第26話シルスナきれる


「お願いしますっ!」


「嫌だっ!!」


「そこを何とかっ!私を好きにしてもいいですからっ!」


「嫌だっ!!」


「ひどいっ!!」


どうもこんにちは、シルスナです。

今、受付嬢さんが俺に泣きすがって来てるけど、痴情のもつれじゃないからね?

というか、受付嬢さん。そろそろマジで辞めてくんない?周りの冒険者たちの視線が痛いんだが・・・


「お願いします!キングサヴァナラビットの肉を・・・少しで、少しで良いんです。ギルドにも卸して下さいっ!」


「だから嫌だっつってんだろっ!」


「上の人達からの圧がすごいんですっ!キングサヴァナラビットはまだかって・・・もう限界なんです・・・」


何でも俺があのでかくて美味い兎を独り占めしてて、市場に流通しないのが問題らしい。

宿屋の女将にはお裾分けしてるけどさ。自分の狩った魔物をどうするかなんて、俺の勝手じゃん?


「そんなに欲しいなら依頼出せば良いじゃん」


「無理ですよ・・・キングサヴァナラビットは危険察知能力が高過ぎて、倒す所か見つけるのさえ至難の業と言われてるのに・・・」


あの兎って、そんなに難しいのか?毎日のように狩ってるけど。


「安定して狩れるのはシルスナさんだけなんでよぉぉ・・・」


「おいおい、あのイケメン野郎またアリアちゃんを・・・」

「受けてやれよ!アリアちゃんが泣いてんだろっ!」

「コロスコロスコロスコロス」


あぁ、俺に縋りつく受付嬢さんのせいで、また俺の評判が・・・

モジャモジャって呼ばれなくなったのに、また変なあだ名がつかないといいな・・・


「とにかく俺があの肉に飽きるまでは嫌だ」


「そんなぁ・・・」


話は終わりだ。ここにいてもしょうがないし、街でもブラブラしますかね。




「おっちゃん、これ五本ちょうだい」


「あいよっ!いつもありがとよ、こりゃサービスだっ!」


「ありがとう!また来るよっ」


「あぁ、待ってるぜ!エイスにボーズもまたなっ」


「クルルッ♪」

「ボァッ♪」


おぉ、串に刺さってる肉が二個も多いっ!おっちゃん太っ腹ぁ~。

あの串屋のおっちゃん、いつもサービスしてくれるんだよなぁ。だから、ついつい寄っちゃうわ。


「相変わらず美味いなー」


「クルッ♪」

「ボッ♪」


おっちゃんが言うには、蛙の魔物の肉らしいけど・・・肉のようで肉のじゃないような・・・この独特な感じがたまらん。癖になるわこれ。


エイスとボーズも同じようで、肉を串ごとボリボリ食べている。

えっ?串ごと食べて平気なのかっ?平気平気、だって森では昆虫の魔物を硬い殻ごとバリバリ食べてたし、串なんて小骨のようなもんだよ。


「おや、あんちゃんまた来たのかい?一本どうだいっ!」


「おっ、もらおうかな。五本くれっ!」


「あいよっ!大盛りなのはサービスだ!またきてくれよ」


「ありがとー!またくるわっ!」


「相変わらず元気だねー。エイスちゃんもボーズちゃんもまたね」


「クルルッ!」

「ボァッ!」


「くぁ~、これも美味いんだよなぁ」


俺はハシマキ屋から受け取ったハシマキに齧り付き、満足げに頷く。

何とこのハシマキ、肉がほんのちょっとしか入ってないのに美味い!

何でも東方の調理で、特殊な麦をパンみたいに練って作るらしい。森じゃ絶対食べられないよな。

これもシチューに並んで、料理の叡智の一つだと俺は思う。


「あっ!エイスちゃんとボーズちゃんだ~!」

「本当だ!おーい、エイスちゃ~ん、ボーズちゃ~ん!」

「いつ見ても可愛いわぁ」


今日もエイスとボーズは大人気だ。

小型化した二匹が非常に愛くるしい姿をしてるのと、人懐っこいのも相まってか二匹は住民たちにすごく人気がある。


瞬く間にみんなに囲まれて、撫で繰り回されたり屋台の料理を貰ってる。

いやー、エイスとボーズが人と仲良くしてるの見るとホッコリするわ。


「おい、そこのお前」


あっ、あの屋台はまだ食べたことないな・・・魚かぁ・・・


「おい!そこのお前っ!」


そういえば、魚の魔物ってまだ食べたことないな。森には小川しかなかったし・・・

あの屋台の魚って、魔物なのかな。それともただの魚なのかな。気になる・・・


「おいっ!!聞いているのかっ!!」


「・・・ん?俺?」


「貴様以外いないだろっ!!」


誰だこいつ。振り向いたら知らない奴らが、顔を真っ赤にしてプリプリ怒ってる。

何でコイツら全員同じ服着てるんだ?


「それで、俺に何か用?」


「ふんっ。アリロワ様が及びだ。着いてこい」

「そうだ。大人しく黙って着いてくれば良いのだ」


「・・・はぁ?嫌だけど」


何だコイツら、すっごい偉そうなんだけど。

いきなり着いて来いって言われて、着いて行くアホなんているのか?


「貴様・・・アリロワ様に逆らう気か・・?」


「だからアリロワって誰だよ」


「アリロワ様を知らないのかっ!?」


「知らないよ。この街に来たばっかりなのに」


「チッ、よそ者か・・・」

「めんどくせぇ」

「アリロワ様を知らないとは・・・」


悪かったなよそ者で、アリロワっていうのはそんなに有名なやつなのか?

そんなやつが俺に何の用だろう。


「・・・アリロワ様は、次期アルド代表と目される有権者の一人だ。お前にキングサヴァナラビットの件で要がある。さっさと着いてこい」

「まさか断るとは言わないだろうな」


ほう、思った以上に大物だったわ。

っていうか、またあのデカ兎かよ。どんだけ人気なんだよ。

受付嬢さんが言ってた上の人間って、案外アリロワってやつなのかもね。


「だが、断る!」


「「「なっ!?」」」


まっ、断るんですけどね。


「・・・貴様、本気で言っているのか?」

「少し痛い目に合いたいようだな」

「我々、冒険者警察を敵に回すとは、バカなやつだ」


冒険者警察って、お前ら冒険者かよっ!同業じゃん。

そして、こいつら俺を力ずくで連れていく気だな。殺気を隠そうともしない。

周囲の人たちもこの剣呑な雰囲気を察したのか、俺らから距離を取って様子を伺ってる。

・・・迷惑かけてスマン。いや、俺が悪いわけじゃないけど・・・何かスマン。


「・・・一応、俺も冒険者なんだけど」


「ふんっ!冒険者風情が、我ら冒険者警察と一緒にするなっ!」

「そうだ!アリロワ様の直属!」

「選ばれしエリートよ!」


「・・・えぇ」


ヤバい。こいつらの溢れ出る小物感がヤバい。

王国にいた頃も、こういうやつらいたなぁ・・・アルジラの子分たちがまさにこんな感じだったわ。

国が違っても、こういうやつらっているんだなぁ。


「クルル?」

「ボァッ?」


あっ、騒ぎに気付いたのかエイスとボーズが俺の方へ戻ってきた。


「なんだぁ?この薄汚ねぇ獣はっ!!」


「クルッ!?」

「ボッ!?」


俺の元へ辿り着いた瞬間、冒険者警察がエイスとボーズを蹴り飛ばす。

放物線を描くように蹴り飛ばされるエイスとボーズ。周囲の飛び交う悲鳴。




・・・は?




・・・何してんの?




・・・蹴った?エイスを?ボーズを?




・・・俺の家族を?




ブチッ




俺の中で、何かがキレる音がした。




「チッ、何でこんなとこの獣がいやがんだ。おい、おま・・・ヒィィッ!?」

「カハッ!?・・・ヒュー、ヒュー。い、息が・・・」

「ガクガクガク」


ダメだ。もう殺気を抑えきれない。エイスとボーズが蹴られた光景が、目に焼き付いて離れない。


「さ、寒い・・・」

「だ、大丈夫か・・・うっ、眩暈が・・・」

「うぅ・・・」


周囲で様子を伺っていた人たちが、次々と意識を手放し倒れていく。

・・・ごめん。後で謝るから今は許してくれ。


「・・・おい」


「ヒッ!は、はぃ・・・」

「い、命だけ・・・は、た、たす、たすけ・・・」


俺は一歩ずつ、ゆっくりと冒険者警察へと近付く。

俺が近付く度に、冒険者警察の顔色が恐怖で引き攣る。


「・・・何で蹴った?」


「ハェッ!?」


「・・・さっきの猪と鹿を何で蹴った」


「す、すみ、すみませんっ!」

「し、知らなかったんです!もうしません!」

「ブクブクブク(白目)」


俺の殺気ですっかり戦意喪失した冒険者警察たちは、必死に俺に許しを請う。

謝って済んだら警察はいらないんだよなぁ。


「一発は一発だ」


「ヒィィッ!?すみませんすみませんすみません!!?」

「ゆ、許して・・・ヒィィァアっ!?」


俺はゆっくりと拳を振り上げ・・・


「「・・・」」


「・・・ふぅ」


冒険者警察の眼前へ拳を突き出す。

俺は水溜まりを作って失神してる冒険者警察を見て少し冷静になる・・・汚い。


「クルル?」

「ボァ?」


「・・・あぁ、俺は大丈夫だよ。お前らは大丈夫か?」


「クルッ!クルッ!」

「ボァッ!」


ピンピンしてる二匹を見て、俺は安堵する。・・・そうだよな。小型化してるとはいえ、あんな奴らの蹴り程度が効くわけないよな。

でも、エイスとボーズが蹴られた瞬間、もうダメだったわ。自分が抑えられなかったわ。


・・・ああああ、思い出しただけでも腹が立つ。

少し冷静になれたとはいえ、まだ怒りが収まらないな。


何とかして仕返ししたいなぁ・・・

あっ、そうだ!良いこと思い付いたわ。


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