第37話魅惑のカレーライス②


「こ、これがカレーライスか」


俺は目の前に置かれた一品の料理に戦慄を覚える。

一粒一粒が白く輝くライス。そして鼻腔から突き抜けるように食欲を刺激するスパイシーな香り。


だけど、それを帳消しにしてしまうその見た目・・・まさに・・・


「なぁ、やっぱこれウンへぶらっ!!」

「おだまりっ!!」


またロケがアンバーに張り倒されてる・・・言わなきゃいいのに。


「ロケの言いたいことは分かるけど・・・これは食べるのに勇気がいりますね」


「・・・あぁ、これはな」


そうなんだよね。口には出さないけど、ロケの気持ちは痛いほどわかる。

このライスにかかってる茶色さ具合といい、絶妙なトロみ加減がウン・・・いや、言うのはやめておこう。

最後まで言ってしまうと、それはもう食への冒涜だ。


「ならアンバーが最初に食べてみろよっ!」

「うっ!?そ、それは・・・」

「ほらほら!早く食べろよっ!」

「う、うるさぁーいっ!!」

「ふぼぁっ!?」


「お前らは、何やってんだ・・・」


「だってぇ・・・シルスナさん・・・」


逆ギレ気味にロケを再度張り倒すアンバーに、俺は呆れる。

いや、アンバーの気持ちも分かるよ?確かに最初の一口は覚悟がいる。ロケのように急かされたら、そりゃ張り倒したくなるわ。


「高い金払ってるんだ。良い加減覚悟を決めろ」


「は、はい・・・」

「・・・そうですよね。大分奮発しちゃいましたから」

「男は度胸だぜ!こんなウンぜぶらぁっ!?」


・・・ロケのやつ、本当に懲りないな。


「・・・よし、行くぞ?頂きまーすっ!」


「「「頂きまーすっ!」」」


腹を括った俺たちは、スプーンでカレーライスを掬い口の中へと放り込む。




「「「「っっっ!!!?」」」」




「「「「うっ、美味いっ!!!」」」」




な、なんだこれ・・・めちゃくちゃ美味いじゃんかっ!

辛いんだけど、辛さの中に不思議と甘味があるというか・・・何て言ったら良いかわからん!でも、今まで体験したことのない美味さだな。スプーンが止まらない。


「はぐはぐ、お、美味しい・・・」

「う、うめぇ・・・うめぇよぉ・・・」

「これがライス・・・これがカレー・・・」


ははは、三人とも一心不乱に食べてる。まぁ、俺もその中の一人なんだけどな。


「これはライスが良い仕事してるな」


茶色いスープのあまりの美味さに気付かなかったけど、ライスが茶色いスープと美味いこと絡み合って抜群の相性だなこれ。

それに中に入ってる具材も、大きくカットされてて食べ応えがあるな。

特にジャガイモとか、蒸かす以外にこんな食べ方があったんだなぁ・・・味が染み込んでて美味い。


「良い食べっぷりネ、気にいたカ?」


「あぁ、こんな美味い料理初めてだ」


「そうだろネ、ここの人タチ調味料と野菜を使いこなせてないネ」


「・・・そうなのか?」


「そうネ。色と辛さは調味料、味の奥深さは野菜。これがカレーの極意ネ」


「良いのか?そんな大事そうなこと簡単に言って・・・」


簡単にカレーライスの極意を暴露する店主。

そんなこと言って大丈夫なのか?カレーライス真似されるぞ?


「心配ないネ。調味料だけでも十数種類つかてるシ、野菜も溶け込んでる分数えると相当ネ。他にも隠し味つかてるシ」


「お、おう・・・」


もしかして、このカレーライスは俺が思っている以上に作るの難しいのか?

俺は既に空になった皿を見詰める。確かにカレーライスは美味かった。


美味い・辛い・甘いが混ざり合ってて、独特な旨味を作っている。

これまで俺の中で料理の極地だと思ってたシチューを、余裕でぶっちぎって断トツ一位に躍り出たくらい美味い。


「・・・あっ、なくなっちゃった」

「ほ、本当だ・・・」

「あっという間だったな・・・」


どうやら三人も、カレーライスを食べ終えたらしい。

しかし、ガッツき過ぎて味わうのを忘れてたらしく、三人とも悲しそうな表情で空になった皿を見詰めてる。

その様子がおかしくて、ついつい笑いそうになってしまう。

そうだよな。美味いもん食べるとそうなっちゃうよな。


「店主、おかわりだ。四つくれ」


「アイヤー、お客さん太っ腹ネ!ちょと待ってルネ!」


「えっ、シルスナさん・・・私たちお金が・・・」


「心配すんな。これは俺の奢りだ」


アンバー達が、恐る恐る俺に声をかけてくる。

いやいや、君たちの懐事情は大体分かってるから。心配しなくても奢るから。


「・・・でも」


「大丈夫大丈夫、次はもっと味わって食えよ」


「「「ありがとうございますっ!」」」


うんうん。素直が一番よろしい。

冒険者としては先輩だけど歳は俺の方が上だし、こいつら素直で可愛いからついつい可愛がっちゃうんだよなぁ。


学園時代は、アルジラのせいで孤立してたしな・・・はっ!いかんいかん、また過去の暗い思い出に浸るとこだった。

今はこいつらとカレーライスを楽しむのが一番だな。


「お待たせネー!カレー四つヨー!」


「「「「待ってましたー!」」」」


一皿目はガッツき過ぎたし、二皿目はちゃんと味わって食べないとな。








「ふぅ、食ったなぁ・・・」


「俺もう腹いっぱいだよ・・・」

「俺もこんなに食べたのは久しぶりです。シルスナさんありがとうございました」

「・・・」


「いいよいいよ。美味い店を教えてくれた礼だよ」


二皿目を平らげた俺らは、椅子にもたれ一息つく。

・・・一言で言うと幸せだったな。こりゃ繁盛するはずだわ。

料金はちょっと高いけど、話題になるのも常連客がつくのも納得の美味さだったわ。


「・・・」


「なぁ、アンバー。さっきから黙ってるけどどうしたんだ?」


さっきからアンバーが、何か考え込むように黙ってる。

どうしたんだろう。カレーライス食べ過ぎてお腹苦しいのかな?


「腹苦しいのか?ならトイぶはっ!!?」

「・・・決めた!私ここの弟子になる!」


「「はぁっ!?」」


デリカシーのないロケを、張り倒しつつアンバーは高らかに宣言をする。

・・・あぶねぇ。ロケが先に言わなかったら、俺が張り倒されてたな。


「いきなり何言ってるんだ?アンバー」

「私、本気よ!ここの料理にほれ込んだわ!」


「フフフ、話は厨房から聞いたネ。お嬢チャン、弟子になりたいアルか?」


「は、はい!私料理人になりたいんです!」


厨房から出て来る店主。ふざけた格好と口調とは裏腹に、射抜くような目でアンバーを見詰める・・・これは、料理人の目だな。

アンバーを見極めようとしてるに違いない。アンバーも店主の圧に押されながらも、自分の意思を貫く。


「フッ、そうネ。このカレーライスの隠し味を一つでも当てれたら弟子にするネ」


「・・・隠し味ですか?」


「そうネ、カレーの味をまろやかに、辛さと甘さを融和させる繋ぎの役割をしてる隠し味があるネ。頑張って当ててみるネ。外れたら弟子入りはナシネ」


「・・・分かりました」


目をつむり集中するアンバー、静かに答えを待つ店主。そしてそれをハラハラしながら見てるダーツとロケ。

・・・何だこれ?カレーライスを食べに来ただけなのに、何だか職人バトルみたいなのが始まったぞ。


「どうやら、決まったみたいネ」


「・・・はい」


「それなら、言ってみるといいネ」


どうやらアンバーの考えがまとまったらしい。


「・・・味をまろやかにする為にチーズを、辛味と甘味を融和させるためにリンゴと・・・蜂蜜を使ってます!」


「っ!!」


アンバーの出した答えに、店主は目を見開く。


「アイヤー!まさかそこまで当てるとは思わなかたヨ!アナタ、天才ネ!」


「えっ、それじゃぁ・・・」


「イイヨ!弟子にするネ!私の指導厳しいけど・・・ヤルカ?」


「はいっ!よろしくお願いします先生!」


「フフッ、気にいたヨ。さっそく厨房に来るとイイネ」


「はいっ!」


「・・・良かったな、アンバー」

「へへっ、俺らも負けてらんねぇな」


「・・・えぇ」


見事カレーライス屋に弟子入りを果たしたアンバーと、それを静かに喜び見守るダーツとロケ。


・・・何だこれ?俺だけ、置いてけぼりなんだけど。



何だこれ?




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