第5話 パートナー
なんやかんやで館でメイドとして学んだ丁寧な給仕と持ち前の笑顔であっという間に人気を掴み今にいたる……と。
「おいマリー、この子一人でもなんとかなるんじゃねえか?」
「奇遇だな。アタシもそう思う」
「あ、マリーさん! 用事は終わりましたか?」
「ああ、一応な」
「それでしたらマリーさんも一杯どうぞ! なんだかよく分かりませんが、あの人の奢りだそうですよ!」
見るといかつい男がしょんぼりとした顔をしている。
アイツは適当な奴に絡んではたまにボコられてるE級冒険者、通称『ウザ絡み』じゃないか。
あいつなら別に良いや。
「エリー、アタシも飲みたいが少し話がある。向こうまで来てくれ」
「おう、俺達のエリーちゃんを取るんじゃねぇぞ」
「そーだそーだ!!」
「ついでにお前もメイドになれ!」
酔っ払い共め。
いつからお前らのエリーになったんだ。
お前ら酒と蛮勇だけが友達だろうが。
だが、まあいい。
適度に注目されていい機会だから宣言しておくか。
「おうお前ら! アタシ達はこれから冒険者として世話になるエリーだ。姓はない! そしてアタシがマリア、マリーって呼んでくれて構わないぜ! よろしくな!」
一瞬酒場に沈黙が満ちる。
だが次の瞬間には歓声と拍手が起こった。
「おう、可愛いねーちゃん達なら歓迎だぜ!」
「エリーちゃんと冒険できるんですかー! やったー!」
「マリアちゃんも女同士よろしくねー」
「これは革命が起こる……。『写真家』を呼ばなければ」
最後のお前、革命って街の美人写真売買ランキングだろ。
盗撮スキル持ちごと後でボコるから覚悟しとけ。
なに、昔は世話になったよしみだ、手加減してやる。
手続きをしてくるぞ、と伝えてエリーの手を引いていく。
「マリーさん……」
「おう、悪かったな急に決めちまって。そうでもしないとアイツら止まらねーからよ」
「いえ、それは良いんですがマリアさんが本名だったんですね……」
あ、正式に名乗ってなかったな。
「あ、ああ、すまん。それよりこれからの事なんだが……」
「はい! 分かっておりますわ。冒険者として頑張ります!!」
適応が早いなおい。
早すぎて少し調子が狂うぞ
「こうなってしまっては選抜試験に間にあいませんもの。それに、冒険者としてなら魔王討伐メンバーの選抜で選ばれなくても、魔王と戦う術はいくらでもあるはずですわ」
「あー、それがだな……」
アタシは説明する。
エリス・バレッタという人間は魔物に襲われて亡くなった事になっていて、その証拠も出てきていると。
森の奥にはオークより強い魔物がいるので生きて帰れない事。
身分を騙るものがいるらしく、逮捕するように言われているので名乗り出ても捕まってしまう事。
「そうでしたか……。道理で私には身分を証明する物を一つも持たせて貰えないと思っておりました」
「ああ、という訳でエリス・バレッタと言う人間はもうこの世界に存在しない」
「なら仕方ありませんわ。私も名前を捨てて、ただのエリーとして一から出発します!」
「ほんっとうに適応が早いな!」
おやっさんも耐えきれずにツッコミを入れる。
アタシも同感だ。どう慰めようか考えていただけに、こんなに適応が早いと逆に困る。
「だって、本来なら消えて亡くなっている命ですもの。今こうして立っているだけでも奇跡に近いものです。それがこうしてマリーさんのほか、優しい皆さんと笑いあえるなんて素敵な事じゃないですか?」
何事もなかったかのように笑うエリーの中に、アタシは本当の強さを見た気がした。
「エリーは幸せになる才能を持っているな……。アイツらが優しいかどうかはさておき」
「でも捨てた名前とはいえ私の名前を騙る人にはお仕置きが必要ですね」
「いやお前だよ」
細かい所が微妙に伝わっていなかったようだ。
「それで……エリーはどうしたいんだ? 一応、冒険者じゃなくてこの街の給仕としてもやっていけると思うが」
細かい補足を終え、エリーに意思を確認する。
ここで給仕として働くならベストだ。
懸念していた復讐の可能性も多分ないだろう。
願わくば新しい人生を謳歌して欲しい。
「アタシの命を救ってくれたのはマリーさんです。マリーさんのご迷惑でなければ冒険者として貴方のお手伝いさせてくれませんか?」
即答してくるエリー。
その目に迷いはない。
……少し困ったな。
今までソロでもやってこれたし、これからも一人で行く予定だったんだが。
ニヤニヤ眺めてきてウザいおやっさんの視線を無視してアタシは考える。
現状、スキルのせいで俺自身の戦力が微妙になっている。
現にEランク級のオークにすら手こずる始末だ。
少なくともスキルの検証と魔法の理解を深める時間は必要に違いない。
その間一人で、と言うのは戦力的にも金銭的にも少し辛い。
そう考えると、これは乗っておくべきか。
「分かった。パートナーとしてよろしく頼むぜ」
そう言うとアタシは右手を差し出した。
その右手に対してエリーは片膝をつく。
「私エリーは貴方に命を救われました。そのお礼としてお側にお仕えいたします。」
アタシの手の甲にエリーは優しく口づけをする。
自然と上目使いとなったエリーは俺の言葉を待っているようだ。
「……えいっ」
とりあえず思いっきりデコピンした。
「痛っ! いきなり何しますの!?」
「それはこっちのセリフだ。パートナーとしてって言ってんだろ。アタシもエリーも対等だ、上も下もねぇ」
今のは家臣の礼かなんかだろ。
しかも男が女にするやつだ。
もっとフランクで良いんだよ。
アタシはエリーを無理やり立たせて改めて手を差し出す。
「それじゃあ……。えっと、よろしくお願いします。」
「おう、よろしくな」
おずおずと握った手は柔らかく、しかし強く握り返してきた。
「ハッハッハ、これにて一件落着ってか!」
なんでおやっさんが締めてるんだ。
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