第39話半魚人の魚卵と刺身
「・・・どうやって捌くか」
俺は目の前に横たわっている魚について考える。
魚の部分だけで言えば、およそ体長二メートルくらい。足も入れたら三メートルってとこかな。
「とりあえずは足をもぐか」
魚の腹を捌こうにも、足が邪魔だしな・・・そぎ落とすか。
俺は魚の胴体と足の接合部分に、ナイフを入れる。
「・・・えっ?」
足は思いのほかあっさりと、そぎ落とすことができた。
というより、ナイフに骨の感触すらしなかったんだけど、どうなってんの?
「うわぁ、グロッ」
俺は魚の足を掴み、マジマジと観察する。
どっからどう見ても、人の足なんだよなぁ・・・これ食えるのか?
うーん。共食いしてるみたいで、食べるのはちょっと無理だな。
かといって、そこら辺に捨てても何かとんでもない勘違いをされそうな気がする。
「指輪に入れとくか」
うん。それがいい。困った時は、倉庫にぶち込むのが一番。
俺は魚の足を指輪に収納する。恐らくもう二度と出すことはあるまい。
「さーて、お待ちかねの魚の部分を捌くか」
「クルッ!」
「ボァッ!」
足さえ無くなれば、最早タダのでっかい魚だな。
こうして見ると、脂がのっててめっちゃ美味しそうじゃん。
俺は意気揚々と、魚の腹にナイフを入れる。
「うわっ!なんじゃこりゃっ!?キモッ!?」
魚の腹にナイフを入れた瞬間、拳大の球体のようなモノがドロっと大量に零れ落ちてきた。
「・・・卵?」
俺は、零れ落ちた卵を一つ掴み取る。
魚卵ってやつだよな?・・・アイツ、メスだったのか。美脚だったもんね・・・
「クルッ♪クルッ♪」
「ボッ♪」
「あっ、おい!そんなの食べたらお腹壊すぞって・・・美味いのか?」
エイスとボーズが、魚卵を美味しそうにパクパク食べている。
二匹を注意しようと思ったけど、あまりに美味しそうに食べるもんだから、俺も魚卵の味がすごい気になってきた。
・・・食べるか?あの魚の卵だぞ?
脳裏に色仕掛けをしてきたクソ魚の姿が浮かぶ。
すごい拒否感が俺を襲うが、それ以上に気になる。魚卵の味が気になって仕方ない。
「えぇいっ!俺も食うぞっ!」
ダメだ。もう我慢できん!
俺は手に持っていた魚卵を、口の中へと放り込む。
「っ!!これはっ!!?」
魚卵を噛んだ瞬間、膜が破れ口一杯に魚の旨味が凝縮されたエキスが広がっていく。
「うっ、うめぇっ!!」
魚卵のエキスを堪能し、飲み込み。俺は気付くと叫んでいた。
叫ばずにはいられないくらい美味かった。
「何だこれっ、何だこれっ!」
「クルッ!クルッ!」
「ボァァ!」
俺は一心不乱に、魚卵を口の中へと詰め込む。
エイスとボーズも、負けじと魚卵を口の中へと詰め込む。
「何だこれっ、何だこれっ、何だこれっ、何だこ・・・あっ」
気付くと魚卵全てを食い尽くしてしまった。
・・・我を忘れて食べまくるなんて、森にいた頃以来だな。
認めるのは癪だけど、この魚めっちゃ美味い。この分だと、身の部分もすごく期待が持てるな。
「さーて、お次は身を剥いでいくか」
俺は不器用ながらも骨に沿ってナイフを滑らせ、身を剥がしていく。
骨を取って皮も剥いで・・・ふう、何とかなったな。
「ほぉ、ピンク色でキレイな身をしてるな」
薄ピンク色で、見てて美味しそうなのが分かるな。
あっ、こんだけ新鮮なら生で食えるんじゃないか?
「試してみる価値はありそうだな」
カレーの店主が言ってたんだよね。新鮮な魚は生で食えるって、そしてショーユをかけて食べると絶品だってな。
俺は魚の身を薄くスライスし、指輪から取り出したショーユを少しかけ、口の中へと放り込む。
その斬新な食べ方に、エイスもボーズも興味津々だ。
「・・・ほうほう、これは・・・悪くないな」
生の魚の身は程よい弾力で、噛めば噛むほどほのかな甘みが出て来る。
ショーユとの相性も抜群だし、これはいくらでも食べれそうだな。
「クルッ!クルッ!」
「ボッ!」
「あぁ、すまんすまん。お前たちの分も今用意してやるからな」
危ない危ない。また我を忘れて食に没頭してしまうとこだった。
俺は慌てて、エイスとボーズの分も用意してあげる。
さっきの魚卵ほどじゃないけど、生で食べるのも美味かったなぁ。
アルドで売られてる魚と比べたら、段違いでこっちの方が美味い。
「・・・これももしかしたら美味い・・・のか?」
俺はおもむろに指輪から、魚の足を取り出す。
魚卵も魚本体も美味かった。そうなるとこの足も美味い可能性が・・・少しだけ齧ってみるか?
「・・・いや、やっぱ無理だ」
俺は魚の足を少し齧ろうとし・・・辞めた。
無理無理、これ完全に共食いじゃん。ある意味、ゴブリン食べるよりもハードルが高い気がするぞ。
バシャバシャバシャバシャ
「・・・ん?」
何か聞き覚えのある音がするな。
バシャバシャバシャバシャ
「うげっ!?」
「ギョギョギョッギョォォーーーンッ!!」
小川を逆走するように泳いで・・・いや、走ってきた魚が俺の前へと飛び出してくる。
さっき食べた魚と、違う点があるとすれば足かな。
今目の前にいる魚は、艶かしいというよりもムッキムキな足をしてらっしゃる。
「・・・まぁ、魚卵がまた食べれると思えば良いか」
「ギョギョッ!!?」
「エイス、ボーズ。やれっ」
「クルルゥッ!」
「ボボァッ!」
「ギョッパァァァアアッ!!?」
間髪入れずにエイスとボーズに弾き飛ばされる魚。
見た目に反して、美味いお前が悪いんや・・・
・・・
・・
・
「あらシルスナさん。ご依頼ですか?」
「いや、小川で変な魚の魔物を倒したから買い取ってもらおうと思ってな」
くそっ、あのゴツイ足したクソ魚。卵もなかったし、身もゴムみたいに硬くて食えたもんじゃなかった。
食えないならもう用はない。せめてギルドで金に変えよう。
俺は冒険者ギルドへ赴き、受付嬢さんに買い取りをしてもらうことにした。
「・・・魚ですか?珍しいですね」
「あぁ、コイツなんだけど・・・」
「ヒッ!?」
俺は指輪から、例のゴツ魚をギルドカウンターに出す。
人間のような生足に、思わず受付嬢さんも悲鳴を上げてしまう。
・・・やっぱ、そうなるわな。俺も未だに足だけ見ると、人間の足と錯覚するもん。
「シ、シシ、シルスナさん。と、とうとう殺人を・・・!」
「違うから!この魚に付いてた足だから!」
「・・・あっ!す、すいませーんっ!」
ようやく魚の方にも目がいったのか、正気に戻る受付嬢さん。
・・・っていうか、さっきのとうとうってどう言う意味だ?
「なぁ、さっきのとうとうって・・・」
「あぁーっ!こ、これはシーマンですねー!珍しいなーっ!」
「お、おう・・・珍しいのか?」
何かはぐらかされた気もするけど、まぁいっか。
「そうですよ!普段は海にいるんですけど、たまに淡水で産卵するタイプもいて、この魔物はそれみたいですね。稀にアルド近辺にも来たりするみたいです」
「へぇ、じゃあ俺はたまたまそのシーマンに遭遇したと」
「そういうことになりますね。ちなみにオスのシーマンは、食べれるとこも使えるとこもないので・・・討伐報酬のみとなります」
「そっか、じゃあそれで。メスのシーマンだと高いのか?」
「メスのシーマンは、高級食材の一つですね。特に魚卵は海の宝石と呼ばれてて、一粒が金貨と同等の値段がするんですよ」
・・・マジか、海の宝石ときたか。でも宝石の名と値段に恥じない美味さだったもんな。納得だわ。
「あっ、後メスシーマンの足はその手のコレクターに大人気でして・・・金貨十枚で取引されてますね」
「たっか!食べれないのに、何でそんなに高いんだ?」
「えーっと、世の中には、その、そういった性癖の方もいらっしゃいまして・・・」
「・・・あぁ、そういうことね」
・・・世の中って、度し難いんだな。食えもしないタダの生足に金貨十枚って。
そして、売ろうにも売れない雰囲気になっちゃったなこれ。
この気まずい雰囲気の中で堂々と売れたら、俺はそいつを勇者と称賛するね。
「た、大変だぁっ!!」
「うん?」
ギルドの扉が乱暴に開けられたかと思うと、駆け込んできた冒険者が声を荒げて叫ぶ。
・・・すごい慌ててるけど、何かあったのかな?
「ジ、ジルフィール王国が・・・ジルフィール王国が滅びた!」
「・・・えっ?」
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