第43話いざ出発!


「あっ、シルスナの旦那っ!こちらへどうぞ」


「お、おう・・・」


「おらっ!シルスナさんのお通りだ。てめぇら道空けろっ!!」


「「「ウッス!!」」」


「ささっ、どうぞ」


「お、おう・・・」


ゴブリン掃討戦当日。街を出発する際に、何故か俺は集団の先頭を歩かされることになった。


「・・・なぁ」


「へいっ!どうしやした?シルスナの旦那」


「やっぱりお前が先頭の方が良いんじゃないか?プラチナなんだろ?」


こういうのってランクが一番高いやつが、先頭を歩くもんだろ?

俺シルバーなんだけど・・・


「とんでもねぇ!シルスナの旦那の前なんて恐れ多くて歩けねぇですわ!」


「「「ウッス!!」」」


「えぇ・・・」


・・・ちょっと強く叩き過ぎたかな?

まるで別人のようにヘコヘコするハゲに、俺はとても困惑する。


あんまりこういうの苦手なんだけど・・・


「そうだ!イザベラさん。イザベラさん前歩く?」


「えっ!?いや、その・・・私もおうじ――シルスナさんが先頭で良いわ!そ、それじゃっ!」


「えっ、あっ、ちょっと・・・」


「キャー!王子に声掛けられちゃった!」

「「「えぇーっ!イザベラ様ずるーいっ!!」」」


もう一人のプラチナ冒険者であるイザベラさんに先頭を譲ってみたけど、まさかの断られてしまった。

イザベラさんは顔を赤らめると、そそくさと魔術師風のローブを着た集団の中へと引っ込んで行ってしまった。


・・・解せぬ。


こういうのは一番立場が上なプラチナ級の冒険者がやるもんだろ?

何でシルバーの俺が・・・


「おっ、先頭はシルスナ君かね?よろしい!華々しい出陣を飾り、新たな伝説を作ろうではないかっ!」


「「「おぉぉぉっ!!」」」


俺が先頭なのをナチュラルに受け入れ、冒険者たちを鼓舞するギルドマスター。

こいつ、マジでぶん殴ってやろうかな。




・・・・・・・・・




・・・・・・




・・・




〇アンバー視点


「・・・はぁ」


私は先頭の集団を見詰めては、ため息を吐いた。

ゴブリン掃討戦に参加して見たは良いものの、所詮私はブロンズ級。

後方支援しかやることがない私は列の最後尾、片やシルスナさんは列の先頭だ。


「・・・はぁ」


「なーにシケた面してんだよ」

「そうだぜ。まだ始まったばかりなのに・・・って、あぁ、そういうことか」


また先頭を見てはため息を吐く私に、ダーツとロケが声をかけてくる。

ダーツとロケは、同じ村で育った幼馴染だ。ダーツとロケは冒険者として成り上がりたくて、私は料理人になる為の資金集めとして冒険者になった。

・・・まぁ、全然上手くいってないんだけどね。


「・・・何よ」


「あれだろ?お前、シルスナさんが近くにいないから寂しいんだろ?」

「あぁ、そういうことか」


・・・クッ。ロケは普段は全然空気読めない癖に、こういう時は変に勘が良い。

ニヤニヤしながら私を見るロケとダーツに、腹が立つけど何も言い返せない。


「まぁ、気持ちは分からないでもないよな。実力差なんて分かっていたけど、実際に目の当たりにすると・・・痛感しちゃうよな」

「・・・まぁな。シルスナさん強ぇからな」


ダーツとロケが、先頭の集団にいるシルスナさんを見る。

シルスナさんが列の先頭を歩き、その後ろをプラチナ級であるゴードンさん率いる『鉄の斧』と、同じくプラチナ級のイザベラさん率いる『深淵の園』が続く。


「すげぇよな。プラチナを抑えて、シルバーなのに先頭だぜ?」


「・・・そうね」


ロケが言うように本来ならシルバーであるシルスナさんが、プラチナ級冒険者を差し置いて先頭を歩くのはあり得ないことだ。


冒険者ランクは、ブロンズで駆け出し、シルバーで一人前、ゴールドで一流、プラチナは超一流。更にその上のダイヤは、世界に五人しかいない。


本来ならプラチナ級冒険者が先頭を務め、シルバー級は私たちと同じ後方に並ぶのが当たり前だ。


「しっかし、シルスナさんがあんなに強かっただなんてなぁ・・・」

「あっ、それ俺も思った!まさかプラチナの冒険者に勝っちまうんだからなっ!」


でもその当たり前を覆したのは、他ならぬシルバーのシルスナさんだ。

まるで自分のことのようにはしゃぐダーツとロケを尻目に、私は先頭を歩くシルスナさんを見る。


「・・・近いようで遠いなぁ」


数百メートル続く冒険者の列、その先頭と最後尾。

物理的にはすぐ追いつける距離だけど、冒険者としては絶望的に遠い距離。


いつも気さくに話しかけてくれるシルスナさん。

でもこうして見ると、とても遠い存在の人なんだなって痛感させられる。


・・・もしこの作戦が終わって私が冒険者を辞めたら、シルスナさんとの接点も無くなっちゃうのかな。


「おーい、アンバー!置いていくぞー!」


「・・・今行く」


大丈夫だよね。シルスナさん優しいもん。




・・・・・・・・・




・・・・・・




・・・




〇ゴードン視点


「へぇ、神話の森に住んでたんですかい・・・流石、旦那ですな」


「まぁ、住んでたって言っても一年くらいだけどね」


「・・・それでも普通の人間には真似できねぇですわ」


「・・・そうか?」


ジルフィールに向かう道中、俺はシルスナの旦那の強さの秘訣を聞き出すべく色んなことを質問した。


まさかあの神話の森に一年も住んでたとは・・・本来ならばホラ話として笑い飛ばすとこだが、俺はその話を信じた。

だってよ、俺自慢のミスリル製の大斧を頭でポッキリ折っちまうんだぜ?


「ちなみに神話の森のどこに住んでたんですかい?」


「真ん中」


「・・・へっ?」


「だから真ん中だって。森の真ん中にでっかい木が生えててさ、そこに住んでたわ」


「そ、そうですかい・・・」


・・・この旦那、どうやら俺が思ってた以上に大物かもしれない。

あのダイヤに最も近いと言われていた『戦鬼』アルベルトですら、深層に挑戦して引退せざる得ない怪我を負うハメになった。

俺は、中層を越えられるか怪しい所だな。・・・神話の森の真ん中なんて、それこそ前人未到のエリアだ。


「ちなみに旦那が住んでたエリアには、どういった魔物がいるんで?」


「あん?えーっと、熊・・・キングベアだっけ?それが腐るほどいるだろ。それと――」


「旦那、ちょっと待ってくだせぇ」


「なに?」


・・・聞き間違いだろうか?キングベアが腐るほどいるって聞こえたが。

キングベアは一匹だけで、村や町が滅ぶ可能性を秘めた魔物だ。そのキングベアが・・・いかん、考えただけで眩暈がしてきたぜ。


「・・・いえ、続けてくだせぇ」


「そうか?後はめっちゃでっかい蛇とか、さらにでっかいワームとか・・・後は白銀のゴリラと十メートル以上の鹿と猪もいたな」


「クルルッ♪」

「ボァッ♪」


「へぇ、ゴリラと猪と鹿は・・・全く見当もつきやせんね」


「いやー、あいつらめっちゃ強いぞ。特に鹿と猪がケンカすると、辺り一帯は天変地異が起きたみたいになるしな」


「クルル・・・」

「ボッ・・・」


「へ、へぇ・・・そ、そうなんですかい」


「あぁ、その度に熊とかそこら辺の魔物が巻き込まれてな。おかげで飯がずっと熊肉だったりしてさ、食べ飽きて大変だったよ」


・・・何だその地獄は、そして何でこの人は笑って語れるんだ。

カラカラと笑うシルスナさんに、俺はとてつもない恐怖を覚えそして気付く。


シルスナさんは森の真ん中に住んでると言った・・・さっき言ってた化け物のような魔物を差し置いてだ。

それはつまりシルスナさんが、その化け物よりも強いということだ。


「あっ、そういえば熊肉がまだしこたま残ってるけど、ハゲ――じゃない。おっさんも食べる?後、他のやつらも」


「ご相伴させて頂きますっ!」


「「「頂きますっ!!」」」


本来なら、旦那の話はホラ話として一笑に付すとこだ。

・・・だけど俺は信じる。プラチナ級冒険者としての勘が本能が、強く俺に訴えかけてくるんだ。


この人に逆らってはいけないと。




・・・・・・・・・




・・・・・・



・・・




〇イザベラ視点


「イザベラ様っ!私たちも王子と喋りたいですっ!」

「イザベラ様だけずるいですっ!」

「私たちにも王子成分をっ!」


「お黙り!・・・これはプラチナ級冒険者の特権よ」


「「「「ブーブー!!」」」」


「お黙りっ!!」


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