第23話劇的ビフォーアフター


「・・・うん。良い感じ」


一年間、伸びっぱなしだった髪や髭、その他の毛達よ。さらば。

いやー、宿に鏡が付いててラッキーだったわ。

バッサリ髪切って、髭剃って眉整えてムダ毛も処理して・・・完璧だ。


・・・いや、別にモジャモジャってあだ名が付けられそうで怖かったからとかじゃないよ?本当だよ?


「なんか久々に自分の顔を見た気がするわ」


なんせこの一年間、鏡とは無縁の生活だったからな。自分の銀髪は、流石に覚えてるけど・・・俺ってこんな顔だったっけ?

まぁ、これで誰にもモジャモジャとは言わせない。


「どうだ?エイス、ボーズ」


「クルックルッ!」

「ボァッ!」


「そうかそうか、ありがとうな」


露になった俺の顔面に、エイスもボーズもご満悦だ。

よしよし、用事が済んだら一緒に屋台巡ろうな。


「次は、新しく服を新調しないとな」


顔はサッパリした。そうなると、次は服だ。

ボラさんから貰った服があるにはあるんだけど・・・正直、結構くたびれてる。

この服にはすごい助けられたけど、金に余裕もあるし新しい服が欲しい。


そして何より、これから冒険者として活動していくわけでして、丈夫な服が必要になってくるわけですよ。

今の服だと、ちょっと早く動いただけで破けそうだし、サクッと買いにいくか。




「ねぇ。あの人・・・」

「本当・・・すごい・・・メン」


「うーん。何か見られてる気がするな・・・」


・・・何だ?ただ歩いてるだけなのに、すごい視線を感じる。

その癖目が合うと、慌てて目を反らすし顔赤いし・・・なんか居心地悪いな。


あぁ、思い出してきた。追放される前の学園生活の時も、こんな感じだったなぁ。

女生徒達から遠巻きに見つめられては、目が合うと悲鳴を上げて逃げられてたなぁ・・・そして、その度にアルジラが俺をからかって・・・あっあっあっあっ。


「クルゥ?」

「ボァ?」


「・・・はっ!すまん。ちょっと、昔のことを思い出してたわ。ってここか」


危ない危ない。つい悲しい過去を思い出して、往来の真ん中でトリップしてしまってたわ。


「丈夫な服売ってると良いなぁ」


俺は目的の服屋に入り、中を見渡す。

へぇ、なかなか品揃えの良い店じゃん。質素な生地から、夜会でも通用しそうな上質な生地まである。店主のこだわりを感じさせる品揃えだ。


「いらっしゃいませ。本日は・・・おや、もしかしてお貴族様でいらっしゃいますか?」


店の奥から店主と思しき、スーツがとても良く似合うナイスミドルが出てきた。

貴族って言うか元なんだけど、何で分かったんだろ?

いちいち説明するのも面倒くさいし、ここははぐらかしておくか。


「いやいや、貴族だったらこんなボロボロの服なんて着てないよ」


「ふふ、これは失礼致しました。何か深い御理由がありそうですね。ここは、そういうことにしておきましょう」


「いや、そういうわけじゃ・・・はぁ、それで良いよ」


何だろう。この見透かされた感は。


「それで、今日はどういったご入用ですか?」


「あっ、そうそう。実は昨日から冒険者デビューしてね。丈夫な服を見繕ってほしいんだよね」


「ほう。冒険者ですか」


「出来れば動きやすいやつがいいな」


「畏まりました。それでは、少し採寸の為触れますね・・・ふむ、なるほど。これはこれは・・・」


・・・触りすぎじゃね?

服飾のことは良く分からないけど、ナイスミドルめっちゃ触ってくるんだけど。


「これは素晴らしい・・・ハァハァ、上質な筋肉だ・・・付き過ぎず硬すぎず・・・最適な・・・ハァハァ・・・」


ヤ、ヤバイ奴だぁー!!

徐々に息遣いが荒くなってくるナイスミドルに、俺は心の中で絶叫をあげる。

俺の腕の筋肉触りながらウットリしてるんですけど!俺の腕を撫でる指先が絶妙に気持ち悪いんですけどっ!!


「も、もう良いんじゃないかな・・・」


「アァンッ!もっとぉ・・・はっ!?・・・失敬。そうですね。採寸はもう大丈夫です」


「・・・ハイ」


この人、間違いなくやばい奴だ。どうしよう鳥肌が・・・


「それでは、お客様のご要望に沿った品を見繕ってきますので少々お待ちを」


「アッ、ハイ」


断る間もなくナイスミドル改めヤバい奴は、店の奥へと引っ込んで行ってしまった。

しょうがない。見るだけ見て帰るか。


「お待たせ致しましたっ!」


「はやっ!?」


「ふふ、店の中の服は全て把握していますので・・・ささっ、どうぞ。奥の試着室でご試着を」


「あっ、はい・・・」


俺は秒速で戻ってきたヤバい奴に服を上下数セット渡されると、促されるままに試着室へ誘導される。


「・・・着るだけ着るか」


悔しいことにヤバい奴がチョイスした服は、どれもセンスが良かった。

この服を着てみたいと思ってしまった自分が憎い。


「うわぁ・・・ピッタリだわ・・・」


袖を通してみると、何とサイズが丁度良かった。

しかも布も伸縮性があるもので、腕や膝を曲げても動きを全然阻害しないときたもんだ。


・・・そういえば服飾デザイナーって、その感性故に独特な人が多いって聞いたことあるな・・・あのヤバい奴も実はそうなのか?

あの執拗なお触りも、サイズを確かめるプロの技だったのかもな。仕事だけ見ると、めちゃくちゃ良い仕事してるし、俺の偏見だったのかもなぁ。


「店主、これ気に入っ・・・」


「ハァハァ、あの素晴らしい筋肉が・・・私の服を・・・ハァハァ・・・私の服であの筋肉が包まれて・・・」


「・・・」


俺は試着室のカーテンを開け・・・無言で閉めた。

そして、再度カーテンを開ける。


「お客様、ご試着してみての感想はいかがですか?」


「アッ、ハイ。トテモイイデス。ゼンブカイマス」


「ご購入ありがとうございます。またのご来店・・・とても、とても楽しみに待っています」


・・・前言撤回。ただのヤバい奴だったわ。






「いやー、とんでもない店だったな」


「クルゥ?」

「ボァ?」


「あー、そっか。お前らは店の外にいたからなぁ・・・何でもない。気にすんな」


「クルル」

「ボッ」


エイスとボーズを店の中に入れないで正解だったわ。あのヤバい奴は、二匹には見せれない。

あのヤバい奴、服のセンスといい素材選びといいすごく良い仕事するのに・・・致命的にヤバいんだよなぁ・・・

あんまり行きたくないけど、服を買い足さないといけなくなったら我慢してまた行くか。


「・・・見て、すごい・・・メン」

「王子・・・みた・・・」

「かっこ・・・い」


「・・・ん?」


「キャー!こっち見たっ!」

「ねぇねぇ。どうしようどうしよう」

「ありがとうございますありがとうございます」


「???」


・・・さっきより、めっちゃ見られてる気がする。

っていうか、目が合っただけで慌てふためいてるんだけど・・・ウッ!過去のトラウマがっ!


「クルル!」

「ボッ!」


「ハッ!?」


危ない危ない。またトリップしかけてたわ。エイスとボーズに感謝だな。


「よし、ギルドに行って適当に依頼受けに行くか」


「クルルッ!」

「ボァッ!」


そういえば初依頼だな。何か冒険者って感じがしてワクワクしてきたぞ。




「ってことで依頼の受け方を教えて下さい」


というわけで、やってきましたよ冒険者ギルド。よくよく考えると、依頼の受け方とか分からないことに気付いた俺は、受付嬢さんに聞くことにした。

分からないことは、知ってる人に聞くのが一番の近道だよね。


「は、はい!あ、あのっ。わ、私で良ければ喜んでっ!」


「あっ、ありがとう」


・・・何だか受付嬢さんの熱量がすごいな。昨日はすごい事務的な対応だったのに。


「・・・そんなお礼だなんて」


「マリアちゃんが・・・ウソだろ・・・」

「あの難攻不落のマリアちゃんが・・・」

「俺狙ってたのに・・・あの野郎・・・」

「誰だあの野郎、俺らのマリアちゃんを・・・」


頬を赤らめて微笑む受付嬢さんと、顔を真っ赤にして俺を睨みつける冒険者達(男)。

えっ、何で?何で俺そんなに恨まれてるの?


「依頼の受け方でしたよね。依頼は全てそこのクエストボードに貼られています。討伐依頼ですと、討伐の証拠として各魔物に応じた部位の提出が必要となります」


「ほうほう。その提出部位以外はどうなるんだ?」


「提出部位以外の物は、基本的に自由にして頂いて大丈夫です。ほとんどの人は、ギルドに売却されてますね」


なるほどね。俺も肉は取っといて、残りはギルドで売り払うかな。


「採取依頼ですと、採取した物の状態や鮮度によっては、報酬が増減しますので注意が必要ですね。また護衛依頼は依頼によっては長期間拘束されてしまいますので、街を移る時に利用したりされていますね」




「へぇ、色んな種類の依頼があるんだね」


「お役に立てて光栄です」


いやー、聞いてみて良かった。受付嬢さんがすごい丁寧に説明してくれたおかげで、大体のことは分かった。

しばらくは討伐依頼オンリーで行こうかな。色んな魔物の味を確かめてみたいし。


「あ、あのっ。良ければこの後・・・」


「そうだ。ついでに魔物の素材買い取りしていい?コレとコレなんだけどっ」


せっかくギルドに来たことだし、少し素材でも売っとくか。

俺は指輪から熊の牙と毛皮を五本ずつ、カウンターに置く。


「えっ?あ、はい。大丈夫で・・・えぇっ!?キングボアッ!?」


「ん、そんな名前だったかな?昨日も売ったじゃん」


「・・・えっ?」


俺の言葉に凍り付く受付嬢さん。・・・何を驚いてるんだろう?昨日も同じ魔物の素材売ったし、別に驚くことないと思うけど。


「・・・おい。あれってキングボアじゃ」

「昨日もとか言ってたよな?・・・まさか」

「いや、俺は信じないぞ・・・あのモジャモジャがあんなイケ・・・」


俺が素材を出した途端、後ろから様子を伺っていた冒険者達(男)も何だか騒がしくなってきたな。


「あ、あのっ!」


「ん、何?」


「も、もしかして・・・モジャモジャさんですか?」


・・・えっ?俺、もうモジャモジャで定着されてるの?ウソでしょ?


「・・・確かに髪も髭も伸び放題だったね」


「「「「えええっ!?あのモジャモジャっ!!?」」」」


俺の肯定の返事に、受付嬢さんも冒険者達も驚愕の声をあげる。



・・・泣きそう。

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