第28話 姫の護衛


「わ、私は、ロズマリアと言います。その、先程は装甲虫に襲われているところを、助けていただきありがとうございました……」


 一頻り泣きじゃくった女性は、真っ赤に目を腫らしたまま名を告げた。

 歳は二十代の前半くらいだろうか。地球では見慣れない紫の髪は肩の辺りまで伸びていた。


「お二人は、プレイヤーなんですよね?」


「ああ」


 ロズマリアの問いに、節也は首を縦に振った。


「実は私、天使なんです」


 ロズマリアがそう告げた直後、その背中から一対の羽が生えた。

 どうやら今まで羽だけを透明化していたらしい。


 しかし天使ならプレイヤーと組むことで戦える筈だ。祐穂から聞いた限り、装甲虫は初心者向けのモンスター。別に苦戦することもないだろう。


 どうして戦わなかったのか、尋ねようとした節也は違和感に気づく。

 ロズマリアのパートナーがどこにも見当たらない。


「パートナーは一緒じゃないのか?」


「そうなんですよぉ~~~!! 聞いてください~~~!!!」


 再びロズマリアは泣き出した。


「わ、私、パートナーにずっとこき使われていて……それで、逃げることにしたんです。契約を解消しようって提案はしたんですけど、聞き入れてくれなくて……」


 涙を流しながら訳を話すロズマリアに、祐穂が納得した様子を見せる。


「いわゆる、はぐれ天使ね。……こんな風に、事情があってパートナーと別行動している天使はそう呼ばれているのよ」


 節也に対して説明するように祐穂が言う。


「でも、よく逃げられたわね。普通は追いかけてきそうだけど」


「そうなんですよぉ~~~!! 私、追いかけられてるんですよ~~~!!!」


 ロズマリアが更に涙を流した。


「私のパートナー、大きな組織の一員でして……そのせいで、どこに逃げても居場所がバレちゃうんです~!」


 地面に座り込んで泣きじゃくるロズマリアに、節也と祐穂は顔を見合わせる。


「どうする、節也?」


「どうすると言われても……かなり困ってるみたいだし、助けてやりたいとは思うけど」


「まあ、そうよね。こんなところに放っておくのも寝覚めが悪いわ」


 溜息混じりに祐穂が頷いた。


「取り敢えず、カイナまで護衛しましょう。その後のことは、町についてから考えればいいわ」


「そうだな。……ええと、ロズマリアさんも、それでいいか?」


「全然OKです~~~! 何から何まで親切に、ありがとうございますぅ~~!!」


 こうして短い間ではあるが、ロズマリアの護衛が決定する。

 節也たちは早速、カイナへの移動を開始した。


「節也。折角だし道中の雑魚狩りは任せるわよ」


「ああ。丁度いい訓練だ」


 ルゥと同調して刀を手にした節也は、道中、襲い掛かる装甲虫を次々と倒していった。

 やはり四大貴天の力は絶大だ。装甲虫には最早、負ける気がしない。


(スキルに頼りすぎるのも、よくないか……?)


 ルゥの力は、攻撃範囲特化。

 その気になれば遠くにいる相手を攻撃することも可能だが――直接、斬った方が威力が出るに違いない。


 敢えて、装甲虫の接近を許す。

 ギリギリまで引き付け、直接刃が触れる距離で刀を振るう。


「――っ!?」


 装甲虫を斬った瞬間、節也は驚愕した。

 まるでバターを割いたかのような柔らかい感触だった。抵抗は一切感じない。羽を振るかの如き気軽さで、装甲虫の硬い身体を切断する。


(こんなに、強いのか……ルゥの力は!?)


 自分がどれだけ強力な武器を手にしているのか、改めて実感する。

 空の四大貴天、ルゥの能力は格別だ。


「節也、もういいわよ」


「……ああ」


 付近の装甲虫を片付けたところで、小さく息を吐く。

 少しずつだが確実に、戦いに慣れてきた。


「セツヤさんは、訓練をしているんですか~?」


 息を整えていると、ロズマリアが不思議そうに訊いた。


「ああ。実戦慣れしていないから、少しでも戦っておきたいんだ」


「そうなんですか~? とてもそうは見えなったですけど~」


「それはルゥが凄いだけで……俺はその性能に助けられているだけだな」


 思わず自嘲気味に節也は答える。

 しかし、ロズマリアはそんな節也に「ふ~ん」と相槌を打ち、


「頑張る男の子って、素敵ですね」


 そう言って、節也に身体を密着させた。

 その光景を見て、先頭を歩いていた祐穂は額に青筋を立てる。


「ちょ、ちょっと? アンタ節也にくっつき過ぎじゃない?」


「え~、でも私は守られている立場ですから、護衛の近くにいた方がいいんじゃないですか~?」


 妙に甘ったるい声で告げるロズマリアに、祐穂は拳を握り締めた。


「こ、この女……! ギルドをぶっ壊すタイプね……っ!」


 その例えが分かってしまう節也は複雑な顔で唇を引き結んだ。

 密着するロズマリアの身体は柔らかく、甘い香りがした。流石に動揺してしまうが、このまま放置していれば祐穂がぶち切れそうなので、距離を取るしかない。


 ロズマリアに離れてもらおうとした、その時――。


「セツヤ……敵」


 ルゥの呼びかけに、節也は気を引き締める。

 見れば丘の上から複数の装甲虫が接近していた。節也はすぐにルゥと同調し、武器を構える。


「なんだ、こいつら……動きが違う?」


 違和感を抱きながら、接近してきた装甲虫を切断する。

 直後、左右から二匹の装甲虫が迫った。


「ッ!?」


 まるでこちらの動きを読んでいたかのような反応。間一髪で装甲虫の突進を避けた節也は、すぐにスキルを発動して辺りの装甲虫を蹴散らした。


「節也、無事!?」


「ああ。しかし……装甲虫って、こんな統率の取れた動きもできるのか?」


「いいえ、本来ならできない筈だけど……」


 祐穂も違和感に気づき、焦った様子で周囲を見回す。

 明らかに今までの装甲虫とは動きが違った。死んだ個体を盾代わりに使ったり、囮を用意して戦わせている間に背後へ回ろうとしたりと、戦略的な動きが窺える。


 まるで、誰かに操られている・・・・・・かのような動きだ。


「節也、右を見て!」


 戦いながら、祐穂の声に従い右を向く。

 そこには、灰色の外套を身に纏った人物が佇んでいた。


「まさか……プレイヤーかッ!?」




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


本作を第6回カクヨムWeb小説コンテスト(通称カクコン)に応募しました。

本コンテストでは、読者の皆様の応援が結果に繋がります!


よろしければ、以下の☆☆☆を★★★にしていただけれれば幸いです!

コンテストとは関係なく、作者のモチベーション維持にも繋がりますので、よろしくお願いいたします!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る