第15話 お化け屋敷
悪魔との戦いから三ヶ月後。
Eランクに昇格したアタシ達は薬草採取や、雑魚い魔物を殺戮して平穏な毎日を暮らしていた。
Dランクのノルマもしばらくすれば達成できそうだ。
「なあエリー? アタシ達の家を買わないか?」
「急ですね。いきなりどうしたんですか?」
「いや、前に話したストーカー達がいたろ? あいつらボコって作りなおしたファンクラブからのアガリ…… じゃなかった売上が結構いい額でな」
今も宿屋を利用しているが、女の子二人は荷物が多い。
万が一も考えて、エリーが男に変化したときの服も用意しておきたいが流石に手狭だ。
ストーカー共がこっそり撮影に来るとも限らねえしな。
金があるうちに秘密が守れる場所の手配をしておきたい。
金貨数十枚くらいならなんとか都合できそうだ
「でしたら、丁度良い家がありますよ!」
そう言うとギルドの依頼票を持ち出してくる。どうやら特殊依頼として複数貼ってあったうちの一枚らしい。
「ここ見て下さい! この価格! なんと! 価格が壱札にしてたったの一枚なんです!」
壱札……か。
貴族ではよく使われる単位だな。
金貨百枚で壱札。
あとは桁上がりするごとに十札、百札と単位が変わって言ったはずだ。
札の単位に応じて偽造防止のための付与魔法が強化されているとか。
銅貨が一枚でパン一つ買える。
二十枚で銀貨一枚、更に銀貨二十枚で金貨一枚だ。
平民がひと月銀貨百枚程度で生活できる。
それに比べて札は、一気に金貨百枚からというあたり、平民はお呼びではない。
「場所は少し離れてますが、近くの山もオマケに一つ付きでこの価格はお安いですよ!」
「山付き? んな馬鹿な……うわマジだ」
場所は街から出て南の森付近の小さな山と近くの館だ。
推奨ランクなし、依頼者は領主。
依頼内容は『山と館を統治すること』の一文だけ。
報酬が館と山の割引。
ただし、一代限りの領地持ちとして所有している限り相応の税を払うこと。
ご丁寧に領主のサインまで入っている。
普通、土地は貴族の所有で人に売るような事はない。
それが金貨百枚程度なら、破格だ。
捨て値と言ってもいい。
そうまでして手放したい事情があるのか
なになに…… 一部お伝え事項あり?
……事故物件じゃねーかこれ?
「大丈夫です。これは良いものですよ」
「いや、良いといえばいいんだろうが……」
最近分かってきたことだが、エリーのスキル『絶対運』はすべての運を底上げしているらしい。
幸運も不運も、強運や悪運だっておそらくだが強化されている。
つまり、エリーのそばにいる限り波乱万丈な人生確定って訳だ。
まあいい、望むところだ。
「よっしゃ、じゃあギルドで詳細を聞きにいってみるか」
ギルドに来たがおやっさんがいない。
代わりにポン子がいた。
つか、ポン子しかいない。
あ、これだめなやつだ。
帰ろう。
「あれ~? マリーさんじゃないですか。なんでいきなり U ターンしてるんですか?」
くそ、見つかったか。
「あー、ちょっと聞きたい事があるんだが…… 分からなければいいぞ。また来るからな。そうだよな。わからないよな、じゃあな」
「まだ何も言ってないじゃないですか」
その後もポン子がしつこく食い下がるので、しぶしぶアタシは依頼内容を聞く事にした。
「この案件ですか。やめたほうがいいですよ。B級冒険者パーティー『オーガキラー』も挑戦しましたが、返り討ちにあってしまっています」
「は? B級だぞ?」
そのクラスの冒険者でも駄目なのか。
実質 Aランク以上じゃねえのか?
この街に居ねえぞそんなエリート。
「この物件ですね、出るんですよ」
「何が出るんだ? 変態か?」
「違います! お化けですよお化け!」
似たようなもんだろ。
ていうか、あれ?
この物件もしかしてあれか。
三年ぐらい前までずっとギルドに貼ってあった、お化け退治の依頼か?
外れ依頼だっのたのは覚えてるがどんな案件だったかな……
「この案件が出てから挑戦する新人が絶えないせいで、上司や先輩が対応のために外出してしまってるんですよ! お陰で仕事が滞って滞って……」
だからおやっさんがいないんだな。
ポン子に受付を任せなければいけないほどか。
「ちなみにどんな幽霊でしょうか」
エリーが不安そうに話しかけてくる。
怖いものが苦手なのだろうか。
私も悪魔くらいしか会ったことがないけど守ってやるから安心しろ。
「幽霊じゃないです。お化けです。剣も魔法も通じないお化けが出てきて、最終的に倒れて外に放り出されるんです」
「お化け…… ですか……」
「とはいえ誰も死んではいませんので、一攫千金を夢見て皆さん挑戦されてまして」
なんで受けるんだよ。
皆最終的に金払うの忘れてないか?
そんな金どっから…… 違うな。
問題を解決した後に、誰かに割引の権利ごと売りつけようっていう魂胆か。
てことは転売目的か?
いやまさかな。
そこまで馬鹿じゃないだろ。
よその国とかに売っぱらったら国がキレて軍隊出すぞ。
「『ウザ絡み』さんなんかはココの館を売った金で遊んで暮らすぜーとか言ってたのにすぐやられて帰ってきました」
あっ、ここ予想以上のアホだらけだったわ。
「自業自得だ。冒険者共はそのままお化けの仲間になっちまった方がいいんじゃねえのか」
「そうは言ってもですね、ギルドとしては受けた人には紹介せざるを得ないんですよ。とりあえず受けるなら館の方に行って上司と交渉して下さい」
依頼一つ受けるだけでたらい回しかよ。
ため息がでるな。
アタシ達は、南の門から出て館へと向かうことにした。
「おや、君たちは……」
「おう、あの時はありがとな、兄ちゃん!」
南の門番はマリーとして初めて町に来た時、服をくれた兄ちゃんだった。
兄ちゃんに服代として銀貨を何枚か渡す。
「冒険者になったんだね。良かった。廃棄用の服だったしお金はいらないよ」
「良いって事よ。気にすんな」
「なんならそのまま服を返してくれても良いんだよ?」
うだうだ言ってる門番にアタシは無理矢理金を握らせる。
よし、義理は果たしたぞ。
これで貸し借りなしだ。
なぜか名残惜しい顔をしてるが無視だ無視。
あと性的な目で見るんじゃねーぞ。
潰すからな。ナニとはいわんが。
門から出たアタシ達は館へと向かう。
徒歩で数時間といったところだろうか。
体力は問題ないが馬が欲しくなる距離だ。
「やっぱり馬欲しくなるなぁ」
「私も馬番をしていた時、よく馬が脱走していたので乗りこなせるようになりました」
へぇ、エリーも乗れるのか。
機会があれば後ろに乗せていこうかと思ったが必要なさそうだ。
「なら落ち着いたら馬を買うか。でも二頭だと維持費がかかるな」
「では、一頭の馬に二人で乗りましょう」
なるほど。
出かけるときは大体エリーと一緒だし良いかもな。
くだらない話をしてると山の麓にある館が見えてきた。
山もそれほど大きくない。
いや?館がデカイのか?
……まあ館と山、どちらも合わせて三日あれば一通りめぼしい場所は見て回れそうだ。
館の近くには仮設キャンプがある。
アタシ達の家でキャンプするとはふてぇ奴らだ。
「おう、マリーじゃねぇか」
「おやっさんか。やっぱりここにいたのか」
「たくさんの冒険者がやられたこんな場所に、お手て繋いで来るとはいい度胸じゃねーか」
うるせえ。
緩く小指絡めてただけだろうが。
セーフだよセーフ。
……エリーが恥ずかしがって離しちまったじゃねぇか。股間蹴るぞコラ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます