第9話神話の森中層部 ゴブリンの冒険とその秘宝


「・・・ゴブリン?なんでこんなとこに?」


獲物を探しがてら、森の浅層と中層の境をブラブラしてたらゴブリンの集団を見つけた。別にゴブリン自体は珍しくも何ともないけど、ここら一帯にはいないはずなんだけどなぁ。

そう。ゴブリンは森の入って浅い場所に住んでる。こんな場所にいたら一瞬で狩られると思うんだけど・・・何しに来たんだ?


「面白そうだし、着いていくか」


辺りを警戒しながらも、奥へ進んでいくゴブリン達。明らかに何らかの目的を持って進んでる感じだ。

ゴブリン達にとって、もうここは既に危険地帯だ。そんな危険を冒してまで何をしようとしてるのか、興味を持ったボクは気配を消しゴブリン達の後をついていくことに決めた。





「どこまで行くんだ?」


ゴブリン達についてきて、虫型の魔物がいっぱいいるエリアまでやってきた。まさか虫型の魔物を狩りにきたのか?・・・いやいや、どう考えても実力差的に無理なんだけど。

でも不思議なことに魔物が襲ってこないんだよね。遭遇しないとかじゃなくて、文字通り襲ってこない。オークや虫たちがゴブリンを捕捉しても、襲い掛かる所か自分からその場を離れてるんだよね。・・・なぜ?


「訳がわからん」


まっ、とりあえずもうちょっと着いていくか。ヒマだしね。





「おいおい。・・・ここって」


うげぇ・・・カメムシエリアじゃん。

森の嫌われ者カメムシ。弱いくせにやたら好戦的で誰にでも襲い掛かってくる。そのくせ自分が負けそうになると悪臭のするガスを噴射し、相手が悶絶している隙に逃げる何とも言えないやつだ。

ここは、そんなカメムシが好んで生息してるエリアだ。ボクとしては近寄りたくないけど、どうやら、ゴブリン達の目的地はここらしく。野営と狩りの準備を始めている。


「マジで狩りをする気なのか」


ここカメムシしかいないよ?カメムシは正直そんなに強くはない。ゴブリンでも複数で襲い掛かれば倒せるかもしれないけど・・・


「あの臭いはどうするんだ・・・?」


そう、カメムシにはアレがある。自身に危険が及ぶと壮絶な悪臭ガスを噴射し、少しでも嗅ぐとヘヴンへと導かれる。あの臭いのせいで、他の魔物はカメムシを襲わない。ある意味、この虫エリアの王者といっても良いくらいだ。


その王者を、ゴブリン達は狩るつもりらしい。というか、狩ってどうするつもりなんだろ。何か良い対策でもあるのかな・・・あっ、ないわこれ。意気揚々と槍を構えてらっしゃる。

こいつら・・・死ぬ気か?こいつらが何をしたいのか、ますますわからん。

もうちょっと様子を見てみるか。何か動きがあるまで、ちょっと一休みするかね。ボクは気配を継続して消し、木の上で寝転がって待つことにした。





「ギャギャッ!」

「ギャッ?」

「ギャッ!!」


「・・・おっ?」


ゴブリン達が野営の準備を整えて数刻、どうやら動きがあったようだ。大分慌ただしいけど、獲物でも見つけたのかな?


「うわぁ。本当にカメムシとやり合う気かよ」


木の上から下を覗き込むと、ちょうどゴブリンがカメムシを取り囲んでいる所だった。対するカメムシも、いつでもかかってこいやとばかりに前足を上げて臨戦態勢を取っている。


「・・・ちょっと距離を取るか」


これは、なんだか嫌な予感がする。このまま戦闘が始まると、確実に悪臭ガスが噴射されそうな気がするわ。・・・あの悪臭を思い出しただけで身震いが。念のために距離とっとこ。


「ギャッ!」

「グギャッ!」


「キシャアアア!?」


「お、始まったな」


ゴブリン達とカメムシの戦闘は・・・うん。多勢に無勢とはこのことだね。ゴブリンに一方的にボコられてるわ。

うーん。ゴブリン達の戦い方が上手いのか・・・?二匹でカメムシを前方から攻めつつ、残ったゴブリン達がカメムシの横や後ろを槍で突きまくってる。あいつら、あんな戦い方できたのな。


「キッシャアアアアアッ!!」


「むっ!来るかっ!?・・・うっ、くさっ!?くさいっ!!」


本格的にヤバいと感じたのか、突然カメムシが大声をあげる。これは・・・来るな。あのガスが噴射される前触れだ。

ボクは布を鼻と口にあて襲い来るであろう悪臭に備えた・・・が、なんてこったい。充分に距離を取って、尚且つ布で鼻を抑えてるのにも関わらず、その強烈な悪臭は衰えることを知らずにボクの鼻腔の奥に直撃する。


「はぁはぁ、だ、大丈夫だ・・・ま、まだ耐えれる・・・」


幸いなことに、臭い対策が効いたのか辛うじて意識が飛ぶのは防げた。

遠くにいるボクでさえ、このザマなんだ。至近距離にいるゴブリン達は今頃死んでるんじゃないか?


「ギャギャ?」

「グギャッ?」


「キシャ!?キシャアアアア!?」


「なん・・・だ・・・と?」


まさかのゴブリン無傷である。何かしました?ばりに、平然と立ってらっしゃる。

・・・あいつら、嗅覚ないんか?

これには、逃げようとしてたカメムシも心底驚いてる。表情がわからんけど、そんな感じだ。


「グギャッ!」

「ギャギャッ!」


「キシャアアァ・・・」


あっ。逃亡に失敗したカメムシが、とうとうゴブリンに倒された。

いやまさか、本当に倒すとは・・・しかも、何の対策もなしに。嬉しそうにカメムシに群がるゴブリン達を眺めつつ、ボクは素直に関心する。


「ギャギャ!」

「グギャ」


「キシャッ!?」


順調にカメムシを狩っていくゴブリン達。最初の一匹を皮切りに、どんどんとカメムシが狩られていく。

狩られたカメムシは積まれていき、小さな山のようになるほど増えていった。

・・・うっ、臭いが濃縮されてヤバいな。もうちょっと距離を取るか。ボクは視力限界まで離れ、次にゴブリン達が何をするのか様子を見る。


「ギャギャッ♪」

「グゲグゲ♪」


ゴブリン達は、ご機嫌で大量に獲れたカメムシの解体にはいる。カメムシは、頭部・胴体・脚とパーツごとに解体され始める。

解体が手慣れることから、どうやらカメムシ狩りは初めてじゃなく、定期的にやってるっぽいな。


「ギャギャギャー♪」


「「「ギャー♪」」」


「何だあれ?・・・あれって、ガスの素か?」


一匹のゴブリンがカメムシの胴体部分から、液体の入った透明な袋を取り出した。それを見たゴブリン達も歓声をあげる。

そういえば、どこかで聞いたことがあるな。ガスを噴射する生物は、身体のどこかにガスの元になる液体を貯蔵する器官があるらしい。多分、あれがそうなんだろう。

でも、あれをどうするんだ?喜びようからあれが一番のお目当てっぽいけど。

それからどうするのか見ていると、ゴブリンはその液体の入った袋に口をつけ・・・


「の、飲んだぁー!?」


その壮絶な光景に思わずボクは絶句する。ま、マジかよ・・・アレを飲むのか・・・


「う、うえぇ」


次々とカメムシから液体袋を取り出しては、一気に飲み干すゴブリン達を見て吐き気がこみ上げてくる。

まさかアレを飲むだけの為に、危険を冒してまでここに来たのか?実はあの液体って美味い・・・いや無理だ。ゴブリンがあの液体を飲み始めてから、確実に悪臭が濃ゆくなってきてる。

多分、ボクは近付いただけで気絶するな。やめとこう。


「ギャギャッ!」

「ギャッ?」


「「「ギャーー!!」」」


「おいおい、まだ狩るのかよ」


どうやらまだ飲み足りないらしい。ゴブリン達は再度槍を持って狩りに行ってしまった。

結局このゴブリン達は、カメムシエリアのほとんどのカメムシを狩り終えて意気揚々と自分たちの集落へと帰っていった。一応、帰りもついていったけど。帰り道もゴブリン達が、他の魔物に襲われることはなかった。


「ははーん。なるほど、そういうことか」


これはあれだな。ゴブリンにカメムシを狩らせる為か。中層の魔物は、カメムシが煩わしいけど戦いたくない。ならばどうするか。違う魔物に狩らせればいい。ゴブリンも御馳走が食べれてうれしい。

おぉ・・・WIN-WINじゃん。まさに共生だね。


「大宴会だねぇ」


ゴブリンにとってカメムシの液体は、すごい御馳走らしく。集落では火を囲んで、飲めや騒げやのどんちゃん騒ぎになってらっしゃる。

ただ飲んでるのは、酒じゃなくてカメムシの液体だから臭いが半端なく臭いけどね。


「さて、問題はあれなんだよねぇ」


臭かったけど面白いものも見れたし、このまま帰っても良いんだけど・・・


「「「・・・・」」」


ゴブリンに捕まってる人間がいるんだよねぇ。

しかも、カメムシの液体を近くで嗅いだせいか全員とも、白目を向いて気絶してらっしゃる。

三人とも美人なのに勿体ない。


「・・・さて、どうするかねぇ」


出来れば、近付きたくないんだよねぇ・・・臭いから。

でもそういうわけにもいかないよねぇ。


どうしたもんかねぇ・・・






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