第8話 共同依頼

今アタシはオークと戦った崖下に来ている。


「あったぞー、今から戻るから下がってな」


崖の上のマリーに声をかける。

探していたのは神官服の切れ端だ。

これをギルドに届ける。


二日もたてば魔物寄せの香も効果が切れているようだ。


『魔物に追いかけられていたので助けようとした。名前を聞くと依頼にあったエリス・バレッタだった。保護も含めて捕まえようとしたが逃げ出し死んでしまった』


筋書きはこんな感じで良いだろう。

あとはおやっさんにぶん投げる。

うまく処理してくれるだろう。


アタシはオークと戦った時のように力を込めると、土属性の力で崖の壁面を変形させ、足場を作る。

そして風属性の力で後押ししながら一気に駆け上がった。


「魔法って便利だな。念の為に用意してたロープがいらなくなっちまった」

「人前では詠唱してるフリだけでもした方が良いですね。外から眺めてると違和感があります」

「まあもし怪しまれたらスキルって事でごまかすさ」


服の切れ端を背嚢に詰め終えてエリーのほうを見ると、感慨深そうに崖下を眺めていた。


「ここでスキルを取得して、マリーと出会うなんて思ってもいませんでした」


「ん? スキルを手に入れたのか?」

「はい、ちょうどマリーさんが来る直前ですね。 私のスキルは『絶対運』です。なんだかすごく運が良くなるスキルみたいですね」


幸運系のスキルか。レアだな。

効果が地味だがいい仕事をしてくれる。


「このスキルのお陰でマリーさんと出会えたのかもしれませんね。これからは私がこのスキルと魔法でサポートしますので安心して下さい!」

「おう、ゲン担ぎくらいには期待してるぜ」


途中出てきたゴブリンを一刀で切り捨てながら話を続けてアタシ達はギルドに戻った。


この森に来たついでだ。

アタシが男だった頃に装備していた鎧は売っぱらうために拾っておく。



「というわけで失敗として処理しておきますねー」


ギルドの受付窓口にいくと、おやっさんの窓口が珍しく埋まってるので別の受付窓口で対応する。

新人の女の子だろうか? 初めて見る顔だ。


エリス・バレッタの偽物捕獲作戦は失敗で終わった。

理由は捕獲対象の死亡による任務実行不可。

したがって報奨金も無し。

しれっと生け捕り限定にしてる辺りがケチ臭いが、まあ良い。


これでエリーは住所不定の冒険者として自由の身だ。

あとは適当にEランクまで上げれば自由民としての地位が手に入る。

アタシと一緒に再出発だ。


「他になにかご用はありますか?」

「いや特に……ああそうだ。G級クエストを処理してきたから頼む」


アタシ達はギルド証を渡す。

ギルド証は付与魔法が使われており、討伐記録が記される様になっている。

ゴブリンをどの程度倒したかどうかで、G級の昇進に関わっているからだ。


……噂では殺した人間の数も記される様になっているとか。


まあ別に犯罪さえ犯さなきゃ、ちょっとくらい殺しても大丈夫だろ。

考えないようにしよう。


G級の昇給条件はゴブリン30匹だから今回で達成だ。

あとは素行調査の名目で10日待機してF級だな。


「分かりました。 ……手続き完了です! 一日でこなしちゃうのは凄いですね! こんなにちっちゃいのに」


ちっちゃいは余計だ。

まあいい。これで10日後にはランクアップだ


「やあ、君たちが噂のルーキーかい?」


振り向くとイケメンがいた。

糞が、顔面潰れて死ね。


「おいおい、そんなに殺気立った目で見ないでくれ。うちの酔っ払いから聞いたぞ。なんでも『ウザ絡み』を手玉に取ったとか」

「手玉に取ったのはアタシじゃなくてこっちだ。正しくは女将の方だ」

「始めまして、エリーです」


エリーめ、こんなイケメンに丁寧に挨拶しやがって。やはり顔は大事か?

アタシは昔を思い出しながら顔を触る。


「始めまして、エリーさん。とすると、コッチのほっぺたを手でこね回してるほうがマリーだね。よろしく」


なんだその変人みたいな覚え方は。

アタシは割と常識的な一般人だ。


しかし本当にコイツ誰だ? 見た事がある気がするからそれなりの古株だとは思うが。

くそっ、性格のいいイケメンには関わらないようにしていたのが裏目に出たか。


「アタシを呼び捨てにして良いのはエリーだけだ。つーか誰だお前? ナンパならヨソに行け。ゴブリンの巣とか」

「酷い言いようだね……。俺はチーム『幌馬車』の副リーダー、ジクアだ。よろしく」


ああ……あの荷運び専門のチームか。

ランクはD級だが任務達成率がかなり高い。


確かリーダーは女だったはず。

ライトグリーンのロングな髪と同じ色の目が印象的だったな。

たしか副リーダーとできているとか噂の……

コイツか!


「やはりお前はアタシの敵のようだ……。すまねえな」

「何故!? ま、まあいいや。今日はね、ギルドからの依頼で君たちと組む事になってるんだ」


チラリと、受付の方に目をやる。

視線に気付いた受付嬢は慌てて資料を漁っている。


「あった!ありましたよ! 『本日登録者のエリーとマリー、片方は素行に問題ありのため、上位冒険者と組んで素行を調査する事』なお、その際は気がつかれぬよう、細心の注意を……あっ」


コイツいきなり暴露しやがった。

……コイツの受付窓口が割と空いてる訳だ。


「エリーの素行が悪いわけないだろ。アタシが保証してやる」

「うん、これは重症だね」


このイケメンめ……

あー言えばこう言う姿勢がだいっ嫌いだ。


「仮に百歩譲ってアタシだとしても、アタシのはキレイな心から出たキレイな問題ある素行だ。それよりうっかりギルドの特記事項を漏らすあの受付をなんとかしな」

「あー言えばこう言う……。ここのギルド直々の命令だからそう簡単には覆らないよ」


おのれ、なんとかイケメンとの共同作業を回避する方法はないものか。


「マリーさん、ワガママはそこまでにしていい加減受けましょう。 ……大丈夫ですよ。スキルがそう言ってます」


小声でスキルの事を伝えてくるエリー。

まさかエリーからたしなめられるとは。


「おいマリー、ちょっとこっちきな」


同時におやっさんからも声がかけられる。

どうやら受付仕事が終わったらしい。

そうだ、おっさんなら事情が通じるはずだ。

無理を押し通して貰おう。


「本当は俺から話すはずだったんだがな。まさかポン子のところに行くとはな」

「ポン子?」

「しっかりしてるようでどこか抜けてるポンコツだからポン子だ」


ああ……。ギルドも新人の受付について把握はしてんだな。


「で、理由だがな。今のお前はどこかで死ぬ可能性が高いからだ」

「はぁ!?」


いきなり何言ってやがる。

毟るぞコラ。


「最後まで聞け。お前武器をかついだ時、重心がふらついてたぞ。武器の見直し、そして戦い方の見直しが必要だ」


……心当たりはある。

オークも一撃では無理だった。


「今のお前は剣だけなら元より弱い。武器と戦い方、根本から見直しが必要だ。今回は護られながら新しいスタイルを模索しろ。俺のカミさんとも相談した結果だ」


ぐぬぬ。悔しいが一理ある。


「本当なら最初ギルド証を渡す時に伝えるはずだったんだがな、どっかのバカが逃げ出したせいで伝えるのが遅くなった」


くそっ正論に正論を重ねやがって。


「と言うわけだ。そもそも下のランクが上と組んでイロハを教えてもらうことは珍しくねぇ。大人しく受けろ」

「……本音は?」

「お前の歪んだ性根を少しでも叩き直せれば良いと思ってる」


やっぱりかよ、チクショウ。

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