第29話 決着

ルビーは両手に持った大斧を上段から振り降ろしてくる。


マトモに打ち合うとろくな事にならないのは分かりきっている。

とりあえず横に跳んで回避した。


地面に打ち降ろされた武器が、重い音とともに地面をえぐった。


「おのれ! 戦士なら堂々と撃ち合え!」

「重い女はお断りなんだよ。あとアタシは冒険者だ」

「な、なんだとぉ! 無礼な! 私は軽い女だ!」

「……お前がそれでいいなら別に良いぜ」


連続で斧を振り回すが、アタシはそれを全て回避する。


そもそも近接系のスキル持ちとマトモに撃ち合うとか確実に力負けするに決まってる。


ルビーのスキルは『戦鬼』という。

冒険者の間ではかなり有名だ。


すべての近接戦闘能力が増加するスキルだ。

シンプルで強いの典型だな。


「激しい攻撃を躱すだけで精一杯のマリー選手! いきなりのピンチか? リッちゃん、この戦い、やはり反撃する事なく押し切られてしまうのでしょうか?」

「マリーは得意の魔法をまだ繰り出していないので、タイミングを測っているんだと思います」


おい、リッちゃん。

これから不意打ちするんだから手札バラすんじゃねえ。

クソッ、一発叩きたいがルビーの攻撃を捌くだけで手一杯だ。


「ほう? 魔法か? 無駄だな、私に使って見るといい!」



解説を聞いたルビーは先程までの激しい攻撃を止めて、笑いながら仁王立ちの姿勢で立っている。


「おおっと! これは余裕の表れか!? リッちゃんどう思いますか?」

「マリーの魔法よく使う魔法は炎ですが、そのままだと食らっちゃうので危ないと思います」


筋肉女の奴、手で挑発のジェスチャーまでしてきた。

……魔法を撃たれても策があるってわけか。

クソッ、舐めやがって。調子に乗るなよ。


……だが、今がチャンスだ。

くらいやがれ!


「ファイアローズ!」

「うわあああっ!」


アタシは突撃して炎の鞭を思い切り叩きつけた。

……リッちゃんに。


「アチチっ、酷いよ! ていうかなんで僕に!?」

「お前がペラペラとアタシの手札バラすからだろうが」


火葬すんぞコラ。


アタシはリッちゃんにもう一発ファイアローズをぶつけると、ルビーとの戦いの場に戻ってくる。

ちょっと焦げてるがアンデッドだし大丈夫だろ。


「おう、待たせたな」

「あ、ああ、良いのか? その…… 仲間だろ?」

「筋肉を鍛えるときどうする?」

「それは痛めつけて…… ハッ! つまりそういう事だな、分かったぞ! ふはは!」


知らねえよ。

なに勝手に分かりあった雰囲気出してんだ。


「アタシの手札はもうバレてるからしゃーねえな。ファイアローズ!」


今度こそアタシは炎の鞭をルビーに叩きつける。


「ほう…… いい火力だ。だが甘いぞ! マッソー…… パウアッ!」


ルビーが謎の掛け声とともにポーズを取る。

すると身体を取り巻いていた炎の鞭が弾けとんで消滅した。


「マジかよ」

「ふははは! 鍛えた筋肉と魔法、どちらが強いかなんて明白だろう?」


魔法に決まってんだろ。

今のは『戦鬼』スキルの効果だろうが。


……本当に筋肉じゃなくてスキルだよな?


「おおっと! 切り札の魔法すら弾かれた! マリー選手、万事休すか!!」

「うう……酷いよ〜。なんで僕に魔法が効くのさ…… 借り物の魔法はある程度消せるのに…… え? もしかして……」


リッちゃんはもう立ち直ったらしい。

次やらかしたらウェルダンだな。


「よそ見をするとは余裕だな、改めて行くぞ!」


再び先程と同じようなラッシュが始まる。

不意打ちが失敗したアタシは、炎を混ぜながら二本の刃で反撃する。



「良いぞ良いぞ! そちらが魔法を使うならこちらも魔法を使わせてもらおう!【筋肉筋肉筋肉!】〈肉体強化〉!」


なんだそのふざけた詠唱は。

しかも動き回りながらとか。

よくそれで魔法が起動するな。



「そして【筋肉ムキムキ大疾風!】〈加速〉! はあっ!」

「しまっ……」


ルビーは加速してアタシに突っ込んでくる。

そしてそのまま斧で薙ぎ払ってくる。


くそっ、ふざけた詠唱に気を取られた。

回避が間に合わない。


アタシは風魔法でクッションと盾を作り、二つの刃を交差させて防御するが、強化された一撃をそのまま貰ってしまう。


肉体へのダメージは抑えたが、ガッツリふっとばされた。

どんな馬鹿力だ。


「ほう? あたしの一撃を耐えるとは流石だな! だが攻撃魔法などヌルい!! さあ、お前も強化魔法を使え! 肉が割れ骨が砕ける限界まで戦おうでは無いか!」


筋肉女がそう吠えると、再びアタシに突撃を繰り返してくる。

くそっ、戦闘狂め。


「マリー選手、今回初めて強烈な一撃をもらいました! リッちゃん。マリー選手は自分を魔法で強化しないのでしょうか」


「これは僕の推測ですが、マリーの魔法は特殊な魔法なので、直接自分を癒したり強化したりすることができないんだと思います」

「特殊……ですか?」


「はい、マリーの魔法は古代の、えーっと神話で使われてた魔法に近いんじゃないかなって。それだと回復や強化は…… また焼かれるの嫌なのでボカシますが、なんやかんやでできないです。あ、間接的に強化するなら多分大丈夫です」


なんか気になる発言がリッちゃんから出てきた。

話を聞いていたい気もするが、また手の内をバラしているので先にミディアムレアくらいにしといたほうが安全な気もする。


……筋肉女がまた攻撃の手を止めてくれないかな。


「おお! ここに来てマリー選手の秘密が明らかに! それは普通の魔法と何が違うのでしょう?」

「エネルギーの消費がすごく少ないです。あとたくさんの属性の魔法が詠唱いらずです」

「ということはまだ逆転の目が残されているということですね!」 


逆転……ね。


ああ、分かってるよ。

この技はめちゃくちゃ気を使うから使いたく無かったんだがな。


しょうがない。


「ふははは! どうだどうだ! 私の攻撃を捌ききれるか? ……何!?」


アタシは風魔法で空気の塊を蹴って宙を舞う。

そして風の力を利用して高速移動しながら切り刻んだ。


同時に風の塊をぶつけてルビーの動きを阻害する。

さっきとは一転して、前後左右上下から切り刻むアタシの速さについて来れていない。


途中ファイアローズも適度に挟む。

……これは精神的に消耗するから使いたくなかったんだがな。

しょうがないか。


「まさか、パンツが!」

「いや、スカートがギリギリを保っている!」

「くそっ、見えそうで見えない…… だがこれはコレで……」


そう、仮面被ってるお前らだよ。

お前らへの対策で風魔法の精密操作とかふざけんな。

かなり気を使うんだぞコレ。


「素晴らしい! これはなんと言う技だ?」

「ストームローズ・絶対領域だ」


あちこち傷を負いながらも急所はしっかり避けている。

流石に戦士としても一流か。


「おいおい! こんな素敵な技があるなら早く使ってくれよ! さあ私と踊ろう!」

「残念だがアンタは壁の花だ」

「は、花!? ふふふ…… そう褒めるな」

「お、おう……」


……調子狂うな。相性が悪い。

お前は照れて赤くしてるが、それ以上に妹が赤面してるぞ。


「悪いがウチのリッちゃんがアタシのネタバレをしてきて厄介なんでな。一気に決めさせて貰う」

「出来るものならやって見るがいい!」


ああ分かってるよ。

なかなかタイミングが掴めないだけだ。


「どうした? 来ないなら私から行くぞ! 必殺技を使って見せろ!!」


再び斧を豪快に振るってくる。

流石に筋肉女の連撃はキツイ。

速度も上がってるから交わしきれずに何発か受けているが、もう手が痺れてきた。


アタシは空気の塊を作って空中に避難する。

スカートが見えないと悔しがる声が聞こえるが気にしたら負けだ。


「ふふふ…… 空中に逃げたくらいでなんとかなると思ったか?」


そう言うと、まるで薪を割るような姿勢で斧を大きく振りかぶる。

筋肉女め、何を企んでいる。


「なら私の必殺技を見せてやろう! ウルトラスーパーデラックスマッソーボンバー!!」


そう言って筋肉女が斧を振りおろすと、斬撃が飛びだした。

アタシの肩から斜めに切られて血が吹き出す。

アタシはバランスを崩して地面に落ちてしまう。


「何!?」

「ふはは! 説明しよう! 私の必殺技であるハイパーマッソーボンバーは鍛え上げた筋肉の力で斬撃を飛ばし斬りつけるのだ!」


必殺技の名前変わってんぞ。

あとスキルの力だろうが。

何でもかんでも筋肉のせいにするんじゃねえ。

筋肉も困るだろ。


だが威力は近距離での一撃ほどじゃないが、斬られたのはマズイ。


競り負ける前に決めるしかないか。

迷ってる暇はないな。


「ファイアローズ!」

「ふん、マッソー……パウアッ!」


無効化されたか。

ここだ。ここで試す。


「サンダーローズ!」

「む!? うぐぬぅ!」


連続だと魔法を弾けないらしいな。

ホントに筋肉で弾いてたならヤバかった。


筋肉女の動きが一瞬鈍くなる。

ここが唯一のチャンスだ。


「マッシュルームカタパルト!」


土魔法により筋肉女の足元がせり上がり、彼女を宙に弾き飛ばす。

アタシは土で出来たこの丘を駆け登って、筋肉女に肉薄した。

その間、左手に複数の炎魔法を込め続ける。


「こんなもの、効かんぞ!」


空中で身動きが取れなくなった体でも斧を振るうが、勢いがない。

流石の筋肉女もこんな体勢では武器を上手く扱えないようだ。


振るわれた斧を右手で牽制する。

次に、掌底とともに圧縮された炎の魔法を腹に叩き込んだ。


「これがアタシの必殺技だ」


まだ開発中だけどな。


「試作・鳳仙花!」


「ぐぬぬ、マッソー…… パウ、ブファア!」


圧縮された炎は解放され、腹で膨張し、連続で爆ぜる。

筋肉女も抑え込もうとしていたようだが、耐えきれず吹き飛ばされる。

そのまま地面に叩きつけられ、三回ほど転がった後にようやく止まった。


立ち上がっては来ないようだ。

土まみれで白目を向いている。

凄い形相だ。


「……眠る前のケアは女の嗜みだぜ?」

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