第25話 メイドとリッチ
「……それが館での顛末って訳か?」
「流石おやっさん、飲み込みが早くて助かるぜ」
「これっぽっちも飲み込めてねぇよ!」
アタシとエリーは今ギルドにいる。
リッチは連れているとややこしさが増しそうなのでとりあえず館で待機だ。
リッチ自身も長年魔力が補充されていなかったメイド達の体をメンテナンスしたいといっていたし、ちょうど良いか。
「領主の執事が初代魔王が創ったはぐれ魔族で、魔王の親を殺すために復活させてまだD級に上がってすらいないお前らが魔王の親と共闘して撃破したと!?」
「やっぱり飲み込みが早いじゃねぇか」
「馬鹿野郎! どうやって上に報告するんだよこんなん!」
一応、爺さんの体は焼いて埋めてやったが、証拠として切り落とした片腕だけは氷漬けにして持ってきた。
あとロマの爺さん、一応領主の執事で間違いないらしい。
「この件、領主にとっても洒落にならん地雷だ。政治的な話になる。この落とし所はギルドマスターと相談だな……」
「ギルドマスターは王都から来てるんだろ?」
「ああ、お前らみたいな狂犬達がお貴族様にやらかさないための緩衝材としてな」
そうなのか、ギルドマスター、すまん。
ワンコみたいに可愛いアタシたちが応援してやるから頑張れ。
「あと、頼みがあるんだが」
「……聞きたくねぇが、言ってみろ」
「今まで館で盗られた荷物やら貴族の調度品やらが見つかってな。南の門番に預けてある。冒険者の掟に従って金にしたい」
基本的に冒険者が依頼や探索中に失ったものはソイツの物じゃなくなる。
ただ杓子定規的にやると冒険者間でトラブルになるので、ギルド経由での優先購入権やら交渉権やら定めて諸々を任せているのが現状だ。
今回はお化け達が集めた物がかなりある。
三年前の分と今回の分を合わせて結構な量だ。
リッチが復活した時のためにお金に困らないように、と館の一室に大切に隠していたとか。
「貴族の調度品もか…… 分かったぜ纏めて交渉の材料にしてやる」
「あと今はここにいないが、リッチ……魔王の親をギルドに登録しようと思う」
「はぁ!? 魔王の親を…… いや、いい判断だ。ギルド側に取り込んでしまったほうが良いな。身分は隠さんと不味いが」
その後詳細を煮詰めていく。
もちろんアイデア出しはアタシも手伝った。
とりあえずリッチは魔族に封印されて記憶を失った太古の魔法使いということになった。
魔法使いの封印が壊れたために、長年潜伏していた魔族が動き出して殺そうとした。
なんとか撃破し、魔族が溜め込んだ資産も見つけ取り戻すことに成功。
魔法使いは素行含めて経過観察、ギルドにて登録し冒険者とする。
そんな筋書きで領主に交渉しに行くらしい。
おやっさん、マジで感謝してるぜ。
館に戻るとお化け達が出迎えてくれる。
お化け達は完全復活していた。
「お化けさんたちは自分たちの体のほかに、リッチさんの体に埋め込まれていた魔石に魂が分割されていました」
それでリッチを治すとお化け達も概ね回復したらしい。
最初からリッチだけを狙っていたって訳か。
……律儀な野郎だな。
とりあえず館の食堂部屋で人心地つく。
「しかし、何とかなってよかったぜ」
「今回も大変でしたね」
まったくだ。
なんかよくわからんがアンデッドの仲間まで増えてしまった。
「短い間だけど楽しかったよ。僕も君たちと一緒にいたかったなあ」
「ん? ギルドにも交渉したし、館は男厳禁だから駄目だけど、門の外に犬小屋くらいは作っても良いぞ?」
今だって特別に入れてるんだからな?
あと犬小屋の材料は山にあるから自分で取るんだ。
「あはは…… それがね。ロマック君のスキルが強くてさ、このままだと肉体が持たずに崩壊しそうなんだよね」
「は? 何故だ? まだスキルが悪さしてるのか?」
「治せる範囲は全て治したはずですが」
エリーも心当たりは無いか。
じゃあ何故だ?
「あ、死んだりはしないよ。ただ……最初の一撃でアンデッドを構成する、核みたいな所が傷ついてね、このままだと寿命が…… 一週間くらい? それで治すには三百年くらいは大人しくして回復が必要かなって」
……マジか。
「大丈夫!君たちが生まれ変わったらまた会いに来てよ! 今度こそ女の子になって待ってるよ!」
「……まだ女の子になりたいのか?」
「ああ、それが僕の野望だからね! お祖父様じゃない! お祖母様としてファウストの前に立ってやるさ!」
いや初代魔王も困惑するだろそんなもん。
「女になる時、人格を失って別の自分になるかもしれないぞ」
「そのくらいのリスク、アンデッドになる事に比べたらたいしたことないよ」
じゃあ、全部の問題解決か。
人格は…… 前回からの推測が正しければ多分大丈夫だろう。
「リッチ、実はアタシのスキルはな――」
アタシはスキル『TS』について説明する。
「――と言うわけだ。早速だが使うぞ」
「え? ちょっと待って! 心の準備が……」
暴れるな。
お前のお化け達がワタワタしてるだろうが。
今から女になるんだから少しくらい男らしい所を見せろ。
十数分後、スキルが完全に発動を終える。
「百年近くかけて方法を探してたのにこんなにあっさりって……」
人生はそういうもんだ。
スキルが全く発動せず、引退を考えてるときに敵の金玉潰したらスキルに目覚めるような奴もいるんだぞ。
「嫌なら戻すぞ?」
「嫌だ! 絶対にもどさないで!」
面倒くさい奴だな。
ただまあ、少し分かってきた。
中性的なまま、美形になってるが人格は変わらないみたいだ。
やっぱりって感じだ。
このスキル、エリーを直したときにも分かったが、アタシの理想じゃなくて相手の理想に応じた姿に変化するんじゃないのか?
だとするとコイツ、女になっても同じ姿とかとんだナルシストだな。
最初から自称魔王を名乗るだけのことはある。
スキルを実験して検証したいが後々のリスクを考えると大っぴらにやるのもなあ……
あとで庭の植物で試すか。
「リッちゃん。分かってると思うけど男連れ込むなよ。土葬するぞ?」
「リッちゃん? それ僕の呼び名? 可愛いね!」
新しく名前考えるのめんどいからな。
とりあえずあだ名で良いだろ。
そこで、こっそりとアタシとエリーの袖を引く女がいる。
駄メイドだ。
珍しくモジモジしている。
(申し訳ありません。よろしければたまに男に戻していただく事は可能でしょうか?)
「別に良いけど、何故だ?」
かなり言いづらそうだったが、やがて意を決したように説明をする。
……アタシもだんだんコイツの考えてる事が伝わるようになってきたな。
(その…… 本人には言わないで下さいね? 私……主様の事が…… あ、いえ女の子同士もそれは背徳的で素晴らしいのですが…… やはり初めては……)
……そう言う事か。
ならしょうがねえな。
あとアタシ達は背徳的じゃねえ。
「分かりました。任せて下さい!」
エリーが元気よく答える。
アタシも異論はないぜ。
「ふへへ、初めての女の子…… 原始の魔法…… 英雄…… 無双…… ふへへ……」
リッチの野郎、別の世界にトリップしてやがるな。
残念だがお前の異世界英雄譚は存在しない。
「リッちゃん。ちょっといいですか?」
「なんだいエリー? この僕の美しさに見とれたかい!」
「寝言は死んで言え」
「もうほとんど死んでるよ!」
「死人は黙ってろ」
「ちょっと言う事めちゃくちゃすぎない?」
うるさい。
見惚れるなら、むしろエリーの美しさに見惚れろ。
「実はスキルには欠陥があってな。一緒になる相方がいないと寂しくて死んでしまうんだ」
真っ赤な嘘だ。
「え? ならマリーもこっそり男になったりするの? どんな時?」
「アタシ!? アタシは…… ほら、居るから……」
「マリーは私がいつも一緒ですよ」
エリーがフォローしてくれて助かる。
「え!? じゃあ二人はもしかして…… まさか、マリーが男の時に…… それとも女の子同士で……!」
「ふふふ、それは違いますよ」
エリーが笑顔でアタシにしなだれかかってくる。
胸が当たって…… いや当ててるな、コレ。
とりあえずアタシも当て返しとくか。
「男だろうと女だろうと関係ありません。マリーは世界でたった一人、私のマリーです」
「ああ。エリーはたった一人、アタシだけのエリーだ」
リッちゃんが顔を真っ赤にして顔を手で覆う。
おい、指の隙間からガン見するな。
ほっぺたがくっついてるだけだろうが。
「わ、わかったら相方ができるまでは、たまには男に戻るんだぞ」
「う、うん。えっとどれくらいのタイミングで?」
「えっと…… 月が出てない夜……かな?」
ちらりとメイドさんの方を見ると深々頭を下げている。これでいいらしい。
(マリー様、エリー様。誠にありがとうございます。私もお二人の様になれるよう頑張ります!)
おう。頑張れよ、駄メイド。
アタシ達はお前の味方だ。
リッちゃんがいなくても館にいていいからな。
なんならリッちゃんをペットとして家で飼っても良いぞ。
「せっかく念願叶ったのに…… たまには戻らないといけないのかあ……」
「何、朝…… いや、昼になったら女に戻してやるって、間違っても男の時は知らない女連れ込むなよ?」
「そんなことしないよー」
「連れ込んだら花壇の肥料な」
「非道い!」
たしかに、土や花が可哀想だ。
(そちらはご安心下さい。そのような事があれば私が他の方には見向きもせぬよう、搾り取りますので)
ナニをだよ。
……まあ頑張れ。
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