第11話 戦闘

盗賊団七人とババアのうち、こっちに向って来たのは五人。前の草原からは二人、後ろの森から三人だ。

お頭らしき男と先ほど防御のスキルを使った二人だけは動いていない。

おそらくババアを守るためだろう。


だがお前、いくぞお前らぁ!とか叫んでいて高みの見物決め込むのはどうなんだ。


まあいい。いまはさっさとババアの呪文を念仏にすることだ。

しかし、高みの見物を決め込んだ二人は片手間で相手するにはきびしそうだ。

まずは雑魚を散らさねえとな。


山賊の頭が弓を放ってくるがすべてコリンのスキルに弾かれていく。

いいスキルだな。

どうやら目の前の雑魚に集中できそうだ。


「〈守護〉!」


アタシとイケメンに補助魔法がかかる。

エリーのやつ、こっそり詠唱をしていたか。ナイスだ。


「【……を告げるは風の息吹、無空の刃】〈トルネードカッター〉」


エリーの詠唱から少し遅れて来たのはコリンの魔法だ。

こちらはもっと前から唱えていたのだろう。

魔法としての完成度も威力もエリーより上だ。

風の刃が螺旋状にうねり、盗賊たちに襲い掛かる。


かかってきた四人のうち、森にいた三人が一瞬で吹き飛ばされる。

しかもそれだけではない。

勢いは止まらず、そのまま草原の二人にも風の刃が襲いかかった。


二人は倒される事こそ無かったが、全身に傷を負う。


……今がチャンスだ。

アタシはより怯んでいる方に襲いかかる。


怯んだ男の喉を狙った一撃は、いつの間にか持っていた半透明の盾に防がれていた。

アタシの剣とコイツの盾、両方が激しくぶつかり音が響く。


「……へぇ、やるじゃん」


男がヘラヘラと笑いながら言ってくる。

この野郎、カマかけてやがったのか!?

しかもアタシの一撃を防ぎやがった。

それにこの盾……スキル持ちか!


「ほらよ、お返し」

「クソっ!」


そのままスキルの盾でぶん殴ってくる。

嫌な予感がする。

とりあえず、力任せにぶつかる事はしないようにしよう。

アタシは剣で身を守りつつ後ろに跳ぶ。


「ッ!」


予想していたより遥かに強力な一撃が襲う。

……このスキル、防御だけじゃないな。

エリーの守護のお陰でダメージはないが、厄介な相手だ。

イケメンの野郎は……あいつも手こずっている。

コリンも風魔法を唱えてイケメンの支援をしているが、それでやっと優勢ってとこか。

支援は期待できそうにないな。


「【……その身は癒やし癒やされん】〈リジェネーション〉!」


エリーから回復魔法が飛んでくる。

じわじわ体力回復を助けてくれる魔法だな、ありがたい。


「ほらほら、よそ見はいけない……よっ!」


危うくアタシの片手が切られそうになる。


クソっ、コイツめ。

油断する暇すら与えてくれねえか。

……強いな。


「悪いが好みの顔じゃねえんだ。もっとマトモな面して出直しな」

「最近の女の子は辛口だねぇ……。まあいいさ。跨ってしまえば大人しくなる」


クソが!

アタシを欲望のはけ口として見るんじゃねぇ!!


アタシは怒りに任せて連続で攻撃を仕掛ける。

上段から振り下ろし、袈裟懸け、突き……

それらを組み合わせて連続で攻撃するも、あの盾と剣で上手く防がれた。


「そろそろ良いか? ホラよ!」

「ちぃっ!」


アタシは全力で横に飛ぶ。

盾から出た衝撃波は草原の大地をえぐり取った。

先ほどを上回る威力だ。

アタシの攻撃すべて足したのと同じくらい威力あるんじゃねえか?


……もしかして。


軽く暴れて少し冷静になったアタシは、あえて攻撃せずに様子を見る。


「どうしたのさ、早く来なよ?」

「テメーこそ、さっきみたいな衝撃波を使ってみろよ」

「…………」


ヘラヘラ笑っていた男の顔が、少し歪んだ。


「やっぱりな。使えないんだろ? 少なくとも一撃を受けないと」


男はなにも答えない。

一瞬苦い顔をしたがすぐにもとの表情に戻る。


「アンタのスキル……アタシの攻撃を貯めて返すんだろ?」

「当ったりー、相手が調子に乗ってきたらズドン、さ。魔法を使う暇は与えないぜ?」


手札がバレて開き直ったか。


そう言うと盾を再び展開してくる。

魔法を使う暇は、か。

……なるほどね。



「ほらほら、早くしないとバアさんの詠唱が完了しちゃうぜー?」

「そうだな、もう出し惜しみはしねえ。アタシも隠し玉を見せてやるよ」

「は? ハッタリもいい加減に……」


「ファイアローズ!」


一応普通の魔法のフリをするために、今更だが名前をつける。


アタシは炎を鞭のようにしならせて放つと、盾を持つ方の腕に巻きつけた。

予想通り、アタシの“魔法”は盾を貫通する。

こいつ、返せるのは物理攻撃限定だな。


「ば、バカなっ! 詠唱短縮!? いやスキルか!?」


どんどん身体をめがけて伸びていく炎を振り払おうと、男は暴れる。


「くそっ!」

「遅えよ」


炎に巻かれながらも盾を構えなおす男。

心がけは立派だが、タネが割れた手品はお終いだ。


この油断を誘う方法はお前らの飼い主の首獲るまでとっておきたかったんだけどな。


アタシはスキルで出来た盾の縁を優しく掴むと、回り込むようにして剣で斬りつける。

狙いは足だ。


深く足を斬りつけてやると、男はバランスを崩して倒れた。


同時に盾を持っていた手から盾が消えてしまう。

炭化した手では維持できなかったか。


アタシはそのまま男の上に乗りかかり、動きを封じた。


「おいおい、こんな美人を上に跨がらせるとか男冥利に尽きるなあ?」

「この野郎!」


男は何とか抜け出そうとするが、残念だったな。片手片足ならアタシでも抑え込める。

これから講義の時間だぜ?


「跨ったら大人しくなる? 違うだろ?」

「た、助けてくれ!!!」


アタシは大きく剣を掲げると、ゆっくりと喉へ目がけておろしていく。

男の目が恐怖に見開かれる。


「な、なあ、悪かった。ここは一つ大人になったつもりで……」

「跨がったくらいじゃ暴れるしうるさいし、全然大人しくないよなあ?」

「ひ、ひいいいいっ!!!!」


そのままゆっくりと下ろした刃が喉に突き刺さると、男は何度かビクンと跳ねて動かなくなった。

ウザったい返り血を手で拭う。


「イかせてやったら大人しくなるんだ、そうだろ?」

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