第4話神話の森浅層部 魔物の肉は美味い


「ギャウンッ!」


「・・・ふぅ、やっと片付いたな」


剣にこびりついた血を払いつつ、ボクは額の汗を拭う。

ジルフィールとエスバーの国境の森の中を進むこと三日、ボクはフォレストウルフの群れを一人で片づけていた。

息絶えてるフォレストウルフを、ボクは浮かない表情で見つめる。

フォレストウルフの体躯は優に二メートルを超え、その牙や爪はとても鋭くそこいらに生えている木程度なら容易くへし折ってしまいそうなほどだ。

前に戦ったゴブリンと比べると、言うまでもなく魔物としての格が違う。実戦経験皆無と言っていいボクが、このフォレストウルフに勝てる道理はない。しかし、そんなフォレストウルフに、たった一人無傷で勝ってしまった。しかもフォレストウルフの群れ相手に。


「・・・おかしい」


ボクの頭がじゃなくて、ボクの身体がおかしい。ゴブリン達との戦いを経て、自分の体に違和感があるのは感じていた。

なんというか、身体がいつもより軽いような力が漲るような感じがする。気のせいというわけでもなくて、訳のわからんスピードで走れるようになったし、ジャンプをすれば木の枝まで飛び上がれるようになった。極めつけは感覚も鋭くなっているみたいで、背後から奇襲をしかけてくるフォレストウルフにも事前に察知することができた。


「・・・いくら何でもおかしい」


そして、また力が漲るような感覚が身体を駆け巡る。おそらくまたフォレストウルフが襲ってきても、今以上に余裕で対処できるだろう。なぜかそんな確信がある。

・・・もしかして、魔物を倒せば倒すほど強くなるとか?いやいや、そんなわけが・・・ないとも言い切れないな。現に訳の分からないレベルで強くなってるわけだし。


「試してみる価値はありそうだな」


この謎の現象を確かめるべくボクは周囲の気配を探る。むむ、少し先にいるな・・・この感じフォレストウルフか?

気配を探るだなんて熟練の狩人のようなことが出来るようになったこと自体もおかしいんだけど、今はそのことは捨て置いてもう一回魔物と戦ってみよう。

ボクは倒した魔物を指輪に収納すると、気配のする方へ進むことにした。


「おぉ、いたいた」


本当にいたよ。ボクの目の前には三匹のフォレストウルフがいる。魔物はボクに気付いていないのか、完全に隙だらけだ。

この時点で逆転してるよな。今度はボクが奇襲をかける立場だし、フォレストウルフはボクに気付けてもないし、やっぱりボクが強くなってるってのはあながち間違いでもなさそうだな。


「せいっ!」


「キャウン!?」

「グルァッ!?」


ボクはフォレストウルフの背後まで忍び寄り、流れるような動きでフォレストウルフ二体に致命傷を与える。倒した瞬間、確かにボクの身体から力が漲るのを感じる。

・・・うん。どうやら魔物を倒すと強くなるのは間違いないようだ。


「・・・グルルゥ」


ボクの力を感じ取ったのか、残った一体はボクを威嚇しているが目に怯えの色が見える。隙あらば今にも逃げ出しそうな感じだ。

でもボクは逃がすつもりはない。食糧は確保できる内に確保したほうがいい。もう目の前の魔物は、ボクにとって食糧にしか見えない。食べれるかはわからんけど。


「・・・悪く思うなよ」


ボクは短く呟くと、残ったフォレストウルフに剣を振り下ろした。










「やっぱり強くなってる」


少し離れた広い場所で、指輪から取り出したフォレストウルフ達を眺めながらボクは確信する。

ボクは魔物を倒すと強くなる!しかも一回倒すだけでめっちゃ強くなる。


「原理はわからないけどね」


何で強くなるかは全くわからないけど、この力がなかったら今頃フォレストウルフどころかゴブリンにやられてたわけだし、この力をくれた神様に感謝して有効活用していこう。


「・・・さて、検証は済んだしやるか」


ただ眺めるために、倒したフォレストウルフを指輪から取り出したわけじゃない。食べるためには、解体しないといけないからだ。

ゴブリンの集落では、既に捌かれた肉をゲット出来たものの、今後は自分で捌いていく必要がある。


「肉はもちろんとして、牙や毛皮も取っとくか」


魔物の素材は売れるって聞いたことがある。多少の路銀は持ってるけど、資金集めのために素材を持っておくのも悪くないしな。頑張って剥ぎ取ってみよう。


「えーっと。とりあえず皮を剥げばいいのかな・・・うぇっ、グロッ」


切りやすそうなお腹からナイフを入れると、内蔵がドロッと零れ落ちきた。それを見たボクは、思わず吐きそうになるのを堪える。


「うぅ・・・倒した時とは違ったグロさがあるな」


戦って倒した時はそれほど感じなかったけど、いざ至近距離で見ると気持ち悪さが際立つな。

後、血の匂いがキツすぎて慣れるまで時間かかるかも・・・


「これで不味かったら承知しないからな・・・ウェッ」


ボクはこみ上げる吐き気を何とか抑えながら、おぼつかない手で解体に取り掛かる。









「人間、不思議なもんで・・・腹は減るんだよなぁ」


フォレストウルフの解体を終えた頃には、すっかり日が落ちてしまっていた。

ちなみに今はたき火でフォレストウルフの肉を炙ってる所だ。めちゃくちゃ食欲をそそる良い匂いがする。

解体してる時はあまりのグロさに、肉なんてとても食べれる気分じゃなかったけど。人間お腹が空くとそんなの気にならなくなるんだね。人間って現金な生き物だわ。

おっと。そんなこと考えてたら、良い感じに肉が焼けてきた。


「それでは、いただきます。・・・うまぁ」


なんだこれ、なんだこれ!めっちゃ、美味いんだが!?ボクは無我夢中でフォレストウルフの肉にかぶりつく。

口の中に広がる濃厚な肉の旨味と肉汁。こんな美味い肉、王都の一流レストランでも食べたことないぞ!?


「はふっ、はふっ・・・あっ、もうなくなった」


気付くと焼いた肉をペロリと全て平らげてしまった。・・・フォレストウルフ恐るべし。ボクは満たされたお腹を満足にさする。


「しっかし、美味しかったなぁ。魔物の肉って実は美味いのか?それともフォレストウルフだから美味いのか?」


・・・これは検証する必要があるな。ボクはこれから積極的に色々な魔物を狩っていこうと、新たな気持ちを胸に決意する。食欲って大事。人間の三大欲求の一つだもの。


「ん?そうなるとゴブリンも実は・・・やめとこう」


ゴブリンを捌くとこまで想像して・・・辞めた。流石にゴブリンを捌くのは気持ち悪い。せっかくの良い気持ちが台無しだわ。あれはないわ。


「肉も獲れてオマケに強くなる・・・最高かっ!」


魔物を倒すとどういうわけかボクは強くなる。オマケに美味い肉もついてくる。これはまさに一石二鳥ではなかろうか?こんなに幸せで良いのだろうか・・・って思ったけど、そもそも国外追放されてるからプラマイゼロみたいなもんか。

でも、悔しいことに国にいた頃よりも今の生活の方が充実してるんだよな~。何というか、自分らしく生きてるって感じがする。


「・・・明日が楽しみだな」


まだ見ぬ肉・・・じゃなかった。ボクはどこまで強くなれるのか、ワクワクする心を落ち着かせながらもボクは眠りに落ちる。



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