第20話 アンデッド

(おかえりなさいませ。どうやら封印を解いていただいたようですね、お陰で力が少し強くなりました。ありがとうございます)


洞窟の調査が意外と時間がかかったので、洞窟内部で一泊し、山を下りた。


館に入る直前で駄メイドが語りかけてくる。

思念が強くなっているようだ。

どうやら封印を解いたことで力も解放されて強くなったらしい。


「おう、あとは一つだな」

(それですが…… 非常に厄介な場所にあります。流石のマリー様も難しいかと)


もったいぶらずに言えよ。

メイドは空中を指差す。


(場所は、ここです。この世界の次元の狭間、位相のずれた場所。そこに最後の封印が施されています。主の体もそこに)


話を詳しく聞く。

主人を裏切った使い魔が空間魔法で主人を閉じ込め、さらに封印の核となる石碑も同じく別空間に飛ばしたらしい。

そして、その魔法は失われて使える者がいないとか。


「でもさ、空間魔法のバッグあるだろ たくさん入るやつ。アタシも小さいけど一つ持ってるぞ?」

「マリーの知っているモノは空間魔法とは名ばかりで、圧縮魔法と呼ばれるものですね。生き物は保存できなかったりと色々と制限が多いみたいです」


エリー先生が補足してくれる。

おとぎ話の魔法が再現された!って売り込みだったのに誇大広告だったのかよ。

金返せ。


「今は発動させるためワードすら失われてしまった伝説の呪文、それが空間魔法です。あの洞窟にあったようなトラップのような転移タイプの空間魔法はまだそれなりに残っているみたいですが」

(……おそらく主人なら詠唱の呪文を知っているかとおもいます)

「いや主人は封印されてんだろ? どうやって見つけるんだよ」

(問題はそこなんですよね……)


そこなんですよね…… じゃねえ。

どう考えても無理だろ。

宝箱を開けるためのヒントが宝箱の中にあるようなもんだ。


「マリー、貴方ならどうでしょう?」

「とは言ってもなあ」


エリーの言いたい事は分かるぜ。

アタシの基礎魔法とやらで再現できないかって事だろ?


とはいえ対象が分からねえとな。

……やるだけやってみるか。


探知魔法の要領で別空間を探知してみる。空間、空間…… 別の次元……

おっ! なんか引っかかったぞ!


「よっしゃ、試してみるか」

「やはり出来そうですか? マリーならやれると思ってました」

(今まで主以外は誰も成し遂げたことがなく、発動するための詠唱鍵すら失われた古の魔法です。そんな簡単に行くはずが……)


空間に穴を開けるイメージで……

駄目だな。

やり方はわかる。昨日入った転移の鏡を使う要領で良いはずだ。

だが力が足りないのが伝わってくる。

アタシは気合を入れて、全身を流れる魔力を一点に集中する。


ぐぬぬ。

もう少し…… どりゃあ!


私が全身全霊を込めて力を使うと、空中にかろうじて手が入りそうな穴が開いている。

山でみた石碑と同じモノがあった。

同じく触ると砕け散る。


(詠唱もなしに…… 信じられません。あなたは一体……)


ふふん、ただの可愛いもの好きな女の子だ。

もっと褒めろ、顔とか服とか。

あと詠唱はしないんじゃない、できないんだ。


(お陰で、主様が顕現できます)


空間に魔法陣が浮かび、そこから一人の人間らしきモノが落ちてくる。


それは白骨化した死体だった。

そうか、長い年月で肉体が……


「ああ、よく寝た」

「ひっ…… マリー、死体が喋りましたよ!」


白骨死体が背伸びをしながら起き上がると、エリーが驚いてアタシの後ろに隠れる。

アタシも驚いたがエリー、なんでお化けはセーフで死体がしゃべるのはアウトなんだ。

死体は殺せるぞ?


人魂やメイド達がこぞって白骨野郎の所に集まってくる。


「人魂くんたち久しぶり。 百年ぶりくらい? え?千年もたったの? 早いね、僕そんなに封印されてたんだ。 あ、メイちゃんまた顔が消えてる。後で治してあげるね。え、何? 人間?」


ふとこちらの方を見た白骨野郎がこちらを見て固まる。

やっとアタシたちの存在に気がついたようだ。


「……よく来たな人間。我こそは魔導の深淵を極めし者にして偉大なるアンデッド。王の中の王、魔族の始祖」

「今更取り繕っても遅えよ」

「……お、おのれ。だがこれを見てもまだそんな事が言えるかな? 〈受肉〉!」


白骨野郎が空中に魔法陣を書いて呪文を唱えると、みるみるうちに肉が再生していく。

もはや白骨死体じゃない。

生身の人間だ。

上位アンデッドは元人間がいると聞くが……

ここまで姿を人間に戻せるのは珍しい。


黒髪に黒い目、そしてメガネをかけた細身で中性的な顔立ちの女が立っていた。

服装もボロボロのローブから研究職のような服へと変わり、スレンダーな全身を覆っている。


「我こそは最強の使い魔を生み出したアンデッド。歴史に名を残す大英雄、魔法の王! 略して魔王リッチ・ホワイトとは我の事だ!」

(生み出した使い魔に裏切られ、封印された我々の創造主リッチ様でございます)

「……あの、そういう話は威厳が無くなるから今は言わないでくれるかな?」


リッチ・ホワイトとかいう女がこっそりメイドに耳打ちする。


聞こえてるぞ。あと安心しろ。

威厳とかハナっからねえよ、そんなもん。


「ククク…… 驚き声も出ないか、人間よ。貴様らの伝説に名高い我の……」

「あのー、リッチさん。すいませんが歴史にはリッチさんの名前残ってませんよ?」

「え?」


確かに聞いた事ないな。

今の魔王は四代目だが歴代の魔王にリッチホワイトなんていない。


「えっと…… 魔王ファウストという方はご存知ですか?」

「ファウスト? あれは我…… あ、めんどいから呼び方戻すね。僕が作った最強のうちの子。僕を封印した子だよ。なぜ魔王?」

「千年前のお前んちの事情なんて知るか」


いきなりフレンドリーな奴だな。

エリーがどんどん質問という名の追撃を仕掛ける。


「ミッドランド山脈に大穴を開けたというのは?」

「もちろん僕さ! ファウストに命じてやらせたんだ! 街を襲う黒龍がいたからね!」

「えっと、グラス地方の砂漠化は?」

「グラス地方……? ああ、犯罪者の街グラス周辺の事かな! 多分それも僕だ! ファウストに任せたら、ちょっとやりすぎてね」


全部魔王ファウストのチカラじゃねーか。


「あの…… リッチさんがファウストを使わずに一人でやられた事はなにかありますか?」

「おいおい、伝説の使い魔であるファウストを作って、異界の神々と契約し、戦う方法である召喚魔法を開発したのは僕だよ?」


本当なら凄いな。

だが歴史上では魔王ファウストが召喚魔法を発明した事になっていたはずだ。


アタシはエリーと目で会話をする。


――こいつ、本当か?

――もういくつか質問してみましょう。


「えっと、他には?」

「僕のスキルと創造魔法を組み合わせて、一代限りだった使い魔を『魔族』として繁殖できるようにしたよ! 新たな種の創造は間違いなく偉業だろう! 彼らは今元気かい?」


そいつ等なら元気に人類の敵や魔王をやってるよ。

つか歴史の謎と言われてた魔族誕生の原因ってお前かよ。


「あの…… 魔族は人間など魔力持つ者の血肉を糧にすると聞きますが」

「え? そうなの? 僕がスキル混ぜた血とか肉を与えてたらそれで良かったと思うんだけど。普通に食べ物あげてもうまく行かなくてさー」


うまく行かなくてさー、じゃねえよ。

むしろお前があげた餌のせいで血肉求めてんじゃねえのか?

ペットの面倒くらい最期まで見ろ。


「なぜそんな欠陥生物作ってんだよ」

「一人でさびしかったからかな。僕は友達が少なかったから」


悲しくなる回答はやめろ。

お前も孤独だったか。


「まあいいさ! 生身の人間と話したのは十数年…… 千と十数年ぶりだからね! どうだい? 僕の凄さが分かっただろう?」

「凄いは凄いがな……」

「言いにくいんですが、リッチさんの功績…… ほとんど魔王ファウストがやった事になってますね」

「へっ?」

「おそらくですが、歴史の流れで混同されたのと、魔王ファウストの悪行が凄すぎて忘れ去られたのか、と」


エリーの意見に完全に同意だ。

歴史上、お前は何もしていない。

ただのモブキャラだ。


リッチはショックを受けたのかへたりこんでしまう。


「そんな…… 僕頑張ったのに」

「まあ、そんなに腐るなよ。生きてりゃいい事あるぜ」

「ネクロマンサーの秘術で腐らないしもう肉体的にはほとんど死んでるんだよね、僕」

「社会的にも死んでるから安心しろ」

「そこは慰めてくれよお!」


面倒くさい奴だ。


「はぁ、頑張ったら友達たくさんできるって思ってたのにな……」

「友達なんて自然に出来るだろ」


森でオークに襲われてる女の子を助けるとかすればな。

スキルで女の子になれば簡単に出来たぞ?

あと、友達は量じゃない、質だ。

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