第28話 オーガキラー

「お前がマリーか?」


ゴツい女冒険者二人がアタシの前を塞ぐ。

顔はきれいだが筋肉が男以上のガチガチだ。

もう片方も似たような顔つきをしている。

筋肉も片割れほどついてはいないがそれなりだ。


「いや、アタシはサリーだ。マリーはあっちの奴だな」

「そうか、すまないな」


いいってことよ。


「ちょっと姉ちゃん、騙されんで! ウチ調べたから! マリーはその娘で間違いないんよ!」

「なんだって? おい、ベタな嘘をつくんじゃない! 調べはついてるんだ!」


いや、今思いっきり騙されてただろ。

ちゃんと調べろよ。


「あんたらみたいな冒険者達に名前が知れ渡ってるとは思わなかったのさ」

「ウチ達の事は知ってるん?」

「B級冒険者パーティ、『オーガキラー』のマッソー姉妹だろ? なんだ?」


コイツら姉妹はその体力と実力で戦闘面ならば最もA級に近い冒険者と呼ばれている。


「そう。私はマッソー村のルビー。こっちは妹のサファイ。なに、たいしたことじゃないさ。ちょっと手合わせをして欲しくてな」

「しょうがないなあ」


私はルビーの右手を両手で覆うように握る。

しっかり握って自分の親指で相手の親指と人差し指の間をきゅっと押してやる。

もちろん上目遣いも忘れない。


「あ、ああ。ありがとう…… って違う!」

「嫌だった?」

「いや、嫌じゃない。ただ心の準備が……」

「もう! 姉ちゃんはちょっと黙ってて。ウチらはね、この館を攻略したアンタを見に来たんよ」


ああ、コイツら攻略に失敗してたからな。

めんどくさいことになりそうだ。


「写真撮影か?それならお化けに金を払ってくれ。直接の交渉はお断りしてるんだ。」

「ちっがーう! 館を攻略したアンタに決闘を申し込みに来たんよ!」


やっぱりか。

この脳筋姉妹は、強い相手に食ってかかることで有名だからな。

姉はさておき妹は頭がそれなりに回るというのも本当らしい。


「ヤダよめんどくせえ」

「そうだな、そこは紳士らしく決闘を…… は?」


いや、は? じゃねえよ。

あとアタシは淑女だ。清らかな乙女だぞ?

なんで祭りの日にゴリラとウホウホやらないといけねんだ。


「決闘を受けるメリットが欠片も無いじゃねえか」

「なに? 確かにそうだな、うむむ…… そうだ! 勝ったら私の身体を好きにしていいぞ!」

「姉ちゃん、冗談でもそんなネタで乗るわけが……」

「別に良いぞ」

「えっ、良いの!? ……えっと、そっち系?」

「館の修理が必要な箇所があってな。ちょうど力仕事のメンバーが欲しかったんだ」

「はっはっは! そのくらい任せておけ! サファイよ。なかなか話が通じる相手ではないか」

「えぇ…… ウチ、なんか間違ってる? もしかして姉ちゃんと同類?」


こんな筋肉女と一緒にするとは失礼な奴だな。

あと、アタシはエリー一筋だぞ。


「もしアタシが負けた場合は材料代を出そう」

「ん? ハッハッハ、なかなか気前がいいな!」

「いや勝ち負け抜きで修理手伝わせようとしてるから! 姉ちゃんはちょっと黙ってて!」


このノリで押し通せないとは。

妹の方は意外と厄介だな。姉と同類の匂いがするのに。



「さあ、緊急イベント! 今回は館のお化けを退治するどころか味方につけたマリーと『オーガキラー』のリーダー、ルビーの戦いが始まります!」


決闘の宣伝が館中に響く。

結局オークションの後に闘う事が決まった。

まあ出し物も少ないしちょうどいい余興だろう。


場所は館の門の前。

すでにギャラリーが集まりはじめている。


「解説には今回加入した新メンバーであるリッチことリッちゃんをゲストに加えています。一言どうぞ」

「わわ、我こそは偉大にゃる太古の大英雄、リッチである! 皆僕の事はリッちゃんって呼んでね!」


なんでそこにいんだよ。

つかリッちゃんの奴、大勢の前でテンパってテンプレ以外噛みまくりじゃねえか。

まあヤバい事言わなかったしヨシとするか。


……よく見たら解説してるのポン子だし大丈夫か?

ちっともアタシにとって良い予感がしないんだが。


「リッちゃんさん。今回かの有名なオーガキラーのリーダーであるルビーさんと、マリーさん、どっちが強いと思いますか?」


「あ、普通にリッちゃんでいいよ。えっと、オーガキラーの事はまったく知りません。なのでマリーが勝つと思います」


いきなり煽るな。放送事故か。

『オーガキラー』のメンバー、頬とマッスルホディがピクピクしてんぞ。


「おおっと! いきなりの勝利宣言だ! 破竹の勢いでD級まで昇進が確定し、留まるところを知らない『エリーマリー』のリーダーであるマリーと、かたやB級、この一帯で並ぶもの無しとまで呼ばれた『オーガキラー』のリーダー、ルビーの一戦。勝つのはどっちだ!」


え?

アタシ達のチーム名いつからそれになったの?

三人に増えてチーム名つける必要があるから、チーム名『ブラッディローズ』とか『カサブランカ』とか『ザ・エリー』とか色々考えてたんだけど?

だれかギルドの人に『エリーマリー』って報告した?


「ちなみにオッズですが、ルビーさんが1.5倍、マリーちゃんが3倍とそれほど離れていません。賭けてる人はルビーさんが圧倒的に多いですが、一部の方々がマリーさんに大金を入れてくれたようです」


私はマリーに賭けたよ! とコリンが言ってくれるのが聞こえた。

続いて仮面達から俺も俺も!という声が聞こえる。


アタシを信じてくれるやつがいるのは嬉しいな。

手でも振っておくか。

応援してくれたサイドから歓声が上がってアタシも嬉しい。


「マリーちゃん! オークションで使いすぎたんだ、すまないが負けてくれぇ!」

「大丈夫! ちょっと小突かれて倒れたフリだけで良いから!」

「倒れてもお兄ちゃんが介抱して助けるよ!」


反対側からはアタシの負けを祈る声が聞こえる。

おう、お前らの事情は分かった。

安心して全財産賭けろ。

借金して賭けてもいいぞ。


とりあえず親指立てておくか、下向きに。


いつの間にか準備を終えた筋肉女がニヤニヤ笑っている。


「人気だな。マリーよ」

「モテモテで辛いぜ、ルビーさんよお」

「勝負は人気では決まらんぞ?」

「知ってるぜ。やっぱり冒険者は冒険者らしく、な」


「その筋肉にコアな狂信的ファンを持つルビー選手と幅広くファンを集めるマリー選手! 世紀の一戦が始まります!」



鍋を使った即席のゴングがなる。


さあ、行くぜ!

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