第21話 ロマ

「ね、ねえ…… 提案があるんだけど」

「なんだ? 金なら貸さんぞ?」


リッチは館の方を指差してくる。


「その…… 行く宛がなくて……」


住まわせて欲しいのか。

まあ広いし女所帯だからな。犬小屋くらい作ってやっても良いが。


「あそこにある僕の領地を半分あげるから仲間にならないかな?」

「どっから目線だ。オメーの領地なんてもうねえよ。あれはもうアタシ達のモンだ」


「そんな! お願いします! うちの使い魔メイド達こき使って良いですから! 僕は三食昼寝一時間だけで我慢しますから!」


お前自身はなにもする気ねぇじゃねえか。

多分そういうところだぞ。

魔王ファウストが裏切ったのは。


「仲間にはならねえよ」

「そっか、そうだよねハハハ……」

「だが、友達にはなってやる」


別に悪いやつじゃなさそうだしな。

経歴は色々と気になるけど。


「え? ホントに!? じゃあ館にタダで住まわせてくれるんだね!」

「やっぱりお前友達じゃねぇわ」

「えぇ…… 僕、友達って言ってくれた人にはお金とか魔道具貸したりしたのに…… 帰ってこなかったけど」


それは友達じゃねえよ。

ただの寄生虫と養分だ。


「あー、うん。友達かどうかはさておき、色々と常識を叩き込んでやるから安心しろ」


「ま、まあこんな可愛い子達と仲良くなれて嬉しいよ!」

「あなたも素敵ですよリッチさん」

「やだなー。僕男だよ? こんな男に可愛いだなんて」


今なんつった?

エリーも怪訝そうな顔をしているぞ。

リッチお前なぜ照れてるんだ?


「あのー、もう一度お願いします」

「え? 『こんな男に……』のところからでいい?」


お前、男だったのか。


「いや待て、お前魔法使ってただろ」

「そうだよ? 僕の持つスキルは『魔陣』。魔法の詠唱を陣の形にしてどこにでも、それこそ空中でも血液でも描けて、魔法を発動させるようになるスキルなんだ。お陰で研究が捗ったなあ」


男なのに魔法を使えるとか反則じゃねーか。

あと、ウチは女性限定だ。


「すまんがリッチ、お前は外で寝てくれ」

「酷い! 僕、ふかふかのベッドじゃないと寝れないんだよ!」


贅沢言うんじゃねえ。

女の子かお前は。

アタシん家にお前の場所はねぇ。


「諦めろ。男なら野宿の百回や二百回はするもんだ。もう少し男らしくしろ」

「良いじゃないか! 男が可愛い格好したってさ! むしろ世界は可愛さで溢れるべきだよ!」


うん、それには完全に同意する。


「それにさ、僕だって望んで男の子になったわけじゃないんだよ。出来るなら女の子が良かったさ。でもね、この世界の制約が強すぎて男から女になるなんて不可能に近いんだよ」


不可能に近い?

やればできるもんだぞ?


「切り落として見るか?」

「怖いこと言わないで! それに切り落としたって無理だよ。男は生まれた時に吸収強化の魔法が体に刻まれるんだ。代わりに魔力変換が封印される。魔法が使えないのはそのせいだね。僕だって魔法はスキルでごまかしながら使ってるようなもんだ」


吸収の魔法?

魔物を倒したときに力が強くなるアレの事か?


「女の子だけが優遇されてるんじゃないよ。どっちもフェアなのさ。男は個としての力を強化できるし、女の子は借り物とはいえ力を自由に変化させて操る事ができるからね」


借り物…?

悪魔も似たような事を言っていたな。


「だから僕は女の子になりたかったんだ。男の子の力を持った女の子は古代の力に通じられるだろうから」


アンデッドになって色々試したけど女の子になることは無理だったけどね、と自嘲的につぶやいている。


千年前の人間の古代っていつだよ。


「なぁ、その古代の力ってのは――」

「話が盛り上がっているようですな」


気になる所を質問しようとすると、誰かが話しかけてきた。

その姿には見覚えがある。


(ロマックさん。やっと出てきましたか。皆様、紹介します。この方は我々の仲間。最初に目覚めた者で、唯一外に出る事ができる者です。ただ偏屈でまともに働くことすらしません。我々の中で最も怠惰な男です)


領主のところのロマとかいう執事爺じゃねえか。

なんでココに居るんだ?

いや、そもそもなんでメイドと面識が?


「紹介にあずかりました、私ロマックと申します。しかし偏屈とは心外ですな。私には主様より特別な任務があるとお伝えしていたはずですが」

(ほほう? 主様が目覚めた今、特別な任務とは何でしょうか? 精気を吸収する防衛トラップも最早不要でしょう?)


執事はリッチに目をやると、少し考える素振りをして答える。


「端的に申しますなら問題解決ですかな」

(主様が目覚めた今、なんの問題があると?)


怒りを隠さないメイドと執事のロマック。

この状況にリッチの奴も困惑しているようだ。


「えっと、君、誰?」

(何をおっしゃっているんですか。我々と共に封印されていたロマック様ではないですか)

「……いや、僕は可愛い子しか作っていない。ダンディな爺さんなんて作らない。……なぜ君は僕の使い魔のフリをしているんだい?」


場が、凍る。


「ふむ…… 一部の方々は混乱しておられるようですので少々補足をいたしましょう」


そう言うと爺はゆっくり語りだす。


「はるか昔々のこと、主様は一つ私に命を下しました。封印が解かれたときは刃となりて、我が生涯の懸念を排除せよ、と」


誰もが言葉を発せない中、執事の声が裏庭に響く。


「そして主様は私を改めて封印しました。誤算があったのは私が第一の封印が破壊されると共に目覚めたにも関わらず、他のものはマトモに目覚めてすらいなかった事です」


カツカツと音を立てながら、ロマの爺…… いやロマックは石畳の上を歩き回る。


「封印されていた私はその代償として同系統の封印に干渉する事はできません。当時の領主達に取り入り、何度か諫言しましたが、金にならない事はしないの一点張り」


(あ、貴方は……? いえ、私達を目覚めさせたのは貴方ではありませんか! 主様のために、と)

「そうですな。しょうがなくリッチ様の使い魔共を起こして焚き付けるも明後日の方向に活動する始末」


コイツラ部屋の掃除とかしてメイドまがいのことやってたもんな。


「私は焦っておりました。私は人間男性と似たタイプの魔族として設計されておりました故、寿命も人とほぼ同じ。使命を果たす前に寿命が来るのではないか、と」


ここまで老けてしまうのは誤算でした、とどこか自嘲を含んだ笑顔で話すロマック。


(貴方のその姿。封印の悪影響とおっしゃっていましたが、実はただの加齢だったと?)

「左様。そこで領主が交代した際に、この館が化物屋敷であり、極めて不利益になる旨を伝え、破棄するように仕向けました」


「依頼の最初はお化け退治だっただろうが」

「それは領主がなんとか館を再利用しようと吝嗇ぶりを発揮したからですな。私も困り、陰ながら妨害いたしましたが」


ああ、上位の人間でも達成できなかったのはこいつのせいか。



「我が主の名はファウスト…… 皆様が言うところの初代魔王と呼ばれているお方」


その時ロマックの爺から凄まじい圧がほとばしる。

……気に入らねぇな。


「アタシ達をダシにしたってのか」

「ええ、不躾ながらそのとおりでございます。館を取得した後、第二の封印を壊してもらうよう依頼する予定でした。まさか数日で第三の封印まで解いていただけるとは。生きているうちに念願叶いました。誠にありがとうございます」


丁寧にお辞儀をするロマック。


「君は僕の…… うっ…… ガハッ!!」


その時、リッチの体が全身が切り刻まれたようになり、血を吹き出す。

同時にメイド達が苦しそうにバタバタと倒れていく。


「お待たせしました。我が主の宿敵、リッチ・ホワイト様。我がスキル『苦ズレ逝ク者』が発動しました。冥府におられる我が主の所へ挨拶に行かれるが良いでしょう」

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