第13話 悪魔2
本気になった悪魔は包帯の刃を再び飛ばしてくるがなんてことはない。
また炎で焼き払って……何!?
炎がかき消された!?
いや、違う。
焼き払えてはいるが、それ以上の数が突っ込んで来ているのか!
アタシは慌てて身を捻り、突っ込んでくる刃をなんとか回避した……はずだった。
「曲ガレ」
ギリギリで回避が成功して安心していたところで、アイツの一言と共に包帯が心臓の方向へと向きを変える。
マズっ……! 死……
その時、爆風が吹いた。
方向を変えた包帯鞭は威力がなくなっていたのか風で吹き飛ばされる。
魔法……いや、コイツには効かないんだったな。なんだ?
「大丈夫!? 私がスキルで支援するから、安心して!」
後ろからコリンの声がする。
そうか、あいつのスキルか。
なるほど、これで矢を防いでいたのか。
もしかすると風魔法の補助にも使ってるのかもしれねぇな。
風魔法か……
閃いたぜ。
アタシは風魔法を使い加速する。
同時に力が届く範囲で暴風を吹き荒らす。
再び距離を詰めると、炎を纏わせた剣で切りつけ、疾風で移動する。
包帯野郎を横から後ろから、踊るように切りつけてやる。
名付けて――
「ストームローズ」
暴風で威力が弱まった包帯鞭を加速した炎の刃で切り伏せる。
燃え盛った包帯が火の粉のように散っていく。
切って開いた傷口には追加で炎を送り込む。
またイケメンからの支援攻撃でちょくちょく矢が刺さっている。
おかげで心なしか黒い霧の量も増えているようだ。
「オノレ」
始めて包帯野郎が防御の姿勢を取る。
だが無駄だ。
切り刻んでやるぜ。
アタシは頭から斬りつけようと跳び上がる。
――その時、再び悪寒が走った。
マズイッ! 何か来る!
そう考えると同時に悪魔の腕から黒い棒状のモノが飛び出し、アタシの腹を突く。
「がはっ!!」
刺されると同時にアタシは風魔法で自分自身を後ろに吹き飛ばす。
くそ、腹と服に穴を開けやがって。
「マリーさん!」
回復魔法が後ろから飛んでくる。
ナイスだぜエリー。
お陰でかろうじて止血くらいは出来たようだ。
「そんな隠し玉持ってやがったか。」
包帯野郎は何も答えない。
代わりに包帯鞭が飛んでくる。
いけ好かねぇ奴だ。
黒い棒……杖だろうか。
その武器からは黒い霧が吹いている。
どうやらノーリスクで使える武器じゃないらしい。
先ほどと同じように炎と風で包帯鞭を掻い潜り、一撃をお見舞いしてやる。
距離をつめて包帯野郎の杖とアタシの剣を打ち合わせた瞬間――
アタシの剣が、折れた。
根本から折れた剣を敵に投げつけると、アタシは杖が届かない位置まで距離を取る。
包帯鞭は体術とファイアローズでかろうじて防ぐが、ジリジリと押され始めている。
氷魔法で剣を作って試すか?
駄目だ、すぐに砕けるに決まっている。
何ができる?
考えを巡らせていると、いきなり周囲が爆発した。
衝撃が内臓に響く。
なんだ?
何が起きている?
包帯野郎を観察する。
よく見ると、杖から深く暗い光を放つ球体を放っている。
大きさはピンポン玉程度。
「ファイアローズ!」
球体を遠距離で撃ち落とそうとする。
だが炎の鞭はすり抜けてしまい効果がない。
その球体がアタシの近くまで来ると、爆ぜた。
「がはっ!」
後ろに吹き飛ばされたアタシは口から血を吐く。
数は一つ。速さもない、むしろ遅い。
だが、それ故油断した。
……爆弾か。
アタシは包帯の周囲を周りこむように旋回する。
「無駄ダ」
爆弾が方向を変え、再び爆発する。
追尾性能まであるのか。
今のは上手く回避できたが、本格的にマズい。
「嫌がるレディを追いかけ回すとか、マナーがなってないやつは面倒だな」
軽口を叩くがダメージの蓄積と疲労で体が鈍い。
何より決め手に欠ける。
その時、空から風と共に武器が二つ、いや二本で一つの武器が落ちてきた。
かつて見た『魔女の刃』だ。
おそらくコリンのスキルで飛ばしたのだろう。
「サンキュー、コリン!」
アタシは振り返らずに全力でお礼を言うと、その武器を両手に収めた。
「さあ、延長戦と洒落込もうか。追加料金はテメーの命だ」
包帯鞭が飛んでくるが手元の刃で一撫でする。
すると、ほとんど切った感触もないままに寸断された。
いい切れ味だ、ほとんど重さを感じないところもいい。
炎なしでも断ち切れそうだな。
これならいける。
アタシは風魔法をつかい、空中に空気の塊を作ると、それを足場に蹴って移動した。
包帯野郎からは空を歩いてるように見えるだろう。
頭上から二本の刃を振るい、野郎の杖ごと斬りつける。
すると、杖から吹き出ていた黒い霧が一層大きく吹き出てくる。
「ウグ」
「おう、攻められて良い声で泣くじゃねーか。もっと聞かせろよ」
野郎はこの戦いで始めて苦しそうに身をよじった。
「オノレ」
「なんだ? お前、体がどこか悪いのか? ……安心しろ、この包丁で腹かっさばいてやるよ」
アタシは宣言通りに一本を思い切り腹を突き刺す。
抵抗なく突き刺さったその武器は、まるで血を吸うように黒い霧を吸い始めた。
「クラウガイイ」
身体を刻んでいると、何十、何百本と言う包帯が飛び出す。
それはアタシに直接向かっては来ない。
アタシの周囲を覆うように展開している。
「監禁プレイか? 悪いがお断りだぜ」
「コレデ、オワリダ」
周囲を囲むように展開されていた包帯は、アタシの動きを阻害するように包囲を狭めてくる。
ファイアローズと包丁で払いのけるが数が多い。
包帯の対処で追われているアタシに、包帯野郎は杖を向けてきた。
先端から先程の黒い球体が飛び出してくる
「なっ! クソがっ!」
回避しようとするが包帯が邪魔で逃げ切れない。
超至近距離で球体が爆発する。
「ッ! ガッ!」
アタシは吹き飛んで倒れてしまう。
まずい、包帯が来たら終わりだ。
……追撃が来ないことを不思議に思い相手の方を見ると、相手も黒い霧を吹き出し傷を修復していた。
……自爆技か。
なるほどな。
アタシは声にならない声をあげて立ち上がる。
体は鈍い。
だが闘志だけは鋭く燃えている。
今ならひとつ壁を超えられそうだ。
包帯野郎が再び包帯を周囲に展開し、杖を向けてくる。
先端には先程の球体爆弾が生み出される。
アタシに二度も同じ手を見せるんじゃねえよ、マヌケ。
アタシはその爆弾に包丁を優しく当てて切ると、切られた球体は、爆発することなく静かに消えていく。
「ナニ!?」
始めて動揺の声を聞いたぜ。
悪いな悪魔野郎。この包丁、なんでも切れる代償に呪われてるんだ。
野郎のすべての手札を封じた。
これであとは敵を刻むだけだ。
アタシは本体……を狙わずに、杖を切りつける。
「グオォ……」
悪魔が初めてうめき声を上げる。
今までにないほど、黒い霧が溢れるが、すべて包丁が吸い取っていく。
「お前さ、全然顔色変わらねえからさ、てっきり無敵かなんかだと思ってたよ」
包帯野郎が苦しそうにしながらも包帯を撃ち出してくる。
「違うんだよな。アタシは追い詰めてたんだ」
刻む。
包帯を。
そして仮初の肉体を
「お前、その杖が本体だろ?」
二本の包丁をハサミのように上下から杖に当てると、思い切り切りつけた。
杖にヒビが入る。
それと同時に野郎の苦しそうな声が響く。
更にもう一閃。
「オォオオオォッッッッ!!!」
野郎の悲鳴と共に、杖が砕けた。
同時に、全身から黒い霧が吹き上がる。
反撃はこない。
どうやら、決着はついたようだ。
「アタシはお前に切り札を使わせるほどまでに追い詰めてたんだ。武器が折れなきゃもう少し面白くなってたかもな」
「クチオシイ……」
「……じゃあな。包帯野郎」
悪魔の体は少しずつ黒い霧へと変わっていく。
やがてすべて消えてしまうのだろう。
だがアタシはケジメとして、首の左右両端から刃物を当てると悪魔ビ・フーの首を落とした。
……今度は傷が再生するような事はなかった。
悪魔という強敵を倒した事でアタシの身体強化の力が強化されていくのが分かる。
……やっぱりこの身体でも身体強化能力は発動してたんだな。
素のアタシの身体が弱すぎてわからなかったぜ。
アタシは安堵で膝をつく。
少し休憩を……
いや、まだだ。
アイツらの所に帰らねーとな。
アタシは無理やり膝に力を入れて立ち上がると、馬車の方向に向きを変え歩いた。
「マリー! 大丈夫か!?」
イケメンが声をかけてくる。
できればエリーかコリンが良かったぜ。
まあいいさ。
「ああ……。コリンとエリーは馬車の中か?」
「すまない、マリー」
あ?第一声はおめでとうだろうが。
イケメンはモテるからって女の子への気遣いが足りねーぞ。
「エリーがコリンを庇って背中を刺された。今はコリンが面倒を見ている」
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