第2話神話の森浅層部 初めての戦い

「ふぅー、とりあえずどうするかねぇ」


ボクは現在、森に少し入った場所で身を潜めている。

何でこんなとこで野宿してるかって?答えは簡単。愛すべき領民にここまで追いかけられたからだよ。

ちなみにこの森は、ジルフィール王国とエスバー共和国の国境にある森だ。そこそこ魔物が出るらしい。


もちろん領民もそのことを知ってるだろうし、流石にここまで追って来ないと踏んでボクは森の茂みに身を隠してる。

そのおかげか、これ以上の追手はなさそうだ。


「ここまでするか?普通」


未だ茂みに身を潜めつつ、追い立てられた出来事を思い出しボクは一人苦笑する。

追いかけられてる最中、出るわ出るわ罵詈雑言の嵐

。中には石を投げつけるやつもいたな。しかも、何が悲しいってボクも庇おうとする領民が誰一人もいなかった。


これでも次期公爵として、領民に豊かな生活をさせるべく頑張ってきたつもりだ。

一人くらいボクを庇おうと思ってくれても良いんじゃない?

悲しみと同時に領民や家族に対する愛情が、どんどんと無くなっていくのを感じる。


「・・・とりあえず進むか」


恨みつらみはあるけど、まずは生き残ることを考えないと。

とりあえず、真っすぐ森を進むと共和国に行けるのかな?行けるだけ行って、ダメだったらその時に考えよう。

ボクは意を決して森の奥へと進むことにした。





「うーん。腹減ったなぁ」


森の中を進んで数刻。お腹が空いてきた。お腹が空いたけど・・・食料買えなかったんだよなぁ。


「おっ、あそこに生ってる木の実って食べれるかな」


何か食べれそうなものがないか辺りを見渡していると、木の実が生っているのを見つけた。

おぉ、よく見るといっぱい生ってるぞ。見た感じ・・・食べれそうな気がするけど、いまいち自信がないな。


「食うか?・・・いや、これは最終手段に取っておくか」


まだ倒れそうなほど腹は減ってない。食べれるか食べれないか判別がつかない以上、いよいよ倒れそうな時にイチかバチかで食べよう。

とりあえず、袋いっぱいに詰めておくか。


「こんなもんかな。さて、動けるうちにもうちょっと進むか」


木の実も詰め終わり、再度森の奥へと進む。

この森の名前なんだったけな。ゴブリンとフォレストウルフしか出ない割には、何か御大層な名前が着いてた気がするけど・・・うん。忘れた。





「・・・あっ」


更に森の奥に進むこと数刻。ボクは一匹のゴブリンを見つけた。咄嗟に身を潜めたおかげか、ゴブリンはボクに気づかなかった。


「ギャギャッ♪」


ゴブリンの様子を伺うと、狩りの戦利品と思われる兎を捌いてる途中だった。


「うへー、あれがゴブリンか。初めてみたけど、結構気持ち悪いのな」


ボクは今もご機嫌で兎を捌くゴブリンを、まじまじと見つめる。

緑色の肌に、小柄ながらもおじさんのような顔にアンバランスな程に大きい頭。控えめに言って気持ち悪い。


でも今はゴブリンよりも、その手に握られてる肉の方に目がいってしまう。

森に入ってまだ一日目だけど、朝から何も食べてないし、おまけに領民に追いかけまわれるし・・・正直めっちゃ腹減ってるんだよなぁ。


「・・・何とか奪えないかな」


ゴブリンは未だにボクに気付いてない。・・・確かゴブリンは数は多いけど、単体ではとても弱いって聞いたことあるな。

実戦経験のないボクでも、背後から不意打ちかましたら倒せるかな?

サバイバル知識のないボクが動物なんて狩れるわけないし、これは貴重な肉をゲット出来る千載一遇のチャンスなんじゃないか?

そう思うと多少の危険は承知でも、やらないといけないような気がしてきた。


「イチかバチか、やるか」


ボクは腹を括ると、剣を抜き物音を立てないようにゴブリンの背後へと回り込む。


「ギャッギャッ~♪」


大分、近付いたけどコイツ気付かないな・・・そんなに肉が獲れてうれしかったのか?表情は見えないけど、背中姿だけでもめっちゃ喜んでるのが分かるわ。


まぁ、ボクからしたら好都合なんだけどね・・・悪く思うなよ!


「おりゃっ!!」


「ギャッ!?」


「くっ、浅いかっ!?」


ゴブリンは斬られるやいなや、瞬時にこん棒を取りボクに向けて戦闘態勢を取る。

さっきの不意打ちで倒したかったけど・・・過ぎたことはしょうがない。背中の一撃は、手応え的に浅くないはずだ。

落ち着こう。戦場では焦ったやつから死ぬって、誰かが言ってた気がする。


・・・誰が言ってたっけ?


あっ、漫画だわ。チクショウ。一気に落ち着けなくなったわ。


「ギャギャッ!」


「くっ」


ゴブリンの一撃を、ボクは剣で受け止める。

・・・剣を通して受けた腕がジンジン痺れてくる。

てかこいつ力強いな。深手を負ってるはずなのに、どんだけ力強いんだよ。


「お返しだおらぁ!」


「・・・ギッ!」


「くそっ、受け止められたか」


ボクは渾身の力を込めてゴブリンに剣を振り下ろしたが、ゴブリンは難なくこん棒で受け止める。

誰だよゴブリンが弱いって言ったやつは!めっちゃ強いじゃん!あのゴブリンが手負いじゃなかったら今頃ボク死んでるわ!・・・あぁ、これも漫画の知識だったわチクショウ!


「ギャッ!!」


「ぐっ!チクショウ、こうなったらとことんやってやらぁ!」


「ギャギャッ!!」


幸いなことにゴブリンは、背中の傷のせいで一撃ずつしか攻撃を繰り出せないようだ。まぁ、ボクも技量的に力いっぱい剣を振り下ろすことしか出来ないんだけどね。

こうなってくると体力比べだ!先に力尽きたほうが死ぬ。やってやらぁ!

ボクとゴブリンの生き残りを賭けた撃ち合いが始まる。








「ぜぇぜぇ・・・結構・・・しぶと・・・い・・・じゃないか・・・」


「・・・ギギッ」


撃ち合うこと数時間。未だに勝負は付かず、ボクもゴブリンもお互い肩で息をしていた。

背中に深手を負って本来の実力が出せないゴブリンと、片や実力がないため決定打が放てないボク。

その結果が、この泥仕合だよ。


「だけど、勝つのはボクだ!」


「・・・ギィ」


「ふっ、そうか・・・」


それはこっちのセリフだとばかりに、ニヒルに笑(ったような気がする)うゴブリン。

長い時間命を賭けて撃ち合ってたせいか、ボクとゴブリンの間に奇妙な関係が生まれた気がする。

長年の宿敵のようなライバルのような・・・上手く言えないけど、そんな感じだ。


「悪いけど、次の一撃で決めさせてもらうよ」


「・・・」


そろそろボクの体力も限界だ。むしろ、今まで良く体力が持ったと思う。

恐らくボクが打てるのは次の一撃で最後。これで決めれたらボクの勝ち、決められなかったらボクの負け。

今となってはアイツになら、やられても良い気がしてきた。まっ、最後まで全力は出させてもらうけどね。


「うぉぉ・・・・・・あれ?」


「・・・」


ボクはゴブリン目掛けて振り下ろした剣を止める。


「・・・そっか」


「・・・」


「お前、めっちゃ強かったよ」


「・・・」


ゴブリンはこん棒を構えた状態で死んでた。・・・最後まで立派だったよお前。ゴブリンなのが不思議なくらい戦士だったぜ。

ゴブリンと撃ち合うこと数時間、勝敗はゴブリンの失血死で幕は閉じた。

自分の手で倒せなかったのは悔しい。試合に負けて勝負に勝ったってとこか。


「勝ちは勝ちだ。これは貰っていくぜ」


「・・・」


ボクはゴブリンの持っていた肉を拾い上げ、ゴブリンに背を向け歩き出す。


「あばよ。宿敵ともよ」


「・・・」


ふっ、我ながら決まった。一度はやってみたかったんだよね。死闘を繰り広げた宿敵との最後の別れってやつ。

漫画で憧れたシーンをまさか再現できるとは・・・ゴブリンなのは仕方ないけど、満足したわー。


「はぁー、疲れたー。今日はこの肉食って、すぐ寝る・・・か・・・」


「ギャギャッ?」

「ギョア?」


「・・・おいおい。ウソだろ?」


その場を去ろうとしたら、目の前の茂みからゴブリンが出てきたよ。しかも五匹も・・・

ゴブリン達もまさかこんなとこに人間がいるなんて思ってなかったみたいで、ポカーンとしてらっしゃる。ボクも、まさかおかわりが来るなんて思ってなかったよ。


「あっ、お邪魔のようですね。失礼しま・・・」


「「ギャギャッ!!」」


「無理ですね。知ってた」


ゴブリン達が呆気に取られてる隙に、その場を離れようとしたけど無理だったわ。

てか、これ詰んだわ。不意打ちかましたゴブリン一匹倒すのに数時間かかったのに、五匹とかこれ詰んだわ。無理げーだわ。

オマケに逃がしてくれるつもりもないみたいだわ。ボクを取り囲んでニヤニヤしてらっしゃる。

だがな!こっちもタダでやられるわけにはいかないぞ!


「うぉぉぉ!やってやらぁ!」


「ギョエッ!?」


「・・・えっ?」


あれ?ダメ元で斬りかかったら、一撃で倒せたぞ。しかも、結構簡単に。

ボクの動きに全く反応出来なかったゴブリンは、一撃で胴を切断され絶命する。


「ふっ!はっ!」


「ギョアッ!?」

「ギョペッ!?」


続けざまに、二匹のゴブリンを一撃で倒す。・・・何でボクこんなに剣を上手く扱えてるんだろう?さっきまで、剣を一回振るうので精一杯だったのに。なぜか剣が羽のように軽く感じる。


「ギャギャッ!」


「甘いっ!」


「ギュアッ!?」


背後から襲い掛かった来たゴブリンを見ることなく避け、そのまま流れるような動作で切り伏せる。

・・・なんだか自分の体じゃないみたいだ。不思議な感覚がする。


「残るはお前だけだな」


「・・・ギギィ」


あっという間に形成が逆転し、戸惑うゴブリン。わかるよ。まさかこうなるとは思わなかったよな。ボクも思ったわ。

なぜかわからないけど、絶体絶命の窮地で火事場の馬鹿力的なものが出てるのかな?どっちにせよ、今のボクならゴブリンに勝てる程度には強くなってるみたいだ。


「悪く思うなよ」


「ギェピッ!?」


ボクは最後の一匹を、一撃で首をはねる。


「ふぅー。何とか生き延びたか」


ボクはその場にへたり込み、吹き出た汗を拭う。・・・正直、かなりやばかった。死ぬかと思った。

今でも勝てたのが信じられないくらいだよ。


「あっ、剣にヒビが・・・これはもうダメだな」


多分、最初のゴブリンと撃ち合ったせいかな?剣に大きな亀裂が入ってるわ。鋼でできた剣をこん棒でここまでダメにするとか・・・一匹だけとは言え、良く戦おうと思ったなボク。


「流石に手ぶらはまずいよな。こいつら何か持ってないかな・・・」


武器がないのは流石にやばい。ボクは重い腰を何とか奮い立たせ、ゴブリンの持ってる物を漁る。

うげっ、くさっ!戦ってた時は気付かなかったけど、こいつらくさっ!うーん。あんまり触りたくないけど、仕方ないか。


「武器は、手斧と小剣かぁ・・・小剣を使うか。おっ、コイツ木の実持ってる。・・・食えるのかな?」


ボクは激臭に耐えながら、ゴブリンの持ち物を漁る。そこそこ状態の良い小剣と、数種類の木の実をゲットすることが出来た。食べれるのかは謎だけど、ゴブリンも食べるために採ったと信じたい。


「こんなもんか。今日は疲れたし、さっさと休める場所探すか」


気付けば大分陽が傾いていた。この周辺には少なからず魔物がいることも確認できたし、暗闇の中を歩き回るのは危険かもしれない。これは早く安全な場所を見つける必要があるな。

ボクはゴブリンからもぎ取った戦利品を回収し、移動の準備をする。


「洞窟とか雨風凌げて便利かもなー。とりあえず真っすぐ進むか」


本当は今すぐにでも休みたいけど、もうちょっと頑張りますかね。ボクは、乳酸の溜まった足に鞭打って前へ進むことにした。







・・・






・・・







「・・・」


「「「・・・・・・」」」


「・・・ふむ」


「「「・・・ギョ?」」」


今日は厄日なのかな?進んだ先には、ゴブリンの集落があったよ。

・・・え?なにこれ。百匹はいるんだけど?無数のゴブリン達が動きを止めてボクをガン見してるよ。


「すいません間違えました。失礼しま・・・」


「「「ギャギャッ!ギャッ!!」」」


「ですよねー!ちくしょうやったらぁ!!」


こうならヤケじゃい!ボクは、一人ゴブリンの集落へ特攻をかます。



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