第10話神話の森中層部 冒険者を助けてみた
「「「助けて頂いたのに、すいませんでしたっ!!」」」
「大丈夫だから!大丈夫だから辞めて!」
・・・どうしてこうなった。ボクの眼前で土下座をしている女性三人組を前に、ボクは思わず頭を抱える。
この三人組はゴブリンの集落で捕まっていた人たちだ。結局、見捨てることも出来なかったボクは助けることにした。
助けたは良いもののさ。カメムシの宴をしてたゴブリンの集落は・・・すごい臭いがしてて、このままだとボクも気絶しそうだったから、前に使ってた拠点に彼女達を運んで介抱することにした。
「私ったら命の恩人に向かって山賊だなんて失礼なことを・・・」
「状況が状況だったから仕方ないよ」
「・・・ですが」
この赤髪の女性は二番目に目が覚めた人で、目が覚めてボクを見るや否や「この山賊がっ!私の仲間に何をしたっ!」ってボクに殴りかかってきた。
正直、山賊扱いはショックを受けたけど。髪はボサボサ髭は伸び放題、オマケに毛皮しか身に纏っていない・・・うん。誰が見ても山賊だわ。
「・・・私も、突然泣いてごめんなさい」
「いいよいいよ。怖かったんだろ?」
「・・・優しい」
この緑髪の狼獣人族の女性は一番最初に目覚めた人で、ボクを見た瞬間「ヒッ!」って怯えて泣き出した。・・・これがね、一番堪えたね。見た瞬間泣くってさ。ボクそんなに山賊に見える?
今も怖いのか獣耳がペタンと下がっている。
「・・・あの」
「・・・あぁ、君か」
「誠に申し訳ありませんでしたーっ!!」
「・・・いや、大丈夫だよ」
そして地面にデコがめり込みそうな勢いで土下座してるこの人。この青髪の羊獣人族の女性に至っては、ボクに向かって魔法をぶっ放してきたからね。しかも「痴れ者がっ!!」って叫びながら。
何でも目が覚めたら山賊風の男に仲間の一人が取り押さえられてて、もう一人の仲間も泣きじゃくってたのを見て頭に血が上ったらしい。
っていうか、ボクが魔法を振り払わなかったらその仲間も魔法に巻き込まれてたからね?・・・一番大人しそうな外見してるのに、この人が多分一番危険だと思う。気を付けよう。
「もう良いから。そろそろ顔上げて」
「だ、だけど・・・」
「もう充分分かったから」
「は、はい。あっ、自己紹介がまだでしたね。私、エスバーで冒険者をしてるレーヤと言います。危ないところを助けてくれて、ありがとね」
「・・・フラウ。ありがとう」
「同じくレーヤとフラウと一緒に冒険者として活動していますレインと申します。命の危機を救って頂き感謝します。・・・後、本当にすいませんでしたー!!」
ほうほう、赤髪の人がレーヤで緑髪の人がフラウ。そしてあの危険人物の青髪がレインか。
しかも、エスバーの冒険者らしい。先輩じゃん。
「それで、何でゴブリンなんかに捕まってたんだ?」
「あー、それは・・・本来ならゴブリン程度に遅れは取らないんだけどさ・・・」
「うん?」
三人とも何とも言えない顔をして苦笑いをしてる。
「・・・臭かった」
「臭い?」
「そうなんです。森を進んでいたらいきなり強烈な異臭がして、気付いたらゴブリンに捕まっていました」
「そうなのよ!しかもずっと臭くて、目が覚めては気絶の繰り返しで気が狂いそうだったわ!」
「・・・辛かった」
「あー、もしかしてアレか」
彼女達の言ってることに、思い当たる節があるな。異臭の正体は、カメムシで間違いないと思う。
ボクはあの臭いに耐性があるから、ある程度は大丈夫だけど・・・アレを初めて嗅いだ彼女達は気絶してしまったらしい。しかも、運が悪いことに気絶中にゴブリンに捕まってしまったと。
「アレって・・・えーっと。あなたはあの臭いのこと知ってるの?」
「あぁ、すまん。自己紹介してなかったな。シルスナだ。あの臭いの正体は、もっと森を奥に進んだとこにいる昆虫型の魔物が発するものでな。どうやらゴブリンの大好物みたいで、定期的に狩って持ち帰ってるみたいだな」
「臭い虫・・・うぇぇ。想像しただけで気持ち悪くなっちゃった・・・」
「・・・気持ち悪い」
「あはは。まぁ、運が悪かったとしか言いようがないな。あの臭いは、至近距離だと俺でも気絶するし」
げんなりとした表情で項垂れるレーヤとフラウを、それとなく慰めの言葉をかける。
うん。あれは仕方ない。あの臭いに対抗できるのはゴブリンぐらいだよ。
・・・クゥゥ。
あっ、今誰かのお腹が鳴ったな。
「・・・あぅぅ」
どうやら、フラウらしい。赤面してお腹を押さえてる。そういえばボクもずっとゴブリンを尾行してて、朝から何も食べてないな。ちょうどいい機会だし、ここらでご飯にするかね。
「とりあえず、飯でも食べようか」
「本当っ?やったー!お腹空いてたのよね」
「重ね重ね。ありがとうございます」
「・・・ありがとう」
他の二人もお腹が空いてたらしい。喜んでもらえて何よりだね。
あっ、そうだ。せっかくの出会いだし、ボクの手持ちで一番良い肉を出してみよう。腹が減った時は、美味い肉を食べるに限るよね。うん。そうするか。
そう思い立ったボクは、指輪から薪木と・・・肉はあれでいいか。必要な物を取り出し食事の用意をする。
「あっ、その指輪って・・・もしかしてアイテムボックス?」
「そうだよ。ゴブリンの集落襲った時に、見つけたんだよね」
「えっ?・・・まさかゴブリンの集落を一人で?」
「そうだけど。何か不味かった?」
「・・・いや、そういうわけじゃないけど。話を戻すけど、指輪型のアイテムボックスって珍しいわね。しかも高品質っぽい感じもするし」
「そうなのか?これが初めてのアイテムボックスだったからな。良くわからん」
「大抵のアイテムボックスって、私が持ってるような形が多いのよ」
自分のアイテムボックスを見せてくれるレーヤ。一見、普通の小さな革袋がオーソドックスな形らしい。
アイテムボックスは高いって聞いてたけど、それを当たり前に持ってるレーヤ達って実はすごいのかな。
あ、後ついでにちょっと気になってたことも聞いておくか。
「なぁ、これゴブリンの集落で見つけて使ってるんだけど。持ち主が現れたら返さないといけないのか?」
「あーっとそれは・・・えーっと、どうだったかなぁ」
「いえ、その必要はありません。ゴブリンの集落にあったことから、その指輪の所有権は発見したシルスナさんにあります」
しどろもどろになってるレーヤに代わってレインが、ボクの問いに答えてくれる。
「ほう。それじゃあ、前の持ち主が返せって言ってきても返さなくて良いってことか?」
「はい、そうなりますね。仮に返せと申されましても、所有権は既にシルスナさんですから応じる必要はありません」
「ありがとう。とっても参考になったわ」
「いえいえ、お役に立てて何よりです」
これは、良いこと聞けたわ。この指輪便利過ぎて手放したくなかったし、これで安心して街中でも使っていけるな。
それにしてもレインは、この手の話しに明るいみたいだな。もうちょっと突っ込んだ話をしてみるか。
「ボクもエスバーで冒険者を・・・えっと、フラウ?どうしたんだ?」
「・・・お腹空いた」
「あぁ、すまんすまん。先に飯にしようか」
「・・・ん」
どうやらフラウのお腹は限界らしい。ボクを見つめる目が、早くしろって訴えてる。
まぁ、夜も長いし飯でも食べながらゆっくり聞くかねぇ。
「「「いただきまーす!」」」
「たんと召し上がれ」
「なにこれっ!めちゃくちゃ美味しいっ!?」
「本当ですね・・・お肉なのにプリプリとした食感がまた・・・」
「・・・はふはふ」
「お口に合ったようでなりよりだ」
焼き上がった魔物肉をすごい勢いで食べていく姿を見て、ボクも焼いたかいがあったもんだと満足する。
あの肉美味しいよね。ボクもそれが一番好きなんだよね。
「私、こんな美味しいお肉食べたの初めてだよぅ!」
「私もです。このレベルは・・・高級料亭でもなかなかお目にかかれませんわ」
「・・・はふはふ」
「そうかそうか!まだまだいっぱいあるからな」
肉にかぶりつくレーヤとフラウ。レインはお上品に切り分けて食べているが、食べるスピードは速い。
その食べっぷりに満足しながらも、ボクも肉を頬張る。まぁ、肉なのか身なのか分からないんだけどね。
「いやー、みんなで食べる食事は美味いなぁ」
「そういえば、シルスナさんは何でこんなとこにいるの?」
「私もそれは気になっていました。その・・・世捨て人みたいな恰好をされていますし」
「あー、俺は元々ジルフィールの人間でな。わけ合ってエスバーで冒険者をやろうと思ってるんだよ。この格好については・・・聞かないでくれ」
雌オークに襲われたこと思い出すから。未だに夢に出てくるから。
「ご、ごめん」
「・・・深入りしてしまいました」
「いや、良いんだ。・・・割と下らないことだから」
ボクの沈痛な表情に何かを察したのか、同情的な言葉をかけてくれる二人。何かここまで同情されると、逆に言えない。雌オークに服を全部剥かれたなんて言えない。
「・・・シルスナさん」
「ん?どうしたんだフラウ」
「・・・お肉、なくなった」
悲しそうな顔で空になった皿を、ボクに差しだしてきてるけど・・・足りないの?
うわっ、本当に全部食べてる。静かだと思ってたら黙々と食べてたのね。フラウは腹ペコキャラなのか?
「フラウ、これ以上シルスナさんに迷惑をかけちゃダメよ」
「・・・わかった」
「別に構わないぞ?」
「えっ?でも、既に相当な量のお肉を頂いていますが・・・」
「まぁ、肉は大量に確保してるからな。ただそのまま収納してるから、殻を剥く必要があるけどな」
「・・・やる!」
「剥く?殻?」
おぉ、フラウはやる気満々だ。そんなにこの肉気に入ったのかな?
逆にレーヤとレインは、不思議そうに首を傾げている。あぁ、そういえば何の肉か言ってなかったな。
・・・ま、いっか。二人とも美味しそうに食べてたし。少し見た目はグロいけど、味は一緒だ。
ボクは指輪から、カマキリの手足を取り出す。
「それじゃ、今からコレを剥くから手伝ってくれ」
「「「ヒィッ!?」」」
「上手く剥くコツは殻の関節部分付近に柔らかい箇所があるから、そこから縦に裂いていくことかな?」
このコツを知っているのと知らないとじゃ、殻剥きの難易度が大分変るんだよなぁ。ボクもこのコツを掴むまでは、結構苦戦したもんだ。
「シ、シシシ、シルスナさん」
「どうした?」
「ちょ、ちょちょっとお聞きしたいんですが・・・」
「・・・」
「ん?殻の剥き方が分かりにくかったか?」
どうしたんだ?二人とも慌てて。・・・あー。殻が硬すぎたかな?わかるわかる。最初は戸惑うよね。
かくいうボクも最初はコイツの殻硬すぎて、無理に切断しようとして逆にナイフを折ったもんさ。
「い、いえそういうことではなく・・・この虫型魔物に手足は一体・・・?」
「いや、これからこれを剥くんだけど。それがどうかしたのか?」
「ヒィィッ!?ってことは・・・私たちがさっきまで食べてたのって・・・」
「コレだな」
「「ヒィィヤァァァアアアア!!!??」」
「えっ!?何っ、何っ!?どうしたの?」
「・・・ブクブクブク」
「フラウっ!?」
突然奇声を上げるレーヤとレイン。そして泡を吹いて気絶するフラウに戸惑うボク。
この後、落ち着きを取り戻した三人に正座させられて説教された。
・・・どうやら、女性に虫は厳禁らしい。
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