第30話 花火
「勝った!勝ちました! 次期D級冒険者のマリー選手がB級冒険者のルビー選手を打ち破りました! ああ私が賭けてたお金が…… ちくしょう! マリー選手の勝利です!」
「さすがマリー、すごいね!」
掛札が辺りに舞う。
昔賭博場で見たときは汚え紙吹雪だと思ってたが、こうしてみると勝利の花びらみたいじゃねえか。
「俺の金が…… マリーちゃんの鬼! 今月の生活費が…… !」
「ありがとうマリー、私達儲かったわ!」
「流石はマリー殿。これで裏オークションの予算が増えましたな」
「そんなことよりエリーちゃんはどこ?」
観客席と放送席から歓喜と悲鳴が聞こえる。
カオスだな。
つかポン子お前、筋肉女に賭けてたのか。
アタシに賭けなかった罰だ、天罰だ天罰。
「でも大丈夫! 私にはみんなから集めたお金があるから!」
「ほーう? 俺はお金については聞いてねぇなあ? お金ってのは何だ?」
「はい! 皆さんが賭けたお金のですね! 上前をちょちょい…… と……」
ポン子が呟くその背後から声がかけられる。
そこにはおやっさんがいた。
ギルドで忙しいから無理だと言ってたが来てくれたんだな。
「ちょちょいと? どうすんだ?」
「あ…… その…… 部長、すいませんでした! つい出来心で! 勘弁して下さい!」
「言い訳はギルドで聞こうか」
「え? ちょっ…… 離してください! はーなーしーてー!!!」
おやっさんが土下座をするポン子の首根っこを捕まえて担ぎ上げる。
ありゃ相当怒ってるな。
ああなったおやっさんは無理だ。
諦めろ。
ちゃんと飯は差し入れしてやる。
おやっさんの分だけな。
「……はっ! 私はまだ戦えるぞ! どうしたマリー!」
今更ながら筋肉女も目を覚ましたようだ。
「姉ちゃん。もう試合は終わったんよ……」
「何! では私の勝ちか!?」
何故そうなる。
……いや、空中に退避したとき、斬撃ではなく実際に斧を投げられていたらヤバかったのはアタシだっただろうな。
今回、結構厳しかった。原因は主にギャラリーと身内だったけど。
筋肉女の健闘を讃えても良いかもしれない。
「何故私が負け扱いされてるのだ! 納得いかんぞ! もう一度勝負だ!」
……やっぱりアタシの勝ちでいいや。
「さあどうした! もう一度だ!!」
「姉ちゃん。落ち着いて! まだ怪我治ってないから落ち着いて……」
何度も勝負だと騒いでウザったい事この上ない。
「お前、自分の筋肉にも同じ事を言えるのか?」
「っ! ……そうだな。 筋肉たちよ、すまない! もう一度鍛え直すまで待っていてくれ!」
そうだなじゃねえよ。
筋肉より妹の言う事に従え。
「姉ちゃんを熟知してる……! マリー、恐ろしい女……」
妹も妹で失礼な奴だ。
「サファイさん、ルビーさん。ここにいましたか。今回の事を糧にしてお二人がさらなる強さを得ることを私達は信じております。さあ宿屋で回復魔法をおかけしますので立ち上がりください」
しばらくすると『オーガキラー』の他メンバーらしき人物が謝りながら彼女を連れて行くと、他の奴らと合流する。
……あいつ等みんな筋肉質だな。コイツら筋肉タイプしかいないのか?
回復や補助もマッスルタイプなのか?
バランス悪い気がするがどうしてるんだ。
「さあ、姉ちゃんもいくんよ」
「ううっ、次こそは鍛えて帰ってくるからな!」
頼むから来ないでくれ。
まあいいか。アタシも今回はここまでだ。
血のついた服は着替えて、馬鹿騒ぎに混じってくるさ。
「マリー、おつかれ様です。勝ちましたか?」
「ただいま、エリー。もちろんだぜ!」
エリーは料理の仕込みをしていたため、観戦できなかったらしい。
一区切りついたので戻ってきたのだそうだ。
アタシとエリーはお化け達に運んでもらった鹿肉シチュー、山菜炒め、ドリアードの集めたフルーツ、ユニコーンの馬刺しを一緒に堪能する。
途中、エリーと一緒にファンクラブのメンバーにバター塗ったパンでも配ろうかと思ったが、姿が見えない。
駄メイドがファン向けの商品をオークションで売っており、そこに集まっているらしい。
いつの間にかギルドマスターとも連絡を取り合っていた。
まあアタシたちの代わりに歓待してくれるなら別に良いか。
「マリー、流石だったわ! ユニコーンの角も安く買えたし、今日は大儲けよ!」
「コリンも喜んで貰えて何よりだ。またなんか売ってくれ」
「任せて任せて! 来週また行商に出るからその時に館に寄るわね!」
期待してるぜ。
女将さんもひと仕事終えて休憩に入っている。
「女将さん、今日はあんがとな」
「可愛いエリーちゃんのためだ。任せなよ。二人共もし困った事があれば何時でも酒場においで」
「おう、ありがとな」
「ありがとうございます。女将さん」
皆、このパーティを楽しんでいる。
途中、E級冒険者の『ウザ絡み』がメイに絡んでいたが、おばけたちに囲まれて放り出されていた。
そういう一部のマナーのなっていない奴はお化けやアタシがしばいているから問題なく過ごせている。
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楽しい時間はあっという間に流れ、終了の時が近づいてきた。
「さあ、そろそろお開きだね! 最後に僕からとっておきのショーをプレゼントだ!」
祭りの最後はリッちゃんがカーテンコール代わりに仕込んでいた魔法陣で花火を上げてくれた。
魔法陣から次々にうち上げられる魔法を館の二階から眺めながら、祭りは終了する。
「なんだかんだでマイホームが手に入ったな」
「ええ、ここが私達の新しい家ですね」
「まあ変わり者もついてきたけどな」
変わり者ことリッちゃんは少し離れた別の部屋にすまわせている。
メイドのメイも一緒の部屋を希望したので同じ部屋に変更した。
元々メイがいた部屋は残してある。
「いてて……」
「戦いの傷が開きましたか? 治しますので見せて下さい」
アタシは一応傷を見せる。
とはいえ、乾いた血が肌着とくっついて脱ぐとき痛かっただけだ。
もう殆ど塞がっている。
「大丈夫だ。こんなのツバつけときゃ治る」
「しょうがないですね。ではそのように治します」
エリーはそう言うと傷口に優しく口づけをした。
一緒に回復魔法もかけてくれている。
「んっ……」
「痛みますか?」
「ああ、いや、続けてくれ」
なんとなくアタシもエリーと手を絡める。
その指に、包丁で切った傷があるのに気づく。
アタシはその傷をそっとなぞるように唇を当てる。
しょうがないですね、と呟くエリーの顔は桜色に染まっている。
「そう言えば、さっき口の中を火傷したかも知れない」
「……奇遇ですね、私も味見の途中、小骨が舌に刺さったんです」
アタシ達は互いの傷が問題ないか、お互いを確かめながら癒やしあった。
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