第44話クリスマス閑話① サンタがやってきた


「うぅ~、寒いな・・・」


ゴブリンを討伐すべく、アルドを出発して一週間。

道のりは順調だが、冬期の到来のせいでめっちゃ寒い。吐く息は白いし、風は肌を突き刺すように冷たい。


「ガッハッハッハ。どうしました旦那!」


「ハ――ゴードン。お前・・・寒くないのか?」


「これくらい屁でもねぇですよ!なぁ、野郎どもっ!!」


「「「ウィーッス!!」」」


「・・・そっか」


この寒空の中半袖のような恰好で、平然としているハゲを筆頭とした『鉄の斧』の面々。

中には上半身裸の猛者までいやがる・・・冒険者ってすげぇな。

すげぇけど、まったくもって憧れない不思議。


「・・・まったく。相変わらずバカみたいな恰好してるわね」


『鉄の斧』の面々に感心していると、奥の方からイザベラが呆れた表情でやってきた。

だけど、当のイザベラも割と薄着なのに平気そうだ。胸辺りなんて大きく開いてるし・・・寒くないのか?やっぱりプラチナにもなると鍛え方が違うのかな?


「そういう割にはイザベラも薄着だけど・・・寒くないのか?」


「えっ、あっ!――ご、ごほん。私たち魔導士は、魔法で自分の周囲の温度を調節できるの。だから冬でも夏でも平気なの」


・・・ちょっと見過ぎたかな?

イザベラが恥ずかしそうに、胸元をローブで隠してしまった。

男の子だもん。見ちゃうのは仕方ないよね。


それにしても、魔導士って便利なんだな。

俺も生活魔法なら少しは使えるけど、周囲の温度調節なんて繊細なコントロールは無理だ。


「へぇ、すごいな」


「ふふ、これくらい私たち『深淵の園』のメンバーはみんなできてよ」


「「「はいっ!」」」


自慢気なイザベラとそれに応える『深淵の園』の面々。

魔法に対して、絶対の自信を漲らせてる。フィジカルの『鉄の斧』とマジカルの『深淵の園』・・・うんうん、頼もしいな。


「ハッ、魔法使わないと耐えれない軟弱者がっ」


「・・・なんですって?」


「鍛え方が足りねぇんだよ!魔導士はもやしばかりだからなぁ」


「ふんっ!頭の中まで筋肉が詰まってるバカに、そんなこと言われる筋合いはないわ」


「・・・あ?」


「・・・何よ」


おっと、急に頼もしくなくなったな。

コメカミに血管を浮き上がらせるハゲと、おなじくコメカミに青筋を立てるイザベラ。

前々から思ってたけど、コイツら仲悪いのか?


「兄貴の言う通りだぜ!」

「陰気なヒョロガリがよー!」

「そうだよな。イザベラ以外は・・・」


「なんですっ!!この筋肉ダルマ!!」

「アンタ達、むさ苦しいし臭いのよっ!」

「そうよ!だからモテないのよっ!」


「なんだとゴラァッ!」

「てめぇ、言い過ぎだろっ!ライン越えたぞっ!!」


「何よっ!本当のことじゃないっ!」

「レディに向かって失礼よ!」


・・・おっとっと?

なぜか『鉄の斧』と『深淵の園』のメンバー同士が、ケンカしてるぞ?


「「「「表に出ろっ!(でなさいっ!)」」」」


・・・表も裏も、ここ外なんだが。

大丈夫かこいつら、沸点低すぎない?




シャンシャンシャンシャン




「・・・ん?何だこの音・・・鈴?」


『鉄の斧』と『深淵の園』が大声で騒いでるのに、不思議としっかりと鈴の音が聴こえてくる。

何だろう。聴こえるって言うか、頭の中に響いてくるって言った方が正しい気がする。




シャンシャンシャンシャン




「・・・段々、鈴の音が大きくなってきてるな」


一体どこから聴こえて来てるんだ?

今は見晴らしの良い平原を進行中だし、周囲を見渡しても魔物一匹すらいないんだが。




シャンシャンシャンシャン




「・・・あっ」


・・・何だあれ?

赤い服来たじーさんがソリに乗って飛んでるだが・・・ダメだ。脳の処理が追いつかない。

ハゲなら何か分かるかな?


「・・・なぁ、ハ――ゴードン」


「この陰気ローブ女っ!」

「なんですってぇぇぇ!!」


「・・・おい、ゴードン」


「この筋肉ハゲダルマ!」

「はぁぁぁ!?」


「おい!聞けやハゲッ!!」


「ガハラッ!?」

「キャッ!?」


「だ、旦那・・・いきなりどうしたんですかぃ・・・」


未だにイザベラとケンカしているハゲを張り倒す。


「あの飛んでる赤いじーさんって・・・何だ?」


「へっ?そんなじーさんが空を飛ぶわけ・・・が・・・」

「ま、まさか・・・信じられない・・・」


「ハゲとイザベラは、あの赤いじーさんを知ってるのか?」


空飛ぶじーさんを驚愕の表情で凝視するハゲとイザベラ。


「サ・・・」


「・・・サ?」


「サンタクロースだぁぁあっ!!」


「「「「なんだってぇぇぇっ!!!!」」」」


「・・・うぉっ!?」


ビックリしたー。ハゲの大声に冒険者たちがどよめき立つ。

・・・さっきまでケンカしてたって言うのに、みんなサンタクロースとやらに夢中だ。

あの赤いじーさんって・・・そんなにすごいやつなのか?


「なぁ、ハゲ・・・」


「野郎どもぉぉっ!サンタが来たぞ、並べぇっ!!」


「「「「サンタさぁぁぁあっん!!!」」」」


「おい聞けやハ――」


「まぁまぁ、シルスナさん落ち着いて」


「・・・ん?アンバーか」


ハゲに本日二発目のビンタを食らわせようとしたら、いつの間にかやってきたアンバーが割って止めに入ってきた。


「あの赤いじーさん・・・サンタクロースだっけ?あれは何なんだ?」


「えーっとですね。あれはサンタクロースというエスバー共和国が指定している災厄級指定の魔物の一匹ですね」


「魔物っ!?あのじーさんが・・・か?」


マジか、あれ魔物なのか・・・いや、空飛んでる時点でおかしいんだけど、見た目は白髭が立派なじーさんそのものだしな・・・

というか、災厄級ってことは大分やばい魔物なんじゃないか?

それなのに、何であいつらあんなに嬉しそうなんだ?


「シルスナさんが言いたいことは分かります。でも、あの魔物はちょっと特殊なんです」


「特殊?」


「はい。サンタクロースは、エスバーでは伝説の魔物で別名『武神』とも言われています。サンタクロースの前で自分の武を示すことで、その武に見合った恩恵が授けられるそうです」


「武神~?」


・・・アレが?

いつの間にか地上に降りてきたサンタクロースに、冒険者たちの列が出来てる。


俺は再度サンタクロースを見詰める。

う~ん。どこからどう見ても、赤い服を来た小柄なじーさんなんだけどな・・・あれが武神・・・


「噂ではゴードンさんはあのサンタクロースに見事武を示したことによって、その恩恵としてミスリルを授けられたそうですよ。そのミスリルで武器を作って、冒険者として名を馳せていったとか」


「へぇ~、当のハゲが最前列に並んでるとこを見ると・・・本当の話っぽいなぁ」


「みたいですねっ!私も何がもらえるか楽しみですっ!」


人に何かをプレゼントする魔物って、初めて聞いたわ。

ハゲを始め、どいつもこいつもウキウキしながら列に並んでるし、アンバーも列に並びたくてソワソワしてるし、ちょっと興味出てきたな。


「俺も並んでみるかねぇ。ちなみにどうやって武とやらを示すんだ?」


「聞いた話ですと、こっちの得意な戦い方にサンタクロースの方が合わせてくれるみたいですよ」


「おぉ、武神っぽいなそれ」


「私もサンタクロースの胸を借りるつもりで挑みますっ!あっ、ゴードンさんがさっそく挑むみたいですよ」


「おっ、どう戦うのか見学させてもらうか」


ちょうど今からハゲがサンタクロースに挑むらしい。

傍から見たら丸腰のじーさんに、ドデカい斧を持った筋骨隆々の大男が対峙してるやばい構図だけどな。


サンタクロースの実力、見させてもらうかねぇ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る