第12話神話の森深層部 熊と鳥と調味料


「ぐぬぉぉぉおおっ!」


「ガアアアアアッ!!」


「ふぬぉぉぉおおおっ!!」


やあ、みんな。シルスナです。現在、ボクは六メートルくらいのでっかい熊と鍔迫り合いをしてます。


「はああああああああ!!」


「グガアアアアアアッ!!」


現在の状態は拮抗。熊は四つ腕を総動員し、ボクは剣を両手持ちで押し返す。もうね。お互い必死よ。

そりゃそうだよね。だって負けた方は食われるんだもん。

でもずるくね?腕が四つもあるってずるくね?あっ、でもボクも剣使ってるしな・・・いや、それにしてもずるいわ。チクショウ。


「グアッ!ガアッ!」


「ふぐぉっ!?ちょ、おまっ!それずるへぶらっ!?」


くそっ、こいつ!四本の内、三本の腕でボクを押さえつつ残りの腕でボクのボディに攻撃し始めやがった。やっぱ腕が四つはずるいぞ!チクショウ。

心なしかにやりと笑みを浮かべる熊に、ボクは殺意を覚える。まぁ、そもそも殺る気まんまんなんだけどね。


「ふっ・・・うぅぉぉおらぁぁあああ!!」


「グギャッ!?」


バカめ!腕が減った分、力でボクが優位になったわ!ボクは渾身の力を込めて熊の腕を弾き、熊の胴体に重い一撃を入れる。

熊も熊でまさか競り負けると思っていなかったのか、驚愕の表情を浮かべそして倒れていく。ふっ。パワータイプの癖に、小手先に頼ったお前の負けだな。


「ぜぇぜぇ・・・今回は割と早めに倒せたな・・・ぬぅっ!?」


背後からヒュッっという音が聞こえるや否や、ボクは全力で地面に伏せる。その瞬間、ボクが立っていた場所を目にも見えない速さで何かが通りすぎる。


「あっっぶねぇ!くそっ、いつもいやらしいタイミングで襲ってきやがる」


ボクは遠くの木の枝にとまっている一匹の鳥を、忌々し気に睨みつける。一見すると一メートルくらいの細長い鳥なのだが、あの鳥は熊以上に厄介極まりない。

遠くから獲物を観察し、油断したタイミングで目にも止まらぬ速さで突っ込んでくるのだ。その貫通力は物凄く、ボクはおろかさっきの熊でさえ簡単に貫通するほどだ。


しかも、こいつ。必ずと言って良いほど、ボクが魔物を倒す度に突っ込んでくる。今回も突っ込んでくるだろうなぁと思って、警戒はしてたけど危なかった・・・超危なかった。あと少し反応が遅れたら、お腹に穴が空くとこだったわ。

でもこの鳥は最初の奇襲さえ避けれれば、もう勝ったも同然なんだよね。


「うらぁああっ!」


「キシャッ!?」


再度ボク目掛けて突っ込んでくる鳥を避け、そして両断する。

こいつの弱点は、真っすぐにしか飛べないことと。飛び始めはそんなに速くないってことなんだよね。

奇襲することは出来るのに、その先のことは考えれないらしい。・・・まぁ、鳥だからしょうがないのかな?


「今日は熊肉と鶏肉か。熊は煮込んで、鳥は焼き鳥にするか」


倒した熊と鳥を指輪に収納しつつ、ボクは今晩のご飯について考える。何気にこの熊と鳥って美味いんだよね。

鳥は細長いから食べるとこが少ないけど・・・その分めっちゃ美味い。例えるならオークの三倍は美味い。熊も美味いんだけどね。この鶏肉の前には霞んでしまうかな。


「さって、帰るか・・・うぉっ!?」


突然の地震にたたらを踏む。

・・・またか。この地震の原因は、猪と鹿の魔物の縄張り争いだ。この森にはさっきの熊よりでっかい猪と、これまた熊よりでっかい鹿がいる。なぜかは知らないけど、猪と鹿は仲が悪いらしく争ってる。


狩らないのかって?無理無理。二匹が争ってるの見たことある?もうね。天変地異よ。

周囲の木々はなぎ倒され、地面はクレーターでぼっこぼこ。ついでに近くを通りかかった熊も巻き添えで瞬殺。今のボクには、まだ無理。コツコツと熊で強くなりますわ。

いつか食べてやる。ボクはその思いを胸に、猪と鹿の仁義なき戦いに巻き込まれないようその場を後にした。






「ふう、やっと一息つけたな」


ボクは新しい拠点につくと、腰を休める。何せまだ熊をやっと安定して狩れるようになった程度なもんで、常に周囲を警戒していないといつ狩られるか分かったもんじゃない。


ちなみにこの拠点は、でっかい岩をくり抜いて作った自家製の洞穴だ。メイドインシルスナだね。

真面目な話、深部の魔物は基本的にデカい。入口をあえて狭く作ることで、魔物が入って来れないように掘ってある。今の所、ほぼほぼ安全だ。


「武器も大分消費しちゃったなぁ」


熊肉を煮込みつつ、武器の在庫をチェックする。ゴブリンの集落を襲う度にストックしてたんだけどなぁ・・・大分心もとなくなってきたなぁ。

深部にきて数日。たった数日で、すごい数の武器がダメになった。ここらの魔物はとにかく力が強い。

もうね。ポキポキ折られたよ。


「武器がなくなったら・・・カマキリの鎌でも使うかねぇ」


・・・冗談で言ってみたけど、案外良いかもしれん。切れ味も耐久度も良いしな。ちょっと真面目に検討してみるか。


「まぁ、まずは飯だな」


色々と考えてたら、丁度いい感じに熊肉が煮込めてきた。よくよく考えると、この鍋もゴブリンの集落で見つけたんだよなぁ。ゴブリン様様だわ。


「くぁ~、うめぇ」


ボクは煮込んだ熊肉を口に放り込むと、その味に満足する。噛み応えのある肉も好きだけど、トロっと舌先が触れるだけで溶ける肉もそれはそれで良きかな良きかな。

ただお湯で煮込んだだけなのに、味もしっかりしてるしやっぱ魔物肉ってすごいよな。ただし、熊肉は焼くと臭くてとても食えたもんじゃないけどね。


「・・・調味料ほしいなぁ」


素材がすごい分、ちゃんと調理すると物凄いことになるんじゃないか?・・・まぁ、調味料ないから考えても仕方ないんだけどね。それでも、悲しき人の性かな。無いと余計に欲しくなっちゃうわ。


でも我慢我慢。調味料は後でいくらでも手に入る。肉はここでしか手に入らない。今ボクがやるべきことは、美味い肉を大量にストックすることだ。そして、街に出たら料理人に料理してもらう。これがベストだと思う。


「あぁ・・・楽しみだなぁ・・・」


オーク肉のカツ丼にカマキリ肉のフライ、フォレストウルフのステーキ。・・・やべぇ、ヨダレが。


「本当、ここは食材の宝庫だよな」


ボクの読み通り、ここの魔物は美味い。まだ熊と鳥しか食べてないけど、それだけでも中層の魔物より断然美味い。他の魔物の味も期待できるな。


「もうちょっと熊を安定して倒せるようになったら、別の魔物に挑戦してみるか」


ここらの生態系の頂点は、間違いなく猪と鹿だ。それで底辺があの熊と鳥。熊が底辺っておかしいよね。熊は何とか倒せるようになった。そろそろ次の目標を決めるのも大事だ。

蛇・・・いや、あれはまだ無理っぽそうだな。となると牛辺りか?うーん。あのタフネスに下手に挑むと武器が全部壊れかねないしなぁ・・・うーん。


「あっ!?やべっ!・・・あぶねぇ。ちょっと焦げただけか」


ボクは慌てて、焼き鳥を火から離す。良かった。ちょっと焦げたけど丸焦げにならずに済んだ。

この鳥は肉は少ないけど、その代わり脂がめちゃくちゃ多い。ただ火で炙るだけで揚げ物みたいにカラっと揚がるほどだ。


「・・・うめぇ」


黄金色に焼き上がった焼き鳥を一口齧り・・・ボクは恍惚の笑みを浮かべる。やっぱ食べ盛りの男には揚げ物だよね。もっと肉が付いてると文句無しなんだけどねぇ。

ちなみにこれは熊肉と逆で、煮込むと脂が抜けに抜けて味がしなくなる。スープとして使えるじゃね?とも思って一口飲んでみたけど、ただの脂が染みたお湯だったわ。


「何だかんだで充実してんなぁ」


ボクはしみじみと思う。電気もない水道もない、おまけに服もない。これだけを聞くと不便極まりないように聞こえるだろうね。

でも、今の生活の方が好きなんだよなぁ。別に前の生活を否定するわけじゃないよ。ただ色々と我慢してたのも事実なんだよね。


「腹は立つけど、アルジラにはある意味感謝だな」


追放されなきゃボクには、こんなにも美味い肉との出会いも自由もなかった。その点だけは、一応感謝してやってもいいかな。

・・・そういや、アルジラ今頃何してんのかね?あいつのことだから、勇者の権力で好き勝手にやってそうだ。あいつは限度ってものを知らないからなぁ・・・みんな苦労するだろうなぁ。


「まっ、ボクが考えることでもないか。寝よ寝よ」


もうボクには関係ないしね。お腹もいっぱいになったし、明日に備えて寝るかね。

ふふふ、明日はもっと熊と戦って強くならないとね。





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