第22話 魔族
「エリー! 回復はできるか!?」
「やってみます!」
「無駄ですな。リッチ様の身体は特殊なアンデッドと伺っております。生半可な魔法は弾いてしまうかと」
残念だがアタシもエリーも普通じゃねーんだ。
アタシはロマックとかいう爺に向き直る。
「てめぇ、何をしやがった?」
「おやめくださいマリー様。私は積年の思いを叶えてくださった、あなた達だけは見逃しても良いと考えております」
あなた達『だけ』ね……
つまりメイドその他は見逃す訳ないって事か。
「よくもリッチ達をやってくれたな」
「なぜそこまでお怒りに? 先ほど出会ったばかりの方々でしょう? 一体どういった義理があるのですかな」
義理だぁ……?
そんなもん一つしかねえだろ。
「こいつ等はアタシのダチだ」
「人と人の縁など知れたもの。出会って間もない友人など捨てておけば良いでしょう」
「てめえを封印して捨てた飼い主にも言ってやんな」
「……非礼をお詫びします。間違っていたのは私の方でした」
軽く謝罪の言葉を述べると、ロマックは拳法の構えを取る。
「では、貴女とは特に戦う理由がありませんが…… 魔王ファウスト様に創造されし古き魔族、ロマックがお相手いたします」
「暗殺者が武道家気取りか? いいぜ? アタシはマリー。ただのマリーだ。出会ったばかりのダチのために命を張るバカさ」
アタシは刃を抜く。
『魔女の刃』に魔力を通し、金属魔法で形を変える。
「变化、切付包丁」
刃物の切っ先を戦闘用に尖らせた。
さあ、やろうか。
まず最初に仕掛けたのはアタシだ。
更に金属魔法をかけ、肉厚の刃物にした刃で一撃をお見舞いした。
だが一撃はきっちり受け技で流され、空いた腹に回し蹴りが叩き込まれる。
こちらもお返しにもう一本の刃で迎撃してやった。
スネを斬りつけてやったが、浅い。
……キレイな武術だ。
相当に鍛錬してやがる。
「ほう、返したつもりが逆に傷をつけられるとは…… やりますな」
「スネに傷持つテメーにはちょうど良いだろ」
「では、私も本気で参りましょう」
ロマックの周りを闘気がほとばしる。
様子見からのいきなり本気かよ。
「へっ、女にマジになるたあアタシの魅力が分かって…… ゔぐぁっ!!」
「無駄口を叩いていると舌を噛みますよ?」
距離を一気に詰めらて正拳突きを食らうと、裏庭の花を散らしながら山の方向に飛ばされる。
早くて鋭い。体の芯まで響く。
アタシは即座に体勢を立て直すと、追撃で向かってくるロマックの拳を躱して反撃した。
次に間違っても正面から向き合って急所をさらさないよう、左右にステップを繰り返しながら武器で斬りつける。
「おや、冒険者の方には技術がなく力任せに攻撃する方が多いと聞いていましたが、中々技術のある方もいらっしゃるモノですな」
そういうロマックの爺はアタシの攻撃をすべて素手で払いのけていく。
アタシの反撃を全部受け流しながら褒めても嫌味にしか聞こえねーよ!
クソッタレが!
「このクソった、ぐがっ!」
「ふむ…… この手応え、魔法かスキルを使用しておりますな?」
くそ、きっちり受け流された上でカウンターを打ち込んできやがる。
念のため風のクッションで威力を軽減してるとはいえ、厄介だ。
「サンダーローズ!」
「むっ!」
紫電がロマックの体を襲う。
流石に受け身を取ったか。
「アタシに痺れるだろ?」
「まったく、です、な!」
クソっ!
雷で動きが鈍ってるはずなのに斬撃をしっかり受け流して、魔法も被害を最小限に押さえていやがる。
コイツの技術は本物だ。
ならこれはどうだ?
「ファイアローズ! サンダーローズ!」
アタシはファイアローズとサンダーローズを交互に放つ。
同時に刃を混ぜるのも忘れない
炎、刃、雷、刃、炎と連撃を繰り出す。
「ほう、なかなか…… やり、ますな!」
捌ききれなくなってるなあ?
隙を見つけては攻撃しようとしてくるが、魔法で牽制して攻撃をさせない。
魔法は直撃するとマズイのだろう。
やや大げさに回避している。
「ふむ、二本の刃を柔軟に攻撃と防御に回しつつ、残り僅かな隙すらも魔法でカバーですか、厄介ですな」
「最近の女の子はガードが硬いんだよ。テメーが自分の血の染み数えてる間に終わらせてやるから大人しくしてろ」
攻め立てようとするが、ロマックの爺は後ろに大きく飛び跳ねて距離を取られた。
爺め、年齢の割によく動けんじゃねーか。
そのまま距離を開けないように詰めさせてもらうぜ?
「まだそちらは隠し玉がいくつかありそうですし、このまま戦っても私の方がジリ貧になりそうです。武人として戦えない私の不明をお詫びいたします」
そう言うとじじいは頭を下げてきた。
何考えてやがるか知らないがそのまま叩き潰して……
瞬間、アタシの体のアチコチが内部から切り裂かれるように血を噴き出す。
「が…… はっ……?」
「『苦ズレ逝ク者』 これを受けた相手は傷を負い、時間とともに徐々に傷口を広げさせます。決着ですな」
そう、か。
コイツのスキルか。
……油断した。
「多少手こずらせていただいたお礼に、ひとつ面白いものをお見せしましょう。」
そう言うと爺が両手の手袋を外す。
その手は獣の手だった。
爪が刃物のように鋭い。
「これが私の数少ない武器です。そしてわずかに残る魔族の証。貴女の隠し玉に比べれば些細なものでしょうが、これを使ってあなたを葬って差し上げましょう」
そう言うと、ボロボロになって動けないアタシの腹に手刀を突きつけてきた。
かろうじて腕でガードするが、爪は腕を切り飛ばし、腹へと突き刺さる。
手刀はそのままアッパーのように突き上げられ、アタシを空中へ投げ飛ばす。
そしてそのまま腹を大きく切り裂いた。
アタシの体は木々の中を抜けて、地面へと落ちる。
……ヤベェ、腹からモツ出てんじゃねぇか?
「ふむ…… 終わりましたな」
遠くで声がする。
クソッタレめ。
……ここは山の方だな。
相手の姿が見えない。
地面の窪みに落ちたようだ。
……足音が遠ざかる
勝手に勝利宣言してんじゃねぇぞ。
だが、飛ばしてくれて助かった。
エリー以外には見られたくねえからな。
お返しする、から、待って…… ろ……
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