第33話 破壊者

「何者だ。そこで止まれ」


男爵の領地に差し掛かると、関所の門番に止められる。


「アタシ達はギルドから来たものだ。男爵領のダンジョン踏破の依頼で動いている」


基本的にギルドからは関所を含めて各部署に通達がいっている。

だからこう言えば大体の関所で話が通じるのは楽だ。


「な! また来たのか!? 皆! 警戒態勢第三、用意!」


あれよあれよという間に関所から武装した兵士が現れ、囲まれてしまう。

なんでアタシ達は犯罪者扱いされてるんだ。



「失礼しました!」


最終的に武器まで向けられたが、ギルドのサインが入った依頼書を見せると誤解が解けた。


「いきなり囲み出すから何事かと思ったぜ」

「申し訳ありません、先ほど同じく冒険者を名乗る方がこちらを通ったのですが、ギルドの証書をなくしたらしく問いただしたところ、『ならば力で証明してみせよう』などとおっしゃって、その……」


ああ、大体原因が分かった。

だから関所の門が壊れてるのか。


アイツだな。

そんな事するバカは。


「門の支払いはギルドに請求しときな。『オーガキラー』が犯人だってちゃんと言うんだぞ」

「は、はぁ……? 先程彼女のメンバーの一人が『エリーマリー』だと名乗っておりましたが……?」

「……アタシ達が『エリーマリー』だ。そのことも含めてギルドに報告しておけ。確認を取ってもいい」


……脳筋どもぶっ飛ばす。



なんとか誤解を解いて男爵領へ入れた。


男爵領は小さいが自然が豊かで魔物が少なく、農作物が多い。

商業的な基盤こそ弱いものの、十分な山の恵みと、それを軸とした山地酪農が有名だ。


街はもう目の前だ。

あたし達は馬車から降りる。


あとはこの街のギルドで話を聞くだけだ。


「ここは牛乳やチーズが名産だったかな」

「そうですね、ここのチーズはオニオンスープに入れると、とても美味しくなるんですよ」

「僕、昔この辺りに来たことがあるかも。あの頃は禿山ばっかりだったから自信ないけど」


リッちゃんからちょくちょく昔の話を聞くが、あまりにも古すぎて実感がない。

三十〜四十年ぐらい前ならともかく、千年はジェネレーションギャップってやつを感じるな。


「メイさんへのお土産はチーズなどの乳製品が良いかもしれませんね」

「良いね! ちょうどそこに牛さんが歩いて、歩い、て……?」


りっちゃんが声を止め、一箇所を見つめたまま固まっている。

何かあったのか?

リッちゃんが凝視したまま固まっている方向を見てみると、野生の牛が二足歩行で歩いていた。

こっちと目が合うと手を振ってくる。


……なんだアレ?

モンスターか?

とりあえず手を振り返しておくか。


「倒した方がいい……のか?」

「でもなんだか可愛いですね」


確かに。

なんというか家畜っぽい愛嬌があるんだよな。

敵対していないみたいだし、村の誰かに聞いてみるか。


「冒険者の方、お待ちください!」


声かけられた方向を振り向くと、この町の住民らしき人間が慌てて止めに入ってくる。

なんかさっき見たぞ、この光景。


「どうかお待ちを! その牛はモンスターではありません!」

「我々の大事な家畜なのです!」

「どうかどうか、命だけは助けてやってください!」


いきなり複数人来たかと思うと全員で土下座している。

おいまだ悪いことはやっていないぞ。


「いやこっちだって狂戦士じゃないんだから勝手に襲ったりはしねえよ」

「本当ですか!? 良かった!」

「今度来られた冒険者は知性があるぞ!」


まるで冒険者が知性のない獣みたいなこと言うんじゃねえ。

そんなのは全体の八割くらいだ。

たまには知性がある奴もいる。


「先ほどこの街に来られた冒険者の方がミノタウロスと力比べだ!とか言ってなぎ倒す事件が発生しまして……」


ああ、大体原因が分かったわ。


「まったくあの『エリーマリー』という冒険者チームはろくでもないですな!」

「ちょっと待て」


とりあえず誤解を解いて、ギルドを通じて弁償させるように伝える。

もちろん支払いは『オーガキラー』だ。


「ところで見たことがない牛だが、品種名は何て言うんだ?」


「魔物のミノタウロスとウチの花子を掛け合わせた新種です! 新種なんで名前は無いんですがミノタロウとか言う名前にしようかと!」


半分魔物じゃねえか。倒されてもしかたねえよ。

つか、よく作れたな。

ミノタロウ達と別れてギルドにつくと『オーガキラー』のメンバーがいた。


「おお! お前たちか! 一度手合わせするか?」

「あ、久しぶりだね。ウチのこと覚えてる?」

「おう、よく覚えてるぜ、久しぶりだな」


筋肉姉妹が語りかけてくる。

私は姉の方を一旦無視して妹と握手する。


「あ、どーも……。あの、離してくれん?」

「エリー、頼む」

「任せて下さい。【その力は片鱗。一滴の呼び水となりてその力を増せ】〈肉体強化〉」


アタシの力が強化される。

これで逃げることはできないだろう。


「えっと、何をやってるん?」

「関所の人間が『エリーマリー』が扉を破壊した、と言ってたそうだ」

「へ、へぁ、名前を騙る奴がいるなんて悪い奴もいるんね」

「その『エリーマリー』とやらは男爵領にいる家畜の牛に襲いかかって、殺しはしないまでも入院させたらしい」

「ご、ごごくあくー 悪い奴がいるんねー」


「零距離・サンダーローズ」

「あびゃああああああぁぁぁっっん!!!!」


これで悪は滅びた。


「お、おい、いきなり何をする!」


「その胸に……いや、大胸筋に聞いてみろ」

「何だと!? ……そうだったか、ウチの妹がすまない事をした」


……前から薄々感じていたが、お前より筋肉の方が賢いんじゃねえのか?


「どうしてウチってばれたんよ?」

「こんな小賢しいことをするのは、『オーガキラー』の中ではお前くらいだ。なぜ罪をなすりつけたか、吐いてもらおうか」

「えっと、その……怒らない?」

「怒らないと思うか?」


もはや怒るかブチギレるかの二択だ。


「悪気は、悪気はそんなになかったんよ! 姉ちゃんが余所の領地でやらかして赤字出そうだったから仕方なく、そう仕方なかったんよ!」

「ファイアローズ」

「はぎゃあああん!」


とりあえず焼いといた。

妹の方も中途半端に知恵が回るせいで駄目さがマシマシになっているな。


「うむ、すまなかった。冤罪をかけてしまった事を詫びよう」


筋肉姉が和解の手を差し出してくる。

ちっ、しゃーないか。

不本意ながら一時的に仲間となるわけだし、ここは手打ちに……

いや待てよ。


「その手、握力勝負を仕掛ける気だな」

「おお! 流石だぞ、我が心の友よ。私の事をよく分かっている! そのとおりだ、一戦しようじゃないか!」

「……サンダーローズ」

「ふはは! マッソーパウアッ!」


ちっ、相変わらず半端な魔法を無効化してくるか。

流石はアタシの敵だ。


互いに距離を取って戦いの姿勢に移る。


「いい加減にして下さい!」


ギルドの人から怒られてしまった。

……アタシは悪くない。


とりあえずギルドの方には釈明をしてきた。

長くなりそうだったのでリッちゃんとエリーには先に酒場で飯にして貰っている。


最終的に『オーガキラー』の報酬金貨二十枚のうち、半分を貰える事で和解成立だ。


……ランクの差があるとはいえアタシ達より金額高いな。


乱痴気騒ぎでグダグダになったので、今回の依頼の詳細は他のメンバーを交えて改めて行われる事になった。

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