたもんだから、エイスとボーズが驚いている。・・・すまん。あっ、ダッシュで俺から離れていったお姉さんが更に加速したわ。


「・・・チクショウ。これで何回目だよ」


そう。この一連の流れ・・・なんと八回目である。みんな俺を見ては悲鳴をあげ、そしてなぜか謝って去っていく。


「街に行ったら服を手に入れないと・・・」


理由は分かり切ってる。そりゃ、素肌に毛皮だけ来た奴となんか関わりたくないよね。俺が逆の立場でも、逃げるわそりゃ。

でもね。分かってるとは言っても、悲鳴をあげられて逃げられたら流石に傷つくよ。


「クルルッ?」

「ボァ?」


「・・・エイス、ボーズ。ありがとうな」


エイスとボーズが、俺を心配して寄り添ってくれる。・・・あったけぇなぁ。


「あらあら、愛らしいわ・・・ヒィッ!さ、山賊ぅぅぅううっ!!」


「・・・」


「クルゥ?」

「ボッ?」


「Noooooooooo!!」


俺は膝から崩れ落ちた。











「・・・早急に。迅速に服を買わないと」


由々しき事態だ。とうとう山賊とハッキリ言われてしまった。

薄々勘付いてたよ?認めたくなかったけど、もう認めざる得ないよね。・・・俺、山賊と思われてるわ。

ただ全裸に毛皮着てるだけじゃん。髪と眉と髭がボサボサなだけじゃん・・・完全に山賊じゃねーかチクショウ!


・・・ハッ!?


待てよ?俺、街に入れるの・・・か?

九人中九人が俺を見て逃げ出すんだぞ。街に入った瞬間、山賊と間違えられて衛兵に取り囲まれるんじゃ・・・

いやいやいやいや、そんなバカなことが・・・有り得そうだ。えっ、どうしよう。服買う前に捕まるじゃん。無理ゲーじゃん。


「考えろシルスナ。考えるんだ」


約一年間使わなかった頭をフル回転させる。何か良い手を思いつかないと、俺は捕まる。最悪、無実の罪で処刑か奴隷落ちの可能性もある。

盗賊の処罰は、全国共通で死罪か奴隷落ちさせて強制労働の二択だ。冤罪で死罪・奴隷落ちなんて真っ平ごめんだよ。


「・・・ああああ。何も思い浮かばない!」


ふっ。かつては神童と言われた俺も、一年も森で暮らしたらこんなもんよ。頭が回らないわ。


「山賊は嫌だ山賊は嫌だ・・・ってエイス、ボーズどうした?」


「クルルゥ」

「ボァァ」


「・・・これは」


遠くで馬車が立ち往生してるな・・・んん?良く見ると、何か野蛮そうな連中に馬車が囲まれてるな。

多分、盗賊かな?うわぁ、裸に肩パットって・・・しかもトゲがつけてら。今時あんな蛮族みたいな奴いるんだなぁ。


しかし、どうしたもんかねぇ。助けるべきかな?あの馬車よく見ると家紋付いてるし、めんどくさいことになりそうな気がする。・・・ほっとくか?


・・・ハッ!?


待てよ?あの馬車を助けて、お礼に衣類を恵んでもらうってのはどうだ・・・?

流石じゃん俺!伊達に神童と言われただけはある冴えだ。そうと決まれば、即行動だ!


「よし、行くぞ!」


「クルゥ!」

「ボッ!」


俺はエイスとボーズを引き連れて、馬車へと駆け出した。待ってろよ!俺の服っ!









「クッ、何としても姫様だけはお守りするんだっ!!」


「「「応っ!!」」」


「けけけ、威勢だけは良いじゃねーか!」

「アヒャヒャ、お前らの鎧は俺らが有効活用してやんぜ。もちろん、お姫様もなぁ!」


「・・・外道めっ!死んでもお前らの汚い手に姫様を触れさせはしない!」


・・・おおう。何というか、すごいベタな展開になってるなぁ。馬車を盗賊が取り囲み、馬車に近づけまいと騎士達が盗賊と小競り合いをしてる。

でも、多勢に無勢だなぁ。死傷者こそ出ていないけど、騎士五名に対し盗賊は二十人はいる。この状況を切り抜けるのは・・・難しそうだねぇ。


「おいおいどうした?立派なのは口だけかよっ」


「クッ、舐めるな!盗賊如きがっ!」


「アヒャヒャ、よえぇなぁおいっ」


あっ、ヤバい。本格的に負けそうだな。そろそろ俺らも介入しますか。


「ちょぉーっと待ったぁーー!!」


「「「誰だっ!?」」」


「お困りのようで、助太刀致す!」


「「「・・・」」」


あ、あれ・・・何で静まりかえるの?盗賊も騎士もポカーンとしてる。

ほら、騎士のみなさん言うことがあるでしょ?協力感謝する!とか、かたじけない!とかさ?


「くっ、ここにきて賊の援軍か・・・お前たち、命に代えてでも姫様だけは逃がすぞ!」


「「「応っ!!」」」


あ、あれぇ・・・何故だろう。盗賊と間違えられている。いやいや、俺肩パットなんてしてないよ?


「い、いや、ちが・・・」


「黙れ!盗賊め!!姫様には指一つ触らせはしない!」


ダメだこりゃ、聞く耳もたねぇ。そして、完全に盗賊と勘違いしてやがる。


「おい。そこの毛皮のてめぇ・・・」


今度は盗賊の頭っぽい奴が話しかけてきた。そうだ!こいつに俺が盗賊じゃないことを証明してもらおう。ナイスアイディア俺!


「・・・どこの組のモンだ」


は?何言っちゃってんのコイツ?


「ここは俺のシマだ。すっこんでぶへらっ!」


「「お頭っ!?」」


俺は間髪入れず盗賊をぶっ飛ばす。何でどいつもこいつも、俺を盗賊前提で話を進めるのか。

辞めた辞めた。とりあえず盗賊全員ぶっ飛ばそう。その後から騎士達の誤解を解こう。そして、服を貰おう。


「てめぇ、良くもお頭をヘブシッ!」

「このやろハボッ!」

「や、やめはぶっ!」


お頭をぶっ飛ばされて、怒り狂いながら襲い掛かってくる盗賊達を返り討ちにする。

こいつらよわっ!森で言うとゴブリン以上、フォレストウルフ未満ってとこなんだが、数は多いとはいえ騎士ぇ・・・


「へぶらいっ!」

「いえすっ!」


「ふー。終わりかな」


「クルルッ」

「ボッボッ」


エイスとボーズも手伝ってくれたおかげで、盗賊の相手は五分と掛からなかった。

よし、盗賊は片付いた。次は騎士の誤解を解くか。第一印象は最悪だ。ここは精一杯愛想よく行こう。


「大変でしたね。だいじょ・・・って、うぉぉおおいっ!?」


「隊長!盗賊に気付かれました!」

「かまわん!このまま逃げ切るぞ!!」


「「応っ!!」」


俺は脱兎のごとくその場を逃げ去る馬車を、茫然と見つめる。

に、逃げやがった・・・俺が盗賊の相手をしてる間に、逃げやがった・・・


「そ、それが騎士のやることかよぉぉぉ!」


「ふんっ!薄汚い盗賊に言われたくはないわっ!!」


俺の魂の叫びに、罵倒で返す騎士。




・・・




・・・




・・・




「Noooooooooooooo!!」


俺はこの日、二度も膝から崩れ落ちた。




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