第42話プラチナ冒険者


「それではアルド冒険者と外部冒険者との交流試合を始める」


「「「「うぉぉぉぉっ!!」」」」


はい、どうも。シルスナです。

俺は今、何故かアルドの大広場で鉄の斧代表のハゲと対峙してます。


・・・どうしてこうなった?

何故かノリノリで仕切ってるギルドマスターに、これまた何故か大盛り上がりしてる観衆たち。

あっ、屋台まで出してるやつがいる・・・俺は見世物ちゃうぞ!


「それでは交流試合の主役を紹介しよう!外部冒険者組、プラチナランクパーティー『鉄の斧』代表ゴードンっ!!」


「応っ!」


「うぉぉぉっ!兄貴ぃぃっ!!」

「兄貴っ!そんなボコボコにしてやってくださいっ!」

「ゴードンっ!ゴードンっ!」


ハゲの名前が出た瞬間、鉄の斧構成員と思しき冒険者たちが歓声を上げる。

・・・へぇ、見た感じ五十人はいるな。鉄の斧って割と大所帯なんだな。

ハゲはその声援に応えるように、得意げに腕を上げてる。


「続いてアルド冒険者組、シルバーランクソロ冒険者シルスナっ!!」


「「「「きゃあああああああああああああああああああああ!!!」」」」


「うぉっ!?」


俺の名前が出るや否や、さっきのハゲの比じゃないレベルの大歓声が広場を包み込む。その歓声のデカさに、俺は思わずたじろいでしまう。

び、ビックリしたぁ・・・いや、応援してくれるのは嬉しいけど、こんなに応援される覚えもないぞ・・・?


「シルスナさーん!頑張ってぇー!!」

「王子ー!頑張ってぇー!!」

「キャー!王子こっち向いてー!!」


あっ、あれはアンバーとアルドの女性冒険者たちだな。

応援ありがとう!でも、王子って何っ!?俺、陰で王子とか呼ばれてんのっ!?


「イケメンの人、頑張ってぇー!」

「キャー!すっごいイケメンなんですけどっ!」

「銀髪のイケメンの人!あんなハゲゴリラぶっ飛ばしてー!」


こっちは外部から来た女冒険者たちだね・・・君ら俺を応援していいの?

ほらっ!外部組の男冒険者どもが、めっちゃ睨んでるよっ!


「イレーナのやつ・・・この街にきて素っ気なくなったと思ったら・・・」

「・・・ミントちゃん。信じてたのに」

「・・・郷に帰ろうかな」


ほらっ!一部の男がショック受けて落ち込んでるよっ!


「・・・小僧、人気者じゃねぇか」


うわっ、ハゲもめっちゃ睨んでる。


「うーん。何でだろうな?」


「・・・スカしやがって」


俺の返事が気に入らなかったのか、コメカミにぶっとい血管を浮かび上がらせるハゲ・・・解せぬ。


「それではっ!ただいまより交流試合を始めるっ!始めっ!!」


そしてお前は少しは空気読めよっ!

ギルドマスターじゃなかったら、今頃ぶっ飛ばしてるぞ!


「ククク、小僧。早く武器を出せ。まぁ、こいつの前ではどんな武器も無意味だがな」


身の丈はありそうな巨大な斧を肩に担いだハゲが、薄ら笑いを浮かべながら俺を挑発する。

武器って言われても・・・強いて言うならこの籠手ぐらいなんだよなぁ。


「・・・小僧、何してる?早く武器を出せ」


「えっ?これが俺の武器なんだけど」


「・・・ククク、ハーッハハハ!そうかそうか、どうやら死にてぇようだなっ!!」


手にはめてる籠手を見せたら、ブチギレられたんだけど・・・

っていうか、怒り過ぎて顔真っ赤じゃん。どんだけ沸点低いんだよ・・・


拳で戦う冒険者って珍しいかもしれないけど、多少はいる・・・いや、いないな。アルドでは俺だけだわ。


「まぁまぁ、それよりもう始めようぜ」


「・・・言うじゃねぇか小僧!死んでも後悔すんじゃねぇぞぉぉおっ!うおぉぉぉっアックスインパクトぉぉおっ!!」


俺の言葉を聞くや否や、ハゲが巨大な斧を片手で軽々と振り上げ、俺目掛けて振り下ろす。

・・・ほぉ、そこそこ早いじゃん。


「おっと」


「・・・チッ、今のを避けるたぁやるじゃねぇか」


俺は振り下ろされる斧を、ギリギリのラインを見極め避ける。

避けた斧は地面の石畳へとぶつかり、一メートル位のクレーターを作る。

威力もそこそこあるみたいだな。まぁ、あんなでっかい斧を振り下ろしたらこれくらいはあるか。


っていうか、今の殺す気だったよな?

避けなかったら俺の脳天に直撃してたんだが?


「「「うおぉぉぉっ!!」」」


ただ、パフォーマンスとしては充分だったようで、観客たちが大声で歓声を上げる。

・・・こいつら、完全に見世物感覚じゃん。


「うおらっ!うらっ!せやっ!」


「よっ、ほっ、はっ」


「おらっ!うらっ!・・・ぜぇぜぇ、こいつちょこまかと・・・」


元気に斧をぶん回すハゲとそれを淡々と避ける俺。

体力の限界が来たハゲが、とうとう肩で息をし始めてきた。そりゃね、そんなバカでかい斧をぶん回してたら疲れるわな。


当たったら痛いんだろうけどさ。デカいが故に攻撃パターンが振り下ろしか横なぎしかないし、そもそも斧をふるスピードもそんなに速くないから避けるの簡単なんだよね。


・・・流石にちょっと可哀そうになってきたから、ここらで俺もちょっと手を出すかな。まずは様子見で腹を軽く殴ってみるか。


「フッ!」


「おら・・・ハグアッ!?――――オボロロロロロッ」


ハゲが斧を振り下ろすタイミングを見計らって、その腹に軽めのボディブローを放つ。

直撃を受けたハゲは持ってた斧を手放すと、腹を押さえながら地面を転げまわり・・・盛大にゲロをぶちまける。


「・・・えぇぇ」


様子見で打ったボディブローが、思った以上に効いてて俺は困惑する。

・・・ちょっと打たれ弱すぎじゃないか?その分厚い筋肉は飾りかな?


「プラチナ冒険者を一撃で沈めたぞっ!」

「・・・あいつ実はすごいのか?」

「兄貴ぃぃっ!しっかりっ!!」

「くそっ!ゴードンに賭けてたのにっ!」

「「「「きゃああああああ!王子ぃぃっ!!!」」」」


そして予想外の事態に、沸き立つ観客たち。

よし、賭け事してる奴らの顔は覚えた。後で一人一人丁寧にぶっ飛ばしてあげよう。


「や、やるじゃねぇか」


「お、まだ立てたんだ」


賭け事してる不届き者たちの顔を覚えてたら、いつの間にかハゲが立ち上がっていた。

・・・立つのがやっとみたいで、生まれたての小鹿みたいに足がプルプルしてる。

エイスも小さい頃は、こんな感じでプルプルしてたのかな?初めて会った時には、もう十メートル超えてたから知らんけど。


「そんな状態でやれんの?」


「・・・抜かせ。うぉぉぉっ!アックスインパクトぉぉっ!!」


・・・またそれか。バカの一つ覚えみたいに斧を力任せに振り下ろしてくるハゲに、俺はため息をつきながら紙一重に避ける。


「フハハッ!かかったなっ!」


ハゲは俺がギリギリで避けるのを読んでいたようで、空いてる方の腕で避けたばかりで態勢が整っていない俺に拳を突き出してくる。


トンッ。


「・・・?何を――っっ!?」


軽く突き出された拳が俺の胸にあたる。

その瞬間、想像を絶する衝撃が俺の中へと駆け巡る。


・・・やば・・・い。


これはマジでやばい。身体中が痺れて、一切の身動きが取れない。

あのハゲ、最後の最後でとんでもない切り札を隠してやがったな!


「フハハハッ!俺が斧を振り回すだけのバカとでも思ったかっ!」


「・・・クッ」


勝ち誇るハゲ。くそっ、ハゲの癖に・・・めっちゃ腹立つな。


「これでお終いだっ!死ねぇぇぇっ!ダブルインパクトぉぉぉおっ!!」


ここに来て斧を両手持ちで、力の限り振り下ろしてくるハゲ。

ちょ、おまっ!完全に殺すじゃんかっ!?

くそっ、身体はまだ痺れて動けない・・・仕方ない腹を括るか。




ズドォォオンッ




ハゲの振り下ろした斧は、俺の頭に直撃しそのまま地面へと突き刺さり数メートルのクレーターを形成する。


「フハハハハッ!小僧がイキがるから・・・ファッ!?ファッ!!?」


「・・・いってぇな」


「ファッ!?ファッ!?」


勝利を確信してたハゲが、真っ二つに折れた斧と未だ生きて立ってる俺を交互に見つつ、ファッファッ驚いてる。


「あー、痛てて・・・血が出てる」


「ファッ!?ファッ!?」


あー、くっそ。頭が超痛い。

ハゲの攻撃を避けれないと判断した俺は、覚悟を決めてハゲの攻撃を受け止めることにしたのだ。

まぁ、結果は見ての通り、俺の頭は鉄よりも硬いってことだね。


「ファッ!?ファッ!?」


ハゲは現実が受け止められないのか、最早ファッファッしか言わない。


「・・・さて、俺からもお返しをしないといけないな」


「ファッ!!?」


ようやく我に返ったのか、俺を見て青ざめるハゲ。

いやいや、今更謝ったって許さないよ?きっちりお礼はするわ。


「やられたらやり返す。倍返しだっー!!」


「オボラッ!!?」


ハゲの顔面をかなり強めに張り倒す。

ハゲは回転しながら一直線に吹き飛び・・・そして、近くにあるお店の壁に突き刺さる。


「・・・」


返事はない。どうやらただのしかば・・・いや、気絶したようだな。

まだ殴り足りないけど、これでチャラにしてやるか。


「・・・おぉ、痛てて。うわっ、コブになってるわ!」




「「「「・・・・」」」」




「・・・ん?みんな黙ってどうしたの?」




「「「「・・・・う」」」」




「・・・う?」




「「「「うおぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」




「おわっ!?」


この日、アルドの外まで大きな歓声が響き渡った。







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