第16話 討伐依頼
「うるせぇ。そんな事より状況を説明してくれ。」
「あぁ? 説明聞いて来たわけじゃ…… ポン子から聞くより懸命な判断だな、スマン」
おいポン子。
上司の信用も無くなってるぞ。
「……三年くらい前のお化け屋敷案件か?」
「マリーは察しが良くて助かるぜ。エリーの嬢ちゃんにも説明済みか?」
「いやまだだ、いい加減な事言って混乱させる訳にはいかねーからな」
「じゃあ俺から説明してやる、エリーの嬢ちゃん。三年位前までこのギルドには討伐可能な依頼が一つあった。」
お化け屋敷のお化け討伐。
物理攻撃が効かず、魔法もすり抜けるお化けが驚かしてくる。
命には関わりがないが、気がつけば持ち物を取られ、いつの間にか気絶して外に放り出されるという案件だ。
なぜか二週間くらいは目が覚めないらしい。
最初はE級、気がつけばB級まで難易度がはね上がり、最終的に解決不可能な特殊案件としてここのギルドから外された案件だ。
「……っつう訳で、ここのギルドからは受けずに王都の方から冒険者派遣して解決するはずだったんだがな、領主が金をケチり過ぎて誰も来ねえ。で、そのまま放置されてた案件だな」
当時で銀貨一枚から始まって最終的に金貨三枚だったからな。
B級の相場なんて金貨十枚からだ。
ケチにも程度ってモンがある。
「なんで今更形を変えて案件復活させたんだ?」
「さあな。領主としても持ち腐れって判断したんじゃねえか?」
「それについては私から説明しましょう」
ふと声のする方を見るとダンディーな片眼鏡の老紳士が立っていた。
ピンと伸びた背に両手の白い布手袋がイかしてる。
「申し遅れました。私、ロマと申します。此度の事態が起きた事を踏まえ、領主であるドゥーケットの代わりに説明のために参りました」
「って事は領主の使いか? 何故こんな事になったか教えて貰おうか」
おやっさんが睨みを効かすが、動じた様子もない。
この執事、手強いな。
「はい、時は二十五年前に遡ります――」
執事の爺さんの長い自分語りが始まった。
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かつてこの館があった場所には、遺跡がありました。
由来は古く何に使われていたか分からない遺跡です。
ただ伝承として、その遺跡では何かを封印しているという話だけがありました。
当時の領主様の決定により、遺跡を取り壊し館を建てるという話が決まったのです。
それから5年ほどして、少しずつおかしなことが起こり始めました。
カタカタと部屋の音が鳴ったり、人もいないのに影がすっ、と通るなど不可解な事象が起きたのです。
次に物語に出てくるような顔なしのお化けが現れるという報告が相次ぎました。
半透明の女の子が宙を舞い、家がいつのまにか綺麗になっていたり、洗濯物が片付けられて干されていたり、メイドが盗み食いしていたりと言った怪異が現れたのです。
とはいえ最初の頃はたいしたことがなく、むしろ益になっておりましたので放置しておりました。
領主様の代が変わった頃でしょうか。
今まではおとなしく掃除や洗濯をしていたお化けたちが急に働かなくなり、暴れ、物を壊したり盗んだりするようになったのです。
それからどんどんお化けたちの行動は悪化していき、手に負えなくなって冒険者ギルドへ持ち込んだのです。
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ロマの爺さんの話が終わった。
色々と突っ込みどころはあるがどこからツッコめばいいんだ。
とりあえず盗み食いは怪異じゃないだろ。
「で、どんな封印が施されてたんだ?」
「それが…… 館を建てた際に全部破棄してしまいまして、今残っている資料だけでも千年前、最初の魔王が活躍していた頃の物ではないかと推測されます」
最初の魔王、か。
初代魔王ファウスト。
歴代魔王達の中でも最強のネクロマンサーにして魔族の始祖と呼ばれている。
自らが生み出した魔族に反乱を起こされ、はるか北の大地で討ち取られるまで世界を恐怖で陥れたという。
「……その頃、ここら一帯は魔王領地のはずだ」
「私も調べて存じております。つまりはそう言う事でしょうな」
おやっさんから意外な話が出てきた。
マジかよ。
お化け達も魔王絡みじゃないのかこれ。
「それこそ王都行きの案件だぞ。だが死者どころか、けが人すら出ていない。確証もない状態で動いてくれるとは……」
「更に悪いことに、昨年より山の方でモンスターが繁殖している事が分かりました。ファントムバタフライ、ユニコーン、ドリアードと言った幻獣系モンスターが確認されております」
モンスターは放置すると増え続け人里へ溢れ出る。
C級からE級のモンスターとかこんな街じゃ対処できる人材も限られるだろうに。
王都の奴らはB級以上じゃないと腰が重い。
対処するにはちと格落ちだな。
「つまり、無敵のお化け達が襲ってくる館に住んで、魔物を定期的に駆除し続けろと?」
「端的に言えばそうなりますな」
地雷じゃねえか。
つかもうお金貰うレベルだろこんな館。
金貨百枚相当払うとか高すぎる。
ゴミを売るとか人間じゃねえ。
執事が弁解するように説明を続けてくる。
「これは好機です。上手く運営が周ればギルドは魔物素材で利益を得て、領主もお金を貰い、依頼をこなした人は館と働き口を格安で買えて幸せになれます。税金は…… 素材売上の半分程度でしょうか」
そう言って渡してきた見積もりを見る。
あまりの内容におやっさんはドン引きしていた。
……アタシもドン引きだ。
なんで一匹狩れば半年は遊んで暮らせるレア物のユニコーンが月一匹狩れる計算なんだよ。
これで食っていける冒険者なんかいねえよ。
そうでなくても売上の半分も取られるとかボッタクリか。
「これは冒険者にとってもはや実質無料と言っても過言では無いのでしょうか」
なんかほざいてやがる。
爺ボケてんのか?
タダ同然なのはお前の館だ。
「エリー、どうやら今回は……」
「いえ、やりましょう! これは『当たり』です」
マジかエリー。これ地雷だぞ。
本当にやるのか?
……目を見るが決意は硬そうだな。
しょうがない。アタシも覚悟を決めるぜ。
一緒に地獄に落ちよう。
「まて、ギルドとしてもこんなめちゃくちゃな案件見過ごす訳にはいかん。請けるにしてもギルドマスターを踏まえて領主と交渉してからにしろ」
「では、ギルドマスターが来られるように領主様にはお話を通しておきます」
結局ギルド預かりになった。
一応、最優先権としてアタシ達に挑戦権が与えられるらしい。
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