第8話神話の森中層部 トラウマ

「ひっ、ひぃぃ・・・!」


ボクは恐怖で叫びたい衝動を必死で抑え、息を殺し茂みに身を隠す。ボクが隠れている周辺で、アレは今もなおしつこくボクを探し出そうとしている。


「やばいやばいやばいやばい」


未だボクを見つけれていないようだけど、確実にボクに近づいてきてる。アレの鼻息が次第に大きくなってくる・・・くそっ、ボクの匂いを辿ってるのか?

あぁ、今思うとボクの人生ってあんまり良いもんじゃなかったな。父上には借金だらけの領地経営ぶん投げられるし、学園ではアルジラの苦情対応に追われてあんまり友達いなかったし。

その分、追放されて好きな時に寝て好きな時に食べるこの生活は、割と気に入ってたのに・・・


「チクショウ!こんなのって無いよ!!」


あっ、やべっ。つい興奮して大声出しちゃった。ボクは咄嗟に口を押えるが、もう後の祭りだ。

頭上から気配を感じるけど、気のせいだよね?はは、クールになるんだシルスナ。きっと大丈夫さっ。


「ブヒッ♡」


「ああああああああああああ」


荒い息を吐きながらボクを見つめるアレと目があった瞬間、ボクは狂ったような走り出す。

なりふりなんて構ってられるか!アレに捕まったら最後、もうおしまいだ!食われる!!


「ブヒィィ、ブヒィィン♡」


「いやああああああああ」


くそっ。全速力で走ってるのに、追いかけてきやがる。豚の癖に何でこんなに速いんだ!

もうかれ一時間は、アレ・・・雌のオークと壮絶な鬼ごっこを繰り広げてる。もちろん鬼役は雌オークだ。

えっ?捕まったらどうなるかって?そりゃ食われるんだよ・・・性的な意味でな!チクショウ!!


「ブヒィィィインッ♡」


「・・・いやだあああああ」


どこにそんな速力があるのか、ジワジワと雌オークがボクに追いついてくる。

興奮してるのかいつも以上に荒い吐息を吐き、顔面を赤く紅潮させ追いかけてくる雌オーク。

その胸にある六つの豊かなものとお腹が、走るたびにブルンブルン暴れてる。・・・うん。全然、嬉しくとも何ともないわ。


「辞めろぉぉぉおおりゃぁああああ!!」


「ブヒィィッンッ!?」


雌オークの手がボクの身体に触れそうになった瞬間、ボクは渾身の・・・持てる限りの渾身の一撃を雌オークへと放つ。

雌オークは胴体が切断されながらも、最後までボクの方へと手を伸ばしそして動かなくなった。・・・なんて執念だ。そこまでしてボクを食べたかったのか?チクショウ、まったく嬉しくない。


「ぜぇぜぇ・・・やったか?」


剣先で雌オークをつつき、死んでることを確認してボクはその場にヘタりこみ安堵する。

危なかった。すっごい危なかった。何がってボクの貞操が危なかった。初めてが雌オークにならなくて・・・本当に良かった・・・


「もうオークの集落には・・・ぜってぇいかねぇ・・・」


そもそもボクがこんな目にあったのは、オーク肉に味を占めたボクがオークの集落を襲ったからだ。

途中まで良かったよ、集落の最深部に行くまではね。順調にオーク肉を回収しつつ先に進んでると、雌型のオークがいたんだ。

初めての雌型だったってこともあって、雌オークのことを眺めてたんだけど・・・ヤツは違ったわ。

ボクを見るや否や、頬を紅潮させて襲い掛かってきたんだ。最初はボクも応戦してたしそんなに強くなかったんだけど、雌オークは終始ボクの衣類を脱がせようとしてきた。


斬りつけても斬りつけても、しつこくボクの服を脱がせようとする雌オーク。もうさ、すっごいタフでさ。何度斬りつけても死なないの。

とうとう、パンツまで破かれちゃってさ。ボクのボクを見たオークの顔を見た瞬間、とてつもない悪寒と恐怖心に襲われて逃げ出したよね。あの舌なめずりする雌オークの顔は・・・しばらく忘れられないわ。


「・・・寒い」


うん。そんなこんなでね。貞操こそ守られはしたけど。ボク、全裸です。

森の中に全裸の男が一人・・・完全に不審者だわ。というか、どうしようかね?替えの服なんて持ってないんだが。


「とりあえず帰るか」


雌オークの肉は・・・いいや。食べる気にならないな。

はぁ、無駄に疲れたし拠点に戻ろう。服も戻ってから考えるか。






「おぉ、カマキリって意外と美味いのな」


ボクは拠点に戻り、カマキリ肉の美味しさに舌鼓を打つ。

今まで見た目のグロさで食べるのを敬遠してたけど、今日はどうしてもオーク肉を食べる気になれずカマキリ肉を食べることにした。

いざ食べてみると・・・めちゃくちゃ美味かった。何というかエビに近い感じの味で、食感もプリプリしてて目を摘むって食べたらエビと勘違いするほどエビだった。


「はふはふ、これは癖になるな」


更にカマキリの外皮を剥き、プリップリの肉に噛り付く。すごいなカマキリ。海の幸を食べてるみたいで、いくらでも食べれるなこれ。

この分だと、他の虫型魔物も期待できるな。確かクモはカニの仲間だから、カニの味がするって聞いたことあるな・・・どこで聞いたっけ?あぁ、漫画の知識だわ。一気に胡散臭くなったわ。

いや、でも現にカマキリは美味いしな。次見かけらたら狩ってみても良いかな。


「ふう、食べた食べた。・・・ちょっと寒くなってきたな」


たき火にあたって寒さを凌いでいるものの、火のあたらない背面は冷えたままだ。このままだと風邪引きそう。


「服なんて持ってないし、どうするかなぁ」


ボクは指輪に収納してる物を思い出しながら考える。うん。衣類を回収した記憶なんてないな。

ゴブリンの集落にあった雑貨や、魔物の肉や素材ぐらいしかないもんな・・・あっ!


「・・・これ。使えるかな?」


ボクは指輪からフォレストウルフの毛皮を二、三匹分取り出す。うーん。なんとか・・・なるか?

身に纏えそうなのこれくらいだし、文句は言ってられないな。とりあえず毛皮の一つを腰に巻き、もう一つをマントのように羽織ってみる。


「んー。無いよりマシか」


正直、野人になった気分だ。これで石斧とか持ったら完璧だねっ。やかましいわ。

すごい暖かいし寒さは凌げてる・・・森を抜けるまでは、これで行くしかないかー。考えたくもないけど、今後も雌オークに遭遇して服を破かれるかもしれないし、毛皮もストックしとかないとなぁ。


「オークの集落は二度と行かないとして、明日からは積極的に虫を狩るか」


カマキリ美味しかったしね。他の虫の味も気になるわ。

いやー、先入観で食べず嫌いするのって良くないよね。あんなに美味しいのに、今まで食べなかったのが損なくらいだわ。

このエリアでは、もう敵がいないくらいには強くなったし。虫の味を一通り楽しんだら、そろそろ次のエリアに行くのもありかもしれないね。


「虫型の魔物って、めちゃくちゃ種類いるけど食べきれるかなぁ」


うわぁー。楽しみだな。今日のトラウマ級の嫌な出来事はさっさと忘れて、楽しいこと考えよう。





・・・じゃないと、怖くて眠れない。





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