エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜

聖壁ノーマル

第一部 運命の出会い

第1話 はじまり

肉体の強さに加えてスキル、魔法という概念が定義された世界。


それが、俺の転生した世界だ。

転生とはいっても前世の事なんかほとんど覚えちゃいない。


多分今と同じで性別が男…? だったかと思いだすくらいだ。

基本的に知識は封印されたようになっている。

きっかけがあれば少しは思い出せるが、それまでは霞がかかったようになっている。

すぐに思い出せないのが厄介だ。

中学生程度の知識までは思い出しているはずだが、それでなにか改革などできるはずもない。


そしてなにより、この世界には魔法やスキルがある。これらが強力すぎるのだ。


スキルは神が一人ひとりに与えた才能と呼ばれ、誰もがスキルを持ちうる可能性を秘めている。

類似したスキルは多々あるが基本的に一人に1つだけのユニークなものだ。

だが取得の条件も千差万別であり、必ずしも取得できるとは限らない。

スキルを取得できるのは二人に一人くらいの割合だろう。


優れたスキルはそれだけで食べていける。

稀にスキル取得の遅い者がいて、冒険者なんかをやっていたりすると蔑んだ目で見られることも珍しくない。


まあ俺のことだが。


魔法は女だけが使え、男は魔法がつかえない代わりに身体能力が高くなる。


原始時代はそれで良かったんだろう。

だが魔法が研究され発達した今では男と戦闘能力が同等か、女のほうが基礎戦闘能力が上だと言える。


中級までは男女の差は対してないが上級になると如実に差が出てくるのだ。


その証拠に冒険者や国のトップ集団は女性が7割を占める。

女というのはスキルと魔法が噛み合うと、恐ろしく強くなる。


まったく、女って奴は厄介だ。


逆に一番価値が低いのがスキルを持たない男だ。

チーム戦においてスキルを持たない男は魔法が発動するまでの肉壁にしかならない。


俺みたいなスキルもなく、しがない冒険者は、毎日ソロで適当な魔物を狩って細々と暮らしていくくらいしか道がない。


「相変わらずむさくるしい顔だなあ、アレク」

「うるさい。この顔は生まれつきだ」

「ちげえって、辛気臭い顔してっからよ、娼館にでも行ってパーッとやって来たらどうだ?」


筋骨隆々のハゲことギルドのおやっさんが声をかけてくる。

口は悪いが気のいいオッサンだ。

今回討伐した魔物を換金しながら、いつもの

雑談をする。



「…俺も最近、体力の限界を感じてな。」

「あー、まあスキル無しでよくやってると思うぜ? もし本当に限界を感じたらギルドの裏方でもやればいいさ。推薦してやるぜ?」


それが戦闘面での体力の事だと気がついたのだろう。

伊達に長年ギルドに所属していない。


「ギルド…か。」

「ま、ソロにもかかわらずC級で長年やってきたベテランのお前さんならできるだろうよ。考えときな。」


魔力は年を重ねるとともに増加する。

女性なら死ぬまで働けるのだろう。

だが男はそうもいかない。ある年齢を境に体の動きが鈍くなってくる。

実際、俺の同期は死んだか、引退したかだ。


ギルドを出て、ふと空を眺める。

青い空は雲ひとつなく、ぽっかりと空いた俺の心のようだった。


気を紛らわせるために、雑魚狩りでもしてこよう。

そう考えると最弱の魔物であるゴブリン狩りをしていくことに決めた。


ただの弱いものイジメだ。


町の南西の森。

ここはゴブリンどもの巣だ。


自慢の大剣をゴブリンの頭に叩きつけて潰す。

俺も気が緩んでいたのだろう。十数匹を潰したところでうっかり木の根に足を取られ、転んでしまった。


チャンスを逃すまいとゴブリンどもが群れてきたが、しょせん雑魚は雑魚だ。

近寄ってきたゴブリンには容赦なく蹴りをくらわせてやる。


何匹かは金的への攻撃となり、睾丸をつぶしてしまう。


すまん。

男の矜持として、それはやらないように心がけていたのだが、ついやってしまった。

男としてこれ以上苦しませないように、一撃で首と胴体を分けてやる。



――スキル「TS」を獲得しました。


「…は?」


人生でただ一度だけ聞こえるという天の声。

それが今、俺の耳に届く。


あっさりと、驚くほどにあっさりと俺は長年夢見てきたスキルを取得した。

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