第27話 祭り開始

女将やギルマスと連絡を取り合い、オークション兼パーティは前日に迫っていた。


「あれ? 今日も一夜ユリを飾ってるの?」

「ああ、パーティの日に飾ろうと思ってな。キレイだろ?」

「今日は赤花かー。こないだの青花、萎れてたり、枯れてたりしたよ? ちゃんと管理しないと可愛そうだよ」

「リッちゃんみたいになっても可愛そうだもんな、気をつけるよ」

「僕は枯れてないよ! ピッチピチのムチムチだよ!」


そりゃ家事もせずに寝転がって飯食ってるからな、要するにオーク化だ。

……アンデッドって太るのか?


それはそうとアタシの花に興味を持ったようだ。

一夜ユリ。

ユリの花とよく似ているが、この国独特の別種だ。

夜に花が咲き、朝には散る花。

野に咲いてる分には良いが、引き抜いたりして土から離すと一日で枯れてしまう。


雄花と雌花で色が違うこの花を使ってアタシはスキルの実験をしていた。


今、この花は土から抜いて一週間目になる。

萎れた花を変化させると、そのたびに完全な状態で復活した。

どうやら、完全に枯れてしまわない限り何度でも復活出来るらしい。


アタシは今、赤色の花を黄色と白色に変えた。

黄色は珍種として重宝される花だ。

白に至っては話で聞いたことすらない。

それぞれ両性と無性で変わる花の色だったようだな。


ただ、両性と無性に変えただけでは、しなびた花は完全な状態にはならなかった。

やはり、一度完全に姿形を変更する必要があるらしい。


回復するだけなら茎の部分からも完全な状態に戻すことができた。


ただし花びらからは無理だった。

根っこは切り分ける量で出来たりできなかったりしたので、多分、少し欠けても大丈夫な部位からは復活出来ないんだろう。


これでアタシのスキルも概要が見えてきたな。



「マリー、明日の事でちょっとお話が…… あら、綺麗な花ですね」

「良いだろ? そうだ! ちょっと待ってろ」


アタシは茎を短く折って黄色い花をエリーの頭に挿す。


「似合ってるぞ。いつかの花冠のお礼だ」

「……ふふっ、ありがとうございます。では私からも」


そう言うと額にキスをしてくれる。


「……おう、ありがとな」


恥ずかしくてついそっぽを向いてしまう。

……出来ればもう少し下の方が良かったな。


「メイ! あの二人イチャイチャしてるよ!」

「ご主人様、こういう時は遠くから黙ってニマニマするものです」


くそっ、夜だけじゃなくて昼までうるさくなりやがって。

エリーの防音魔法を見習って部屋に防音の魔法かけられるようになってから言え。




さあパーティ当日だ。


天気は快晴。気温は良好。

絶好のパーティー日和だ。


午前から午後にかけてギルドからの出向員がオークション形式でいらない荷物を売り払う。

それが終わればパーティーだ。

酒飲んで適当に踊って終わりだな。


一応、オークションに興味が無くなった奴や酒飲む事しか考えてないバカのために軽食は用意してある。


料理は女将とエリー、給仕はメイドのメイとお化けたちがやることになっている。

最初は自分たちがやることで怖がらせしまうと辞退していたが、なーに大半は冒険者だ。

慣れてしまえばむしろ仲良くなれるんじゃないか?


アタシとリッちゃんは受付と金の徴収だな。


時間になると早速ちらほらと客が見え始めた。


「やっほー、マリー」

「おっ! コリンじゃねーか。久しぶり。入場は銀貨二枚だぜ」


久しぶりだな。

他にも影の薄い兄ちゃんと無口のオッサン、他にもどっかで見たことあるようなメンバーがいる。

『幌馬車』完全復活したみたいだな。


「僕もいるよ」


ジクアもいたか。


「おう、入場は金貨二枚だ」

「なんか僕だけ高くない?」

「イケメン割だ」

「増えてるよね?」


割増に決まってんだろ。

顔のいい奴は見えねえ所で得してるんだよ。


「へぇ、この子が新顔かぁ。始めまして、チーム『幌馬車』のリーダー、コリンです」

「ふむ、我は…… 痛っ! ……僕はリッチって言うんだ。リッちゃんって呼んでね」


リッちゃんも教えられた通りにできているな。

まだ癖が出そうになるが、その時は定期的に足を踏んでやれば大丈夫だろ。


「やあ」

「お、門番の兄ちゃんか。今日は非番か?」

「そうだよ。楽しそうだから遊びにきたんだ」

「おう、飲み食いしていきな」


他にも冒険者のほかに、どっかの商会長さんやらそのメンバーが来た。


ここまで来るとほとんど知らん奴らだ。

会った事あったかな?


冒険者たちが一区切りついた頃に現れたのは覆面をつけた集団だった。


「マリー様、私たちは……」

「ああ、大丈夫だ。ファンクラブのメンバーだな。銀貨2枚だ。リッちゃん頼む」

「わ、我…… じゃなかった。僕のパーティへようこそ! リッちゃんって呼んでね」


いや、お前のパーティじゃねぇよ。

まあいいか。


ファンクラブの皆が来たら握手をするように伝えていた。

ちゃんと指導した成果を見せてやれ。


そうそう。

握手するときは両手で包み込むように手を握るんだ。

その時に自分の親指で相手の親指と人差し指の間にある窪みを軽くきゅっと押してやるんだ。

上目使いを忘れずにな。


良いぞリッちゃん。

ちゃんと教えたとおり相手を喜ばせるコツを掴んでるな。


「おお、このような機会まで……」

「これなら銀貨二枚でも惜しくない」

「ファンで良かった……」

「も、もしよろしければ追加で代金を受け取って貰えないだろうか」


受付は銀貨2枚だったが、握手をしたメンバーたちはより多くを出そうとしてくる。

健気な奴らだ。仕方ねえな。


金を余分に受け取る替わりに一夜ユリの白花を一人一人に渡していく。

明日には枯れてるし別に良いだろ。


「これはあまり見ない花ですな」

「先行して潜伏している同志たちがこれを受け取れないのは残念ですな」

「昼間に一夜ユリの白花……だと? 市場に出せば一体いくらの価値が……」

「リッちゃんとマリーの色は白…… ハァ、ハァ」


潜伏ってなんだよ。

沈めんぞ。


あと最後のやつ、アタシの色はエリー色だ。

間違えんな。



「銅貨二十枚!」

「銀貨三枚!」

「ちくしょー、舐めんなよ! 銀貨三枚と銅貨二枚!」


受付が終わって戻るとオークションが熱い。


……いやそれ銅貨十枚で買える携帯食糧じゃねーか。しかも三年前の。

お前ら冒険者は食べられるかも知れねーけど普通は腹壊すからな?

人にあげずに責任持って自分で食えよ?


まあ買い取ってくれるなら良いか。


「キャー、エリーちゃーん!」

「メイちゃん彼氏いるの?」

「お化けくん可愛いね。良かったらおネーサントコ来ない?」


なんか軽食コーナーも盛り上がってる。


リッちゃんが慌ててうちの子達は非売品です! とか言ってるが大丈夫だろ。

絆があれば大丈夫なんだよ。いちいち構うな。


エリーはお触りは禁止ですよーとか良いながら見事にセクハラを躱していく。

あの動きが戦場でできれば実践もいけるんじゃないか?

今度ちょっと護身術程度の技は教えてみよう。

緊急時の対処にもなるし。

あとは…… そうだ、後で白い花を持ってるやつはファンクラブのメンバーだと伝えておこう。少しはサービスするはずだ。


しかし冒険者の皆、予想以上に適応してんな。

もっとお化けにビビると思ってたが。


「マリー様。撮影料ですが……」

「うわっ! ……ビビらせやがって」


影のように仮面の男が背後に立つ。

いきなり声をかけられて驚いた。

いや、なんでアタシの後ろを簡単に取れるんだよ。

お化けか。


「面倒くせえからお前らの気持ちで良いぞ。好きな額をアソコのお化けに渡しとけ。ただし写真は後で検閲するからエロは禁止な」

「御意……」


一瞬のよそ見から視線を戻すと男は影も形もなくなっていた。

え……? なんであんなのがアタシ達のファンやってるの?

冒険者か暗殺者やったほうが良くない?


さっき指さしたお化けにはすでに男が群がっている。


アタシは手でごめんのジェスチャーを作って謝っておく。

後で膝の上で頭なでてやるから許してくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る