第26話 『エリーマリー』結成の瞬間

翌週、リッちゃんを連れてギルドに行く。

お化け達は館に待機だ。

リッちゃんが駄メイドになんか魔法陣を刻んでいた。

前回からの続きで、出かけている間に色々と調整するらしい。


「ソイツが例のヤツだな? ほらよ、ギルド証だ」

「ふふふ、我を知っているとは見上げ…… 痛いっ! 頭叩かないでよ。僕だって痛みはあるんだよ!」


話をややこしくするな。最悪討伐されるぞお前。

初めて会った時の病が再発していたので、とりあえず軽く叩いておいた。


おやっさんが手渡してきたのはG級のタグだ。

アタシはそのままリッちゃんに投げて渡す。


「へぇ〜。コレがタグかー。凄いね、ちっこいのにいくつか付与魔法がかかってる。倒した相手の数と種類が分かる奴と…… あとは真偽判定?」

「……ちっ、本物みてぇだな」


おやっさんが珍しく悪態をつく。

リッちゃん、まさか本当に有能なのか?


「そろそろ本題に入るぞ。お貴族様だがな、前に打ち合わせした通りの内容で概ね決まった」


そうか、ならあとはリッちゃんを含めてパーティーとして登録すれば終わりだな。


「さすがに事が事だけにギルド本部の方に連絡はいくみてえだがな」


まあ、それくらいはしょうがない。


「問題はそれぞれの荷物の方だ。まず、お貴族の調度品。これは査定した結果、全部で十札一枚……金貨千枚相当だな。ただ、これを出し渋ってな」


まあケチで有名な領主様だ。

いくらだ? 七掛けか? まさかの半額か?


「現金払いでの買い取りなら金貨五枚しか出さないそうだ」

「ふざけんな」


お前、自分ちの調度品がパチモンとでもいうのかよ。

殴り込みかけんぞ。


「まあ最後まで聞け。ギルドマスターが根気よく交渉してくれた結果、館の代金と相殺するなら全額出るそうだ。一応聞くが…… どっちがいい?」

「実質一択じゃねえか」


現金出さないとかドケチか。


「あとは今回の口止め料が金貨で三百枚相当の差し引きだな。これも相殺される」

「もう少し、こう、現金とかはねーのか?」


額はともかく重さが達成感につながんだよ。


「これ以上の増額とか現金が欲しいとかは諦めろ。ドゥーケット子爵は人攫いに誘拐された時も『こんなに高いなら、わしはココから出んぞ! 飯代もかからんしな!』とか言って盗賊団を困らせた奴だ」

「なんかもう筋金入りだな」


僕も同じようにすれば…… とかリッちゃんが呟いてる。

聞こえてるし普通に追い出すからな。


「あと、冒険者の荷物だがな。金貨や銀貨はお前らの物でいい。だがその他の荷物が厄介でな」


「まず最近館に出向してぶっ倒れた奴らだが、これはある程度返却先が見つかった。冒険者相互の助け合い精神で格安で引き渡す事になる」


まあそれはいい。

どうせ馬鹿が馬鹿な事やってただけだ。

額もたかが知れてる。


「問題は三年前の荷物だ。この街から居なくなった奴の所有物や、引き取り主が誰か分からなくなっている物が多々ある」


まあ三年前だもんな。

それなりに冒険者も入れ替わってるだろうさ。


「すごく丁寧に保管していたらしくて、モノ自体は綺麗だ。装飾品、武器防具あわせて金貨ベースでざっくり数十枚って所だ」

「いいじゃねえか、何が問題なんだ?」


「なにぶん数が多くてな。ギルドで買取するとなると一個ずつ査定して半年ぐらいかかる。保管料も馬鹿にならん」


結構時間がかかるな。

現状金には困ってないが……


「でしたら、オークション形式で出品してしまうのはどうでしょうか?」

「オークション?」


エリーが提案してくる。

場所はどうするんだ?


「はい、ちょうど大きな屋敷も手に入ったことですし、あのお屋敷でオークションを開催して冒険者のみなさんに直接買ってもらいましょう」


ほう、それなら人を集めれば一気にハケそうだ。

ユニコーンの角なんかも需要ありそうだし獲ってオークションの品目に入れとくのもいいな。


「ついでに館のお披露目も一緒にやってしまいませんか?」

「お披露目? 必要か?」

「私とマリーさんだけなら不要かと思います。ですが今回はリッちゃんもおりますので」


ああなるほど。

確かにリッちゃんも冒険者として認知させないといけないな。

『ウザ絡み』辺りがリッちゃんに絡まれても困る。


うっかり魔王由来の魔法でも爆発させたら……

まあその時は他人になるだけだ。

それはそれでうるさいやつが居なくなるから平和だな。


「だったらビュッフェ形式にして飯も用意するか?」

「良いですね! ちょっとしたパーティにしましょう!」

「酒は…… オークションの後に出すか」


そこで開催費用としてちょこっとお金も貰って……

お、結構行けそうだ。

冒険者の道具だけじゃ寂しいだろうし、山でモンスターの素材でも狩って追加してやろう。


「まあ、お前らが良いなら良いんじゃねえか?」

「おやっさん。ギルド員の派遣と女将さんに出張頼めるか?」

「あー…… 聞いといてやる」


そうだ。

ついでだしアイツらも呼ぼう。

オークションには興味ねえだろうが、ギルドマスターとかには色々世話になってるしな。


「おやっさん。ギルドマスターと話がしたい。今いけるか?」

「あの人も忙しい人だからなあ……」

「大丈夫だ。『エリーマリー』の新メンバーを紹介するって言えば通じる」


おやっさんはよく分からんと言った表情で呼びに行った。

案の定、ギルドマスターはすぐにやって来る。


「お、おまたせしました。マリー様。こちらが、新メンバーで噂の……」

「リッちゃん、自己紹介をしてくれ」

「え?、えっと、我こそは深淵を覗きし大英雄! 魔王ファウストを生み出し…… ひゃんっ!」


ギルドマスターは裏を知ってるから良いけど知らん相手にまでやると面倒だ。

要らんこと言い出したので軽く背中の中心をなぞってやる。

…あ、ブラつけてないな。後で買ってやろ。


「うう……。僕はリッチ・ファウストっていいます。リッちゃんでいいです」


軽く目で合図を送ると理解してもらえたようだ。

やればできるじゃねえか。


「おお…… 僕っ子ですか! 可愛さもさることながらスレンダーな体型と僕っ子の呼び名が相まってなかなか個性的です!」

「え? えっと、その、ありがとうございます」


ガシッとリッちゃんの両手を握る。

リッちゃんは困惑しながらも握り返してきた。

……ほう、素質あるな。


「忙しいところ済まなかったな」

「いえいえ、ひとときの癒やしも仕事には必要なもの……」


「ところで、あたしたちの屋敷でちょっとしたパーティーをやるんだが、ファンクラブのメンバーも来るか?」

「ご自宅で! し、失礼しました、つい興奮してしまって」


身を乗り出すな。流石にビビる。


おまえら内緒にしてると家探し出して盗撮に来るだろ。

先にバラしといた方が色々と楽だ。

撮影はさせないけど。


「言っとくが勝手に撮影するなよ? するなら金貨取るぞ?」

「何枚ほどでしょうか?」

「え?」

「え?」


「……うん、考えとくわ」

「ひひ…… お手柔らかにお願いします」


あれ?

なんか撮影する流れになってるぞ?


「当日は私も料理を作りますね。」

「おお! それは尊い…… 本当に私達のような卑しいゴミ虫めが参加しても良いのでしょうか」


そこまで卑下するなよ。


「大丈夫だ。お前らはゴミ虫なんかじゃない、アタシと同じ人間だ。人よりちょっと卑しいだけの人間だ。アタシが保証してやる。」

「おお…… おぉ…… マリー様……」

「もし卑しいゴミ虫だとお前らが思うなら構わないぜ? アタシ達だけのゴミ虫としてアタシ達のためだけに仕えろ。優しく扱ってやる」

「誠に、誠にありがとうございます……」


ギルドマスターが涙を流して土下座をする。


「えっ? それで良いの? 本当に?」


リッちゃんがなんか言ってるが無視だ。

良いんだよ。

こいつ等の孤独を癒してやれるのはアタシ達くらいなもんだ。

やり過ぎたらボコればいい。


「マスター。顔出し駄目なやついるか? もし居たら仮面で食べに来てくれて構わん」

「承知しました。同志にはそのように伝えておきます」


急にキリッと引き締まった顔になるな。

やはり、何だかんだ言ってもここのトップか。


「おう、頼む。たぶん来月か再来月の祝日になるだろうな」

「ひ、ひひ。楽しみにしております」


あ、すぐ駄目な顔に戻った。


ギルドマスターと連絡先を交換して別れたあと、後ろから抱きつかれた。

この匂い…… エリーだな。


「もしマリーが自分の事を卑下したとしても私だけのマリーとして優しく可愛がりますね」


アタシだけに聞こえるように耳元で呟いたあと、そっと離れる。

おう、安心しろ。エリーのモノであるアタシが卑下したりしねえよ。

もしそうなったら優しく癒してくれ。


「お帰りなさいませ」


帰ってきたら駄メイドの声が出るようになっていた。

顔も耳が長く尖っている以外は普通の人と大差ない。

リッチが言うにはこれが元々の顔らしい。

設計上の問題で魔力が不足すると顔が消えてしまうとか。


まあ、本人が構わないならそれで良いさ。


さて、色々と準備をしねえとな。

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