第41話集結する冒険者たち


「何だこれっ!ウンコじゃねーかっ!!」

「こんなの食えるかっ!」

「ボッタクリじゃねーかっ!!」


「・・・はぁ、またか」


四ヶ国間合同ゴブリン掃討戦が発表されて、避難した住民・去っていた冒険者も多かったけど。その分、腕に覚えのある冒険者や傭兵団が、掃討戦に参加すべくアルドに集まって来ている。


そしてそんな荒くれものの冒険者が集まれば集まるほど、揉め事も日に日に増えていってる。

ここのカレーは美味いけど、見た目がウ・・・アレだから、難癖付けられやすいんだよね。気持ちは分からんでもないけど店主や常連の俺からしたら、こんなことでイチイチ騒がれてもめんどくさいことこの上ない。


「またアルカ・・・シルスナ、頼んだヨ」


「はぁ、分かったよ。ちゃんと約束は守れよ?」


「わかてるヨ。魚三切れサービスするヨ」


「・・・なら良いけどさ」


一回の揉め事解決に付き、魚三切れ。これが俺と店主の間で交わした契約だ。

相手は腐っても冒険者。しかも、自分の腕に自信を持ってるやつらだ。

そんなやつらを、店主が相手に出来るわけもない。そこで、俺の出番ですよ。


「店主出てこいやっ!てめぇ、客にウンコ食わせる気かっ!!」


「まぁまぁ、見た目はアレだけど美味いからさ。騙されたと思って食べてみなよ」


「あぁんっ!誰だてめぇ!こんなウンコが食えるわけねぇだろ!」


「とりあえず食べてみなって」


「うるせぇ!誰がこんなウンコ食えるか!てめぇのウンコでも食って・・・」


「ウンコウンコうるせぇんだよ!黙って食えっ!!」


「ブヘバッ!?」


あっ、やべ。ウンコウンコ連呼するから、ついつい張り倒しちゃった。

だいじょ・・・ばないなコレ。白目剥いて気絶してるわ。




「「「・・・」」」




「・・・ん?」




「「「・・・!?(サッ)」」」




「Oh・・・」


さっきまで文句を垂れてた冒険者たちが静かになった。

静かになったのは良いけど、誰も俺と目を合わせようとしてくれない。

・・・何だこの空気。どうしろってんだ・・・


「・・・お前ら、ピーピー言わずに黙って食え」


「「「ヒッ、ヒェッ!?」」」


必死にカレーを掻き込む冒険者たち。

いや、違う!そうじゃないっ!俺の言い方も悪かったけど、そうじゃないんだっ!


「「「ご、ごちそうさまでしたーっ!」」」


味わう所か必死にカレーを掻き込み、食べ終わた冒険者たちは一目散に店から逃げるように出ていく。

・・・違うんだよ。俺は一口食べたら、カレーの良さが分かるよって言いたかっただけなんだ・・・


「シルスナ、ありがとネ。これはお礼ヨ」


「・・・店主、すまん。追い返してしまった」


「別にいいネ。アイツラはどうせこの仕事おわたら、いなくなるネ」


店主が魚増量のシーフードカレーを、俺の元に運んでくる。

あまりの申し訳なさに、店主に謝るが店主は笑って許してくれた。


・・・店主の優しさがあったけぇ。

この人、言葉遣い変だし頭に変な布グルグル巻いてるけど、対応はめっちゃ大人だよな・・・正直、憧れるわ。悔しいから言わないけど。

そして、カレー相変わらずうめぇな。


「シルスナは、この後どうするネ?」


「あー、そういえばギルドマスターに呼ばれてたんだったわ」


「そうカ。ならシルスナが食べ終わったら、店閉めるヨ。またよろしく頼むヨ」


「わかった。また明日も来るわ」


忘れてたわ。ギルドマスターに呼ばれてたんだったわ。

とりあえず、このカレーを堪能してからギルドに顔出すかー。


「相変わらずうめぇ!」


「フフフ、カレー四千年の歴史アルヨ」


「うそこけ!」





・・・




「おーおー、殺気立ってるねぇ」


俺は冒険者ギルドにいる冒険者たちを見渡す。

恐らくアルドに来たばっかりであろう冒険者たちが、お互いけん制し合って睨み合ってる。

・・・お互いの実力を測ってるのかな?自然界では良くあることだよね。


「あっ!シルスナさんっ、お待ちしていました」


俺に気付いた受付嬢さんが、大きな声で俺に声をかけてくる。

おぉっ!ギルド内の視線が、一気に俺に集まったな。中には嫉妬丸出しのやつまでいる・・・受付嬢さんモテるからなぁ。


「ギルドマスターに呼ばれてきたんだけど」


「承っています。ギルドマスター室へどうぞ」


「ありがと」


ここで受付嬢さんとお喋りしても変に絡まれそうだし、さっさとギルドマスターに会いに行くか。


「こんちゃーっす」


「・・・ようやく来たか。そこに座りたまえ」


「はーい」


ギルドマスター室に行くと、若干眉間に皺を作っているギルドマスターに促されてソファーに座る。


おっ、ソファーに先客がいる。

ムッキムキのツルツルなおっさんと、魔法使い風なお姉さんが座ってるけど・・・二人とも眉間に皺寄せて俺を見て・・・いや、睨んでるな。


えっ、何で怒ってるの?初対面だよね?


「さて、全員揃ったな。・・・そうだな。まずはお互い自己紹介でもしようか。私が冒険者ギルドアルド支部ギルドマスターのアルベルトだ」

「・・・チッ。『鋼の斧』の代表、ゴードンだ。ランクはプラチナだ」

「『深淵の園』のイザベラよ。ランクはプラチナね」


「シルスナだ。ランクはシルバーだ」


「・・・シルバーだぁ?」


ハゲが俺バカにしたような目で俺を見る。横にいるお姉さんも、訝しむ目で俺を見てるな。

・・・何か感じ悪いなコイツら。


「要件を手短に話そう。君たちに集まってもらったのは、ゴブリン掃討戦に関してだ。鉄の斧と深淵の園には、冒険者の陣頭指揮を執ってもらいたい」


「ふんっ、妥当な選択だな」

「あら、私は一人で指揮を執っても構わないのだけど」

「なんだと!若作りの婆がっ!」

「・・・なんですって?死にたくなかったらその汚い口を閉じなっ!」


・・・こいつら、さっきからピリピリしすぎじゃない?

ハゲは筋肉が隆起してるし、お姉さんは魔力がダダ洩れてる。いつでもおっぱじめられますって感じの、一触即発の状態だ。


「落ち着きたまえ。今回の作戦は、二手に分かれて行う必要がある。なので必然的に、指揮する人間が二人必要なのだよ。それにどうせ争うなのなら、冒険者らしく功績で争いたまえ」


「・・・ケッ」

「・・・ふんっ」


おぉ、さすがギルドマスター。口だけで上手いこと、二人を抑え込んだな。


「それで、俺は何で呼ばれたんだ?」


その場が落ち着いた所で、俺はギルドマスターに疑問を投げかける。

冒険者のまとめ役は、そこのハゲとお姉さんがやるんだろ?

俺が呼ばれた意味が、ちっとも分からないんだけど。


「あぁ、君か。・・・君は単独行動だ」


「・・・ん?」


「君は自由に行動して良いということだ。自分の動きたいように動けば良い」


「・・・そうか?わかった」


えーっと、つまり・・・どういうことだ?

それだけ伝える為に、俺を呼んだのか?


「ちょっと待て!」

「どうかしたのかね?ゴードン殿」

「なぜシルバーランクの小僧を特別扱いする。気に入らねぇ」

「口惜しいけど、私も鉄の斧に賛同するわ」

「・・・ふむ」


どうやらハゲとお姉さんは、俺が気に入らないらしく難癖をつけてくる。


「ゴードン殿、イザベラ殿。お二方は、神話の森でキングベアを単独で狩れますかな?」

「何を・・・無理に決まってるだろ。むしろキングベアのテリトリーに行くまでに、団員の半数は死ぬだろうな」

「・・・ふむ。イザベラ殿は?」

「・・・無理ね。ウチは魔法使いで構成されているから、そもそも森の奥には行けないわ」

「ふむ。なるほど」

「それがどうしたっつーんだよ!」

「・・・回りくどいのは辞めてくださる?」


おぉ、ギルドマスターの勿体ぶった喋り方に二人とも苛ついてる。

っていうか、あのクマそんなに強いか?


「彼は単独で神話の森へ入り、キングボアの討伐に成功しています」

「・・・はぁ?はっ、冗談キツいぜギルドマスターさんよぉ」

「全くだわ。冗談も大概にしてほしいわね」

「事実です。シルスナ君。キングボアの素材を出してくれないかね」


「まぁ、出すくらいなら別にいいけど」


「「なっ!?」」


俺は指輪から、熊の爪・牙・毛皮を適当にテーブルの上に置く。

テーブルに置かれた素材を見て、ハゲとお姉さんは信じられないといった表情で驚いてる。


「・・・本物だな。それもこの量」

「・・・信じられないわ。少なくとも五体分はあるわ」

「これで信じて頂けましたかな。御覧の通り彼は、キングボアを狩れるほどの猛者です。下手に部隊に組み込むよりかは、自由に動いてもらった方が都合が良いのですよ・・・彼の性格も含めてですね」


ちょっと待って。何か俺の性格に問題があるみたいな言い方だったけど、どういうこと?


「・・・いいや。俺は信じねぇ」

「・・・ゴードン殿?」


おっ、ハゲがゴネ出したぞ。流石のギルドマスターも、ちょっと呆れた表情でハゲを見てる。


「俺はこの目で見たものしか信じねぇ。この小僧の実力を確かめさせろ」

「・・・おや、仕方ありませんねぇ」


ちょっと待って。ハゲが何か言い出したよ?

そして、ギルドマスターは何で自分のことのように返事してるの?


「小僧、表に出ろ。てめぇの実力を試してやる」

「・・・私も彼の実力次第では、認めないこともないわ」

「ふふふ、お手柔らかに頼みますよ」


お手柔らかに頼みますじゃねぇよ!だから何でお前が返事するんだよっ!


「さぁ、シルスナ君。彼らに身の程を知らせてやりたまえ」


・・・こいつ、ぶっ飛ばしても良いかな?

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