第10話 盗賊
ここドデの町は最初の街ファスに比べてそこまでは発展していない。
だがギルドはあるので、そこで荷物を下ろす。
「はい、任務達成です。『幌馬車』さん」
「ありがと、かえりに何か運ぶ物はあるかしら?」
「でしたらモイ村の農作物を運んで頂きたいのですが、積載量は?」
「そうねぇ……」
「いこうぜ、エリー」
面倒臭い話はコリンに任せてアタシ達はさっさと町を見て回る。気分は観光だ。
いくつか店を回ったが良いものがない。
アクセサリーショップなども見て回るがコリンから直買いした方が良さそうだ。
「なかなかいいのがありませんねぇ」
「あとは武具屋と魔法店くらいか」
地図を見て、店へ向かうと、看板には『武具&魔法店 フォルクス』と書かれている
なんというか、店がボロい。
中には、ヒゲもジャのおっさんが座っている。アタシ達が店に入るとギロリと睨みつけてきた。
「魔法なら模写は銀貨一枚、買い取りは追加で銀貨もう一枚だ」
魔法は呪文を教えてもらい、ソレを自分が使えるようにカスタマイズしていく。
大体の魔法使いは基礎の呪文を忘れてしまうので、兼業とはいえこんなビジネスがあるというわけだ。
「こっちは魔法だがアタシは武器を買いに来たんだ。背中の武器が目に入らねえか?」
「……ちっ、得物はなんだ?」
エリーは得意分野の魔法を探してもらい、アタシは店主と交渉する。
「今までは剣を使ってたがどうしても力不足でな。短剣を試してみたい」
「嬢ちゃんの体格だとそれが妥当だな」
そういうとおっさんは何本か短剣を並べてくる。軽く素振りをしてみるが使い勝手は悪くなさそうだ。
……だがこの店、武器の品質が良くない。
「おっさん、とりあえず今回は保留だ。この剣のメンテを頼む」
「ああ? こりゃ買い替えたほうが良いんじゃねーか?」
中古品とはいえ、オオカミ切ったくらいでそこまで悪くなるワケねーだろうが。
……ちっ、一応任務中だから暴れるのはよしてやる。
「いらねーよ。軽く研ぐだけでいい」
「あいよ、銀貨一枚と銅貨五枚な」
「おう、明日朝一で取りに来るぜ。」
「私はこの魔法とこの魔法を買い取りでお願いします」
エリーはいくつかの呪文を買っている。
補助や回復系なら半月もあればそれなりに使えるまでできるとの事だ。
これで、本日の買い物は終了となる。
『幌馬車』のメンバーと食事だ。
とはいえ、主に話すのはコリンとイケメンだ。
アビドルとかいう兄ちゃんは影が薄い。
顔に特徴がなさすぎて覚えにくい顔だ。
ワクツのオッサンはほとんど喋らず無口だ。
……コイツラはこいつ等で別の話をしている。
行商の話だな。
俺は詳しく入り込めないしほっとこう。
「ねえもし良かったら二人共ウチに来ない?」
コリンが誘ってくる。
イケメンや他の二人も驚く様子はない。
すでに話はしているらしい。
まさかアタシが誘われるなんてな。
ふとエリーに目をやると視線がぶつかった。
……気持ちは同じか。
「……遠慮しとくぜ」
「アタシもエリーと一緒に冒険をしたいので……」
アタシはスキルを見せたくないからな。
遠慮するさ。
「残念だわ。マリーちゃん、なにか隠し玉がある気がするししょうがないかー」
「残念、今回の旅が終わってなにかあればまた一緒に仕事をしよう!」
「その時はアタシ達はCランクだな」
こうして、和やかな一日が過ぎていった。
翌日。
別の荷物を馬車に積み込むとアタシ達は帰路へと移る。
帰りの馬車道。
ちょうどオオカミと戦ったところに差し掛かったあたりだろうか。
「なあ、エリーが買った魔法ってどんな魔法だったんだ?」
「あ、それなら実際に使ってみますね。【牙を持つものは獣、剣を持つものは人、我が友は青、我が敵は赤。色を
長ったるい詠唱を唱えると、馬車の床面に光の粒が水滴のように落ち、ゆっくりと波紋を広げていく。
波紋の中心には青い点が四つ。
「この青い点が私達ですね。あとは攻撃する可能性がある相手を赤で……え?」
波紋がゆっくりと広がるに連れて、周囲に赤い点が表示される。
その数は一つ、二つと増えていき……計八つ。
同時にイケメンが声を張り上げる。
「まずい、囲まれてるぞ!」
その叫び声と共に、草原と森の両方から矢が降ってきた。
だが、矢は刺さることなく、バラバラに向きを変えると明後日の方へ飛んでいく。
馬車には一本も刺さっていない。
「残念ながら私のスキルで守られてる馬車に矢なんて効かないわよ」
これがコリンのスキルか。
面白いな、どういったスキルだろうか。
馬車が囲いを抜けようと加速する。
その時、馬車が大きく揺れ、傾いた状態で動きが止まった。
どうやら穴にハマったらしい。
それと同時に声がかけられる。
「はっはっはぁ! ここであったが百年目だなぁ『幌馬車』さんよ」
外を眺めると、汚い風貌の男が声を荒げていた。
いや他の男共も小汚ねえな。
……盗賊か。
「知り合いか?」
「アイツは……。三ヶ月ほど前に『幌馬車』が襲われた時に返り討ちにした山賊ね。……まだこんなに戦力が残っていたなんて」
一瞬エリー絡みかと思ったが違うようだ。
『幌馬車』絡みか。
中途半端に逃すからこうなるんだ、徹底して潰せ。
「あの時は良くもやってくれたなあ? お礼をしに来たぜぇ?」
「アタシ達は無関係みたいだから先に帰ってもいいか?」
「駄目に決まってんだろお!」
敵と味方から冷たい視線を受ける。
言うのはタダなんだから、ちょっと言ってみただけじゃないか。
「マリーちゃん、大丈夫さ。斥候の二人がそれぞれの街に衛兵を呼びに向かってる」
「無口と薄味のにーちゃん達を見ないと思ったらそういう訳か」
「アビドルとワクツだよ。名前くらい覚えてあげてよ……」
イケメンがなにを勘違いしたのかなだめてくる。
別にビビってはいねえよ、戦うのが面倒だから楽をしたいだけだ。
辺りを見回してみると影の薄いにーちゃんとオッサンの姿はすでにない。
ここは街からそれほど離れていない。
長期戦になればアタシ達の勝ちだ。
「彼らは斥候や索敵も兼ねてるんだけど、こういう時のために斥候をさせているんだ。彼らが街に行って衛兵を連れて帰ってくるまでの辛抱だ」
用心深い判断だな、流石イケメンだ。
だが確かにこいつら盗賊団の包囲網を抜けて、街に伝達する事ができるのはいい。
もしかして、あの影の薄さはスキルによるものだろうか。
「ああ、お前らの斥候が俺達の包囲網を抜けるのは予報通りよ!」
「ボス、そこは予定調和ですぜ」
「うっせぇ! てなわけで、先生!お願いしやす!!」
奥から腰の曲がった婆さんが出てきた。
キレイな身なりをしており、姿格好が盗賊らしくない。
手に持っているのは……魔石か?
「フェフェフェ、すまんねぇガキども。アタシはサモって呼ばれてるしがない“雇われ”さ」
「バーさん、寝返る気ない? 金はコイツら『幌馬車』持ちだ」
「ちょっと! 何言ってるの!?」
「フェ!? ……ッフェッフェ……。面白い嬢ちゃんだねえ。残念だけどアタシ等は信用が第一なのさ」
ちっ、傭兵の類なら金で寝返るかと思ったんだがな。お堅い奴だ。
「……まあ、もし嬢ちゃんがアタシの召喚魔法で生きてたら安く雇われてやるさね」
召喚魔法。
そのセリフを聞いてアタシとイケメン、コリンの顔色が変わる。
このババア、召喚術師だと!?
ヤバい! 化物を呼ばれたら勝ち目がない!
あの魔石も魔力を補うための触媒か!
イケメンが婆さんをめがけてボウガンを放つ。
そんなもん持ってやがったのか。
だがナイス判断だ。
不意討ちで放たれた矢だったが、地面から土の壁がせせり出てきて阻まれてしまう。
「はっ! 無駄だ! お前らの事は調べ上げてある! パーティの半分近くが療養中って事も! G級の足手まといが二人もいる事もな!!」
……だから、『幌馬車』は隣町への輸送なんて短い距離での依頼を受けていたのか。
「ババア、さっさと化物を呼びな! 行くぞお前らぁ!」
「フェッフェッフェッ……【昏き瞳は封じられし混沌の闇……】」
ババアめ。
なんかヤバそうな詠唱を始めやがった。
しかし短期決戦に持ち込まれたのはこっちのほうか。
「行くよ皆!」
「クソがっ!」
互いの掛け声が、そして詠唱が戦いの合図となりそれぞれが動き出す。
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