第17話 受諾

二週間後。

アタシ達の宿屋に手紙が届く。

どうやら交渉がまとまったようだ。


依頼は館の裏山に出てくる魔物の定期駆除。

報酬は山と館の購入権と税金の減額。

屋敷の価格は二十年での分割払い可能、ただし十札で二枚。

税金は五年に一回、ユニコーンの角相当。

詳細はギルドにて、か。


いや値上がりしてんぞコレ。



「来たか。まあ座れ」


ギルドに到着したアタシ達はおやっさんに勧められるまま席につく。


「で? どういう事だよこれ? 値上がりしてんじゃねーか」

「それはどうにもならなかった。お貴族様特有のメンツというものがあるそうだ」


話を聞く限り、土地をタダであげるという事は国との関係上、事実上不可能であるということだ。

国からスパイだのなんだの色んな嫌疑をかけられ、最悪領地をまるまる国に没収される危険性もあるとか。


「だが少し割高だが分割で、かつ支払ってしまえばもう土地はお前のものだ。税金も最低限に近い」


確かに税金は安い。

功績なしで土地を手に入れると言うのもメリットだ。

しかし十札二枚、金貨にして二千枚相当。

二十年分割払いでも年金貨百枚。

一般人一年の稼ぎの二十倍か。


「エリー、行けるか?」

「大丈夫だと思いますよ」

「ヨシ、おやっさん! 受けるぜ!!」


困った時のエリー頼みだ。

エリーが行けると言うならイける。

アタシは覚悟を決めた。


…もし失敗したら二人で逃げような。

なに、スキルを使えば他人になれるさ。


「おう、よく言った。ギルドマスターが少し話がしたいそうだ。呼んでくるから待ってろ」


ギルドマスターだ?

別に偉いさんとは話したくねえんだ。

さっさと帰らせろ。


しばらくすると痩せたガリガリの男が顔を出してきた。

ギョロギョロと血走った目が印象深いな。

おやっさんは… 来ねえな。コイツだけか。


「ど、どうもマリー様、エリー様。おひ… はじめまして。ギルドマスターのストックです」

「不健康そうな顔だな? 飯食ってるか? なんか作ってやろうか?」


パンにバター塗るくらいはできるぜ。


「おお…流石のお気遣い感服いたします。心苦しいのですが忙しくてそちらは次回に… 本件につきましてよろしくお願いします」

「ああ、任せろ」


やけに下手だなコイツ。

偉い奴ってのは人間ができてんのかね。

まあアタシの魅力にでもやられたならしょうがないか。


ギルマスが息荒く差し出してきた手に握手を返す。

…おい、握手終わったんだから手、離せ。


「ふひ… エ、『エリーマリー』ファンクラブ、会員No6のストックです。お目にかかれて光栄です」


あ、マジモンだった。

つかお前かよ、地下でギルド機密漏らしてたの。


しょうがねぇな。

アタシはコイツらにとっての癒やし枠だからな。

お礼にゲンコツでも落としとくか。


「あ、ギルドマスターさんも会員でしたか」


エリーにも聞こえていたか。

一応地下の事は省いて、ファンクラブの話だけはしておいたがどうなるかな。


もしもギルドマスターがエリーを怖がらせるならぶっ飛ばさざるをえないが…


「マリーから話は伺っています。私達のためにご尽力いただきありがとうございます」

「いえ! こちらこそ! 今回はこの程度までしか力を及ぼせず申し訳ありません!!」


「ささやかですが手作りクッキーを差し上げますね。皆さんで食べて下さい」


エリー、やるな。

ギルドマスターが歓喜で震えている。


その後何度もお礼を行ってギルドマスターが去っていく。

本当にアタシ達に会いに来ただけかよ。


…しまった。

ゲンコツ落とし忘れた。


「ファンの皆さんにあったらお菓子を配ろうと思って持っていたんです」


そう言うといくつかの包み紙を出して見せてくれる。

お菓子で手なづけるとは子供扱いだな。

そんな子供騙しが通じない奴もいるから気をつけるんだぞ。


あとそのクッキーアタシにもくれ。




アタシはクッキーを食べながらエリーと共に館へと向かう。

既に準備万端だ。


そこそこでかいリュックに食糧をガッツリ詰めて歩いていく。

前に賑わっていた館の前には誰もいない。


おやっさん曰く、金額が高くなったから誰も手をつけていないそうだ。


冒険者の皆大丈夫か?

契約的には最初の契約が詐欺だからな。

お前らが悪い奴らにボッタクられないか心配だぜ。


「よし、いくぞ」

「マリー、クッキーのカスが口についてますよ」


ハンカチで口元を拭いてくれるエリー。

ありがとな。

…このハンカチ可愛いな、コリンとこで買ったやつか?


「到着しましたね」

「ああ… 人がいねえと不気味だな」


仕切り直して門の前まで来た。

門に近づくお、ヌルい風が吹く。

…なぜか背筋がゾクリとするな。


手もかけていないのに勝手に門が開く。


「わ、わざわざ開けてくれるとは気が利いてるじゃねえか。」


エリーもやはり不気味な雰囲気に感じるものがあるんだろうな。

お互いに肩を寄せ合って進む。


門が開くと庭園が広がっている。

…館まで意外と距離があるな。


庭園の花は人がいないとは思えないほど丁寧に整えられている。

綺麗な花が咲いているな。少し雑草が生えているけど。


曇り空なのが不気味さに拍車をかけている。

日が出ていれば綺麗な庭園を散策している気になるんだろうな。


「いい事を思いつきました! ちょっと良いですか?」


そう言うと花壇の方へ寄っていき、綺麗な花を何本か摘んでいく。

なにかを作っているようだな。


「ん?なんだ…?」

「はい、似合いますよ」


そう言うとフードをはずして何かを頭にかけてくれる。


手鏡で見せてもらうと、綺麗な花の輪っかが頭に乗っかっていた。


「花冠です」


おお! 子供の頃に女の子が作ってるの見たな!


「すげーっ、これどうやって作るんだ?」

「これはですね、花をこう重ねて、くるっと巻いて…」


エリーの言うとおりにやってみる。

…エリーのと比べると少し形が歪だな。


「んー、微妙」

「慣れれば簡単ですよ」

「よしっ! もう一回だ」


その後何回か作り直して満足行くものができた。

アタシはそれをエリーの頭にかける。


「アタシからプレゼントだ。いつもありがとな」

「マリー… ありがとうございます」


はにかむエリーは可愛いな。

…写真家はこういう時に写真を撮ってアタシに寄越すべきだろ。


「さ、満足行くものも作れたしお茶でもするか」

「ふふっ、まだ任務中ですよ」


そう言えばそうだった。


しょうがないので館の中に入る。

また触ってもいないのに勝手に扉が開くが、なんか花冠のお陰でどうでもいい。

笑顔全開でお化け屋敷に入る。


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