第36話魅惑のカレーライス①


「シルスナさんっ!こんにちはっ!」

「「こんちゃーすっ!」」


「・・・ん?おぉ、アンバーか。ダーツとロケも依頼中か?」


東の森の帰り道、俺は揺るぎない光の面々と出くわした。

相変わらず元気なやつらだな。アンバーに至っては、俺の姿を見つけるや否や走って寄って来てくれる。


「はい、俺たちは香草の採取依頼で来ました」

「見てくれよ!今日はこんなに獲れたんだぜっ!」


「ほぉ、どれどれ・・・何か独特な臭いだな」


ロケが嬉しそうに袋の中を見せてくれる。

袋の中には数種類の草や木の実が入っていたけど、どれも見たこともないものばかりだった。まぁ、採取依頼やったことないから、薬草すら見分けれないんだけどね。


「この草や実って、なんと今話題のカレーライスのスパイスになるらしいですよ!」


「・・・カレーライス?」


初めて聞くな。聞くからに料理ってのは分かるけど・・・ライスってあのライスだよな。高級食材の。

うーん。想像もつかん。


「シルスナさんカレーライス知らないんですか?」


「全く知らん」


「カレーライスっていうのは、あの高級食材のライスにカレーというスープをかけて食べる料理のことですね」

「俺らも食べたことはないんだけど、めちゃくちゃ美味いらしいぜ」


「・・・ほう。ライスにスープとな」


それは初めて聞く食べ方だな。

肉と一緒に食べるのが一番美味い食べ方だと思ってたけど、ライスにスープか・・・それはそれで美味そうだな。


「この依頼の報酬も破格だし、街に戻ったら食べに行ってみようって話し合ってた所です」

「あぁ、とうとう私たちもライスデビューしちゃうのね」

「楽しみだなっ!」


「ライスって高級品だろ?お前ら、金払えるのか?」


ちょくちょくライスは食べてるけど、ライス一杯で普通に銀貨は飛ぶぞ?


「そこは全然問題ないですよ!」

「そうなんです。最近ライスの大量生産に成功したみたいで、私たちでも頑張れば手が届くくらい値段が下がってるんですよ」

「今じゃ空前のライスブームなんだぜっ」


「マジか、知らんかった・・・」


そんなの初耳なんですけど・・・えっ、っていうかこの前ライス食べたけど、普通に銀貨飛んだぞ?

もしかしてぼったくられた?


「良かったらシルスナさんも、一緒にどうですか?」


「俺も行っていいのか?」


この前いった料理屋にどう報復してやろうか考えてたら、アンバーが俺もカレーライスに誘ってくれる。


「もちろんですよ!私もっとシルスナさんとお話したいですし・・・」

「あはは、俺も外の話とか聞きたいですね」

「飯はみんなで食うと美味いしなっ!」


「そっか、それじゃ俺も一緒させてもらうかな」


・・・良い子やこの子達。笑顔が眩しい。

アンバーは頬が赤くなってるけど、どうしたんだろう?


「そういえば、シルスナさんは何してたんですか?エイスにボーズもいませんね」


「あぁ、今日は蜂の巣を狩ってたわ。エイスとボーズは、そこら辺を走り回ってるからボチボチ戻ってくるよ」


ダーツの質問に俺は苦笑しつつ応える。

実はここ最近、毎日蜂の巣を狩るのが日課になってるんだよね。

なんでかって?・・・ゴリラがねだってくるからだよ。


みんな想像してみ?筋肉ムキムキのゴリラが上目遣いで、おねだりポーズしてくるんだよ?

あまりの気持ち悪さに負けて、蜂の巣を狩ってるわ・・・


あのゴリラ、すっかり蜂蜜にハマってるんだよね。そりゃ、美味しいけどさ。

あんなに甘いのを毎日はちょっとな・・・


「・・・蜂の巣を。ははっ、さすがシルスナさんですね」

「・・・ちょっと私たちには、分からない世界だわ」

「シルスナさんすげぇな・・・」


「・・・そうか?まっ、俺も帰るつもりだったし帰ろうか」


「「「はいっ!」」」


カレーライスか。食べるのが楽しみだな。




・・・




・・







「ここです!ここがカレーライス専門店『怒れるガンジー』です」


「へぇ、こんなとこに店なんてあったんだな」


噂のカレーライスの店は、アルド北区にあった。

アルド北区は、歌劇や見世物小屋などの娯楽施設で賑わっている区画だ。あんまりそういうのに興味のない俺にとって、アルド北区はあまり行く機会がない・・・飯屋も少ないしな。


でも、こういう店を見逃してるのも事実なんだよなぁ。

今度、街全体をブラブラ散歩でもしてみるか?他にも美味い店があるかもしれないし・・・


「シルスナさん、入ろうぜ!俺腹減ったよぉ・・・」


「あぁ、すまん。それじゃ、噂のカレーライスを食べるか」


「「「おぉー!」」」


いかんいかん。今は目の前のカレーライスとやらに集中しないとな。


「おー、結構繁盛してんのな」


「俺たちも初めて入りましたけど・・・これはすごいですね」

「うわぁ~、良い匂いがする」

「おっ、ちょうどあの席が空いてるぜ!あそこに座ろうぜ!」


さすが巷で話題になってるだけのことはあるな。

店内の席がほとんど埋まってる。でも、みんなが食べてるあの料理は何なんだ・・・?茶色いんだけど。


「さてとメニューは・・・ってカレーライスしかないのか」


メニューがカレーライスのみとは・・・強気だな。

だけど、それだけカレーライスに絶対の自信を持っているともとれる。

これはちょっと期待できるかもしれんな。


「すみませーん!カレーライス四つくださーい!」


「アイヨッ!ライスの量はどうするネッ!」


「私、普通で!」

「「俺らは大盛りでっ!」」


「・・・うーん。俺は普通でいいかな」


「アイヤーッ!わかったヨ!ちょっと待ってナ!」


「・・・なぁ、あの店主。何で頭に布をグルグル巻いてんだ?」

「さぁ、俺にも分からないや」

「・・・カタコトだし、遠い国の人なのかしら?」


コソコソと店長について、話し出す三人。

まぁ、気持ちは分かる。あの店長・・・何て言うか個性のバーゲンセール状態だもんな。


真っ黒な肌に、胸元にまで伸びた髭。更には頭に布をこれでもかってぐらいグルグルに巻いてる。オマケに変なカタコト言葉ときたもんだ。


でも俺の経験上、変なやつほどその道のプロだったりするんだよなぁ・・・服屋の変態みたいに。


「・・・ライス。夢にまでみたライス」

「こらっ、ヨダレが垂れてるわよ」


ははは、ロケがまたアンバーに叱られてるな。

この三人は、本当に仲いいよなぁ。同じ村の出身とも言ってたし・・・ん、待てよ?村か・・・何か忘れてるような・・・


「いつかボラおばさんにも食べさせてあげたいなぁ・・・」

「あぁ、それ分かる。ボラおばちゃんライス食べてみたいって言ってたしな」

「・・・いつか俺らが冒険者として成功したら、ボラさんにも食べさせてあげようよ」

「はは、そだな」

「うん、賛成」


・・・ボラおばさん?あぁっ!思い出したっ!!

ボラさんの息子の・・・何だっけ、ガレス?アレス?みたいな名前の息子を探さなきゃいけないんだったわ。


「お前らボラさん知ってるのか?」


「えっ、シルスナさんもボラおばさんを知ってるんですか?」


「あぁ、ボラさんにはちょっとした恩義があってな。って言っても、俺の知ってるボラさんは、この街から少し離れた寂れた農村にいるボラさんだけどな」


「それ多分私たちの村ですよ。懐が深くて誰にでも優しくて、まるで自分の子供みたいに接してくれる素敵な人なんです・・・」

「その分、怒るとこえぇけどなっ!」

「ははは、言えてる」

「それはあんた達が色々やらかして、叱られてるだけでしょ!」


「・・・間違いなく俺の知ってるボラさんだな」


いやー、まさかボラさんの知り合いが、この三人だったとはな。

世間って広いようで、狭いよな。

でもこれで、やっとボラさんの息子さんの行方も分かるな・・・忘れてたけど。


「それでな、ボラさんに息子いるだろ?・・・何だっけ、ガレスかアレスみたいな名前の」


「クレスお兄さんのことですか?」


「そうそう!そのクレスってやつは、どこに行ったら会えるんだ?」


「えぇーっと、クレス兄さんはその・・・」


ん?ダーツもアンバーも言いにくそうしてるけど・・・まさかもうこの世にいないとかかっ!?

それは確かに言い辛いな。そうだよな。冒険者になるとか言ってたし、そういう場合もあるよな・・・二人ともそれなりに付き合いはあるだろうし、悪いこと聞いちゃったかな。


「クレス兄ちゃんなら冒険者警察として働いてるぜ!」


「・・・えっ?」


「ちょ、ちょっとロケ!」

「何だよ。本当のことじゃん」

「ロケ、シルスナさんは冒険者警察が嫌いなんだ・・・」

「えっ!?・・・マジ?」

「もおぉ!私たちまで嫌われちゃうじゃないっ!」


「えっ?えっ?」


ちょっと待って。クレスとやらは生きてるの?そして、いつの間にか俺って冒険者警察嫌いになってるの?


「なぁ、俺って冒険者警察嫌いってことになってるのか?」


「えっ、違うんですか?」


「いや、別に好きでも嫌いでもないけど」


「でも前に冒険者警察と揉めたって・・・すごい殺気を出すくらい怒ってたって・・・」


「・・・あぁ、あれね」


ビックリするほど思い当たる節があったわ。

エイスとボーズを蹴られた件ね。確かにあれにはブチ切れたけど、別にだからと言って冒険者警察そのものが嫌いになったってわけじゃないしなぁ。


「あの件は未だに許せないけど、でも冒険者警察全体を嫌いになったわけじゃないぞ?」


「・・・本当ですか?」


「こんなことでウソついてもしょうがないだろ」


「「・・・はぁぁ、良かったぁ」」

「どうしたんだ?二人とも突っ伏して?」


安心したのか息を吐きだしながら、机に突っ伏すダーツとアンバー。

ロケは何が何やら分からないって感じで、二人を見てる。


「俺って冒険者警察嫌いってなってるの?」


「はい、冒険者ギルド内ではかなり有名ですね」

「しかもシルスナさんって強くて有名だから、冒険者警察がシルスナさんと鉢合わないように避けまくってるって聞いたことがあるわ」


・・・言われてみれば、最近冒険者警察の姿を見ないような。

あれって俺を避けてたの?ちょっと傷つくんだけど。

そんなアルジラじゃあるまいし、俺は冒険者警察だからって無暗に殴りかかるような危ないやつじゃないんだけどなぁ。


「おまたせネ!カレーライス四つヨッ!!」


「おっ、きたき・・・」


俺らの話をぶった切るように、店主がカレーライスを持ってきた。

今はカレーライスに集中しよう。俺は運ばれてきたカレーライスを見て固まる。


白く輝く白米の上にかかる茶色いドロっとした香ばしい液体。


・・・これはまるで。




「うぉっ!ウンげはっ!!?」




ロケが言ってはいけない言葉を言う前に、アンバーによって張り倒される。

・・・あぶねぇ。危うく俺もアンバーに張り倒されるとこだった。




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