第32話 ダンジョン
ギルドにはおやっさんがいなかった。
有給休暇らしい。
仕方ないのでポン子に確認を取る。
「何ですかその嫌そうな顔は!」
「いや大丈夫、また何かやらかさないかなと思って心配になっただけだ」
「やめて下さい! この間だって反省文三十枚書かされた上にギルドの給料を減らされて辛いんですよ!」
それはお前が冒険者から上前はねようとしたからだろうが。
これ以上ない自業自得だ。
「まあいい、依頼を教えてくれ」
「あー、この依頼ですか。この案件は私たちのギルドから二チーム派遣予定です。ギルドからは『エリーマリー』のほかに、『オーガキラー』が推薦されていますね」
「よし、諦めようか、この依頼」
「まだ推薦段階ですから! それに敵として戦ったマリーさんなら分かると思いますが、味方となると頼もしいんじゃないですか?」
いや下手したら敵より先にあたし達に喧嘩売ってくるだろ。
ダンジョンの中で前門の敵、後門の筋肉とか地獄かよ。
今度は一切手加減せずに毒魔法とか使うぞ?
……効きそうに無いな。
「『オーガキラー』の方々に、いえ妹さんにちゃんと敵対しないように言っておきますから!」
「……ならいいか」
姉の方はともかく、妹は多少常識が通じそうだ。
一応、罰ゲームの館修理にも来てたしな。
「そんなにすごい方なんですか?」
「ああ、エリーは給仕で試合見てなかったんだったか。返答に困ったらとりあえず筋肉に聞けって答えるんだ」
多分それで解決する。
困ったような顔をされてもこっちが困る。
謎かけやとんちじゃないぞ。ガチだ。
「では受諾ということで……」
「まて、詳細は?」
「あ、失礼しました。依頼内容はですね、ジェフベック男爵領にて七年前に発見されたC級ダンジョンの探索、およびとあるアイテムの回収です」
ジェフベック男爵領。
バレッタ伯爵領とドゥーケット子爵領の間にある小さな領地だ。
「このダンジョン、発見時点ではマトモに機能しておらず放置されていたのですが、ここ数年活性化が目立ってきたので潰してしまおうというわけですね」
活性化、か。
稀に休眠状態のダンジョンが活性化すると魔物が溢れやすくなると聞くな。その対策か。
「ルートが複数に分かれているらしくて、全部で五つの冒険者チームが中に入って仕事をします。なんでもすばやく連続で攻略しないと駄目な扉があるらしく、そこを開けるのが今回一番の目的ですね」
謎掛けタイプのダンジョンか。
面倒臭そうだから入ったことないが……
「既に知っているかも知れませんが、このダンジョン、手に入れた財宝の類は持ち帰って構いません。もっとも数は少ないそうですが」
「アイテム私有可って書いてある割に渋いんだな?」
「一応、特定の宝物は自動生成されるみたいで、それらは各自好きにしていいみたいですね」
んー、微妙。
でも量より質のパターンもあるしな。
判断が難しいな。
「詳細はお伝えできませんが、かなり上質な財宝が確認されています。持ち帰るのは失敗したみたいですが」
「マジか。だったら抑えこんでダンジョンのコアを支配下に置くのは……無理そうだな」
「残念ながら活性化してから謎掛けの難易度が上昇し、頻繁に魔物が溢れてくるため抑え込むのは効率が悪いみたいですね。支配下に置けるならそうしたいみたいですけど」
ダンジョンの中心にあるというダンジョンコア。
すべてのダンジョンはこの機関が周囲から魔力を吸い取って魔物やお宝を生成しているらしい。
コアの質が生成される財宝の質や量に直結していると言う噂だ。
コアを破壊せずに上手く支配下に置くのが理想だが、男爵のトコは冒険者の数も少ないだろう。
ダンジョンの壁や床は土魔法が使えないとか制限あるしな。
男爵も諦めたんだろうな。
「エリーとリッちゃんはどうだ?」
「僕は良いよー」
「少し嫌な予感がしますが……大丈夫だと思います」
「よし、じゃあ受けるぜ」
二人が頷いたのを確認して、書類にサインをした。
出発当日。
旅支度を終えて出発するための準備をしていると、庭でゴソゴソやってる奴がいた。
「リッちゃんか? 何やってんだ? もう出発するぞ?」
「ん? 今日遠くまで行くでしょ? それでちょっと裏技をね」
「裏技?」
「ふふふ、気になるかい? 偉大なる我の秘術が!」
「いや、別にいいわ」
いつもの悪癖が出てる。
お願いだから聞いてーとかなんかうるさく喚いているがどうでもいいや。
さっさと行こう。
道中はギルドが用意した馬車だ。
五日も進めば到着するだろう。
メイは留守番だ。
館を守るのがメイドの努めらしい。
今回の旅はアタシとエリー、ついでにリッちゃんの三人だ。
『オーガキラー』とは現地集合の予定になっている。
まあ一緒に行っても面倒が増えるだけだしな。
「長旅になると荷物が多くて大変ですね」
「しょうがないさ。こればっかりは冒険者の性分だからな」
ふと横を見ると、リッちゃんは小さいポーチに杖を一本持っているだけだ。
「リッちゃん。荷物どうした? 家に忘れたのか?」
「え? ちゃんと持ってきてるよ?」
辺りを見るがどこにもない。
一体どこにあるんだ。
ああ、そうか。
「すまないリッちゃん。まだ自分の荷物とかないんだよな……。これからたくさん宝物、作っていこうな」
「いや違うよ!? そんな可哀想な目で見ないで! 僕の荷物はここ!」
リッちゃんは空中に魔法陣を書き出す。
すると魔法陣が光り、空間が裂けるように割れた。
破れた空間の中には、食料や備品が所狭しと並べられている。
「これは僕が使える空間魔法さ! ……魔力の消費が大きいから一日に数回しか開けないけどね」
「これは……、すごいですねリッちゃん。空間魔法ですか。もしよろしければ教えてくれませんか?」
「へへーん! これはね……」
リッちゃんは気を良くしてエリーに魔法を説明している。
確かにこれはすごい。
そんな事もできたのか。
「うーん……。消費魔力が大きすぎます。発動までの詠唱を長くしてやっと使えるかどうかと言ったところでしょうか」
「これはどのくらい入るんだ?」
「え? 魔力さえ込めればいくらでも入るよ? ただ取り出す時も魔力使うから、量が多いと大変だよ?」
よし、荷物当番は決まりだな。
「リッちゃん、お願いがあるんだが」
「おっと残念でしたー!」
そう言うとリッちゃんは空間を閉じてしまう。
「ふっふっふ、中に荷物を入れたければ、我の事を崇め讃えるのだ!」
まーた調子に乗ってきた。
「リッちゃん、よく聞くんだ。リッちゃんはメイのモノ。リッちゃんのものは、館の物。館の物はアタシの物だ。だからアタシに返すと思ってくれればいい」
「それ説得する気ある? そもそもメイはうちの子だからね?」
「おいおい。分かってねぇな。相手に惚れちまった時点で身も心も相手のモノなんだよ」
「でしたら私はマリーのモノですね」
「だが待て。アタシはエリーのモノでもある」
「惚気るなら家でやれぇ!」
リッちゃんに正論を言われてしまった。かなしい。
「メイを嫁にやるから勘弁してくれ」
「元からうちの子です! そして誰にも渡しません!」
お前もノロケてんじゃねぇか。
気を取り直してリッちゃんの空間倉庫に押し入り強盗をする事にする。
りっちゃんの周囲を探って……あったこれだな。
ちょっと待ってろよ……。
「ふんぬぬっ! はぁっ!」
「え? なんで干渉できるの!?」
アタシが全力で気合を入れると、閉じた空間が再度開く。
大体空間に閉じ込められていたリッちゃんの封印を解いたのは誰だと思ってんだ。
気合さえあればなんとかなるんだよ。
……だが疲れるな。
あんまりやりたくない。
つか、何度もやったら気絶する気がする。
「えぇ……マリーの力って、なんでそんなに強いのさ。僕だって魔法陣に組み込もうにも力が弱すぎて四苦八苦してるのに」
「これ基礎魔法とか身体強化とも関係してるんだろ? だったら敵を近くで倒し続ければ強くなるんじゃないか?」
倒した時に強ければ強いほど、相手との距離が近ければ近いほど身体強化の効果は大きいからな。
「そんな滅茶苦茶な……。それが出来るなんてマリーくらいだよ。それに古代文書の記述とはちょっと力の質がちがうんだよね。コレ」
意外とできると思うけどな。
『オーガキラー』とか身体強化ができるようになったら嬉々としてやりそうだ。
とりあえず荷物は装備品以外全てリッちゃん空間に格納してしまった。
エリーは荷物が軽くなったと喜んでいる。
リッちゃんもお荷物から荷物番に格上げできて何よりだ。
とりあえずリッちゃんにはお礼に飴玉をあげておくか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます